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エリート先輩の異世界でも大魔導士【エリート】様伝説  作者: 史重
第二章 続きは異世界で待っている
17/24

各務氏 ギフトを知る田中は壊れる

 


 最初に気が付いたのは誰だったか。

 足元がすうっと冷えてきた。息を呑んで二人を見ていた全員が順番に異変に気が付く。

 かんかんに怒って各務さんに当たり散らすアマンダさんと。、くぐもった声で反論する各務さんを中心に、何かが渦巻いてギルドマスターの部屋を充たしているのだ。

 低くドライアイスがのたうつ様に床を這い、その冷気は骨まで染み入る程に冷たい。

 よく見れば渦の中心は各務さんだ。沸々と溜っていく怒りが具現化していくように濃密な冷気に誰もが危険と感じる。

「シ、シーラ。アレは大丈夫なのか?俺には違いが判りにくいが、アレは各務さんの魔力なんじゃないのか?

 各務さんは何をしようとしているんだ?」

 この中で一番状況を把握しているだろうシーラに声を掛ける。

 シーラはこの濃密な魔力に酔ったのか目を潤ませ息も絶え絶えに訴えた。

『非常に危険な状況です。

 この部屋は上皇グリンダ、アマンダが特別に作らせた部屋の為に魔力を外に漏らしませんが、今は、硬い箱の内部に高圧力をかけている状態と言えます』

「ま、まずいよねそれ。

 爆発したらどうなるのか考えたくない」

 ハード過ぎる無いように思わずノーバンで返す。真崎は聞き終える間も置かずに迫田と茂呂末を抱えて部屋から出す。そして自分はどこか喜々とした表情で戻ってくるのだ。安全と面白い事を天秤にかけたら後者を取る男。実にブレない。

 部屋を覗いていたキキとスーンはとっくに姿を消していた。

 俺も逃げたい・・・

「重たいのよ。寒いより暖かい方が私は好きなの」

 アマンダさんが腕の一振りで冷気を吹き飛ばす小さな竜巻を放つ。だが、竜巻が通った筋だけが霧散して通り過ぎたら元に戻る。逆により密度を増したかもしれない。『汲めども尽きぬ泉』だ。

「あったまきた!

 アンタ魔力の操作も出来ないの?精霊王の友もシーラも何をやっていたのよ」

 八つ当たりで土魔法の礫を機関銃のように打ちまくるアマンダさんを、ここに来て各務さんが怪訝な顔で見返す。

「この魔法?は貴女が使っているのもではないのか?」

 疑問に各務さんの気が緩むと、冷気が抑えられた。間違いなく各務さんの仕業(・・)だ。

「た・・セイジ君、そうなのか?

 私がこれを?」

 俺たちが散々見せてきた魔法の数々も、夫々の才能で得た物と言う納得の仕方で流し気味だった『パライソの現実』を、自分が無意識とは言え発動した魔法だと認識した各務さんは呆然としている。

 当然認識をしたのだから先ずは『否定』、そんな筈は・・・だ。それから畏れ、拒否反応が起こる。

 冷気は完全に霧散した。

「どういう事?

 こんな制御機関も無い暴走魔力の手綱を握れるの、シーラ」

 落ち着いたアマンダさんの声が、それでも鋭くシーラを打ちつける。

 シーラは俺たちよりも魔力に敏感だから、すっかり酔って真っ青な顔色をして蹲りピクリともしない。これは聞こえていないだろう。

「シーラは向こうで各務さんがこっちに来たらパニックになる~程度の話しかしていない。

 利用する気満々だったけど?」

 真崎がしれっと暴露すると、アマンダさんの綺麗だけど攻撃的な眉が跳ね上がる。

「何してんのアンタ!

 この出鱈目に膨大な魔力を、例え上皇候補だって言ってもまだ半人前のアンタに手綱が取れるわけないじゃない!

 この規格外が悪いんじゃないわね、砂糖漬けのような脳味噌だけどきちんと説明していればこんな無茶はしないでしょ?」

 最後は俺に聞いてくる。それにはしっかりと頷く。

 確かに各務さんは生活環境からしてこちらの人間よりは大甘だけど、世界が崩壊するレベルと言われれば手を引いただろう。自分の目的も異世界関係者の俺たちを頼ったに違いない。

 自分の能力を超える事案に無茶やごり押しはしない人だ。

 けれど、人の生態をそれ程熟知していないシーラに誘導させられる程に、各務さんは抱えているものがあった。そこを利用されたのだ。そして俺たちはそれを黙って見ていた。罪は誰の上に在るのかは俺たちだけが知っている。

「はああ。厄介だわあ」

 臨戦態勢を維持していたアマンダさんも力と言うよりは気が抜けたように吐き捨てる。

「ギルドマスター。何とか安定するような妙案はありますかね?」

 正体が人外であろうと、此処は彼女の公人としての立場を使おう。

「・・・面倒ね。例え大魔導士とはいえ呪音階から教えるのは骨が折れるわ」

 え?

「「「え?」」」

 この場に居た誰もが顔にはてなマークを貼り付けている。

「なんと、おっさいますた?」

 か、噛んだ。

「何って、貴方たちがギフトって呼んでいるでしょ?

 パライソに渡ってくる異世界の人間には必ず付与される職分?のようなものかしら」

 ケロリと投下された問題発言に、一同瞬間冷凍される。

「なあに?私を誰だと思っているのかしら。

 貴方たち人が作った玩具で出来ることぐらいできるわよ。

 鑑定って言うのよね?普段から使う事は無いけれどね。

 片田舎のギルドには必要が無いし?この国の人間は自分の子供がどんな加護を得るのかで一喜一憂するものだから生まれた時には教会で鑑定するでしょ。ギルドに来る年齢になってたら当然自分のギフトぐらいそれぞれ知っているから、自分から申告してくるわ。

 私ぐらいになると自分の力で見えるし、シーラはも少し段階を踏まなきゃ無理ね」

 事も無く重大な話をしているが、この御方は人外だった。しかも人の間では神々と同格扱いされる上皇。正確には複雑な力関係らしいが、ギフトを鑑定出来ることは間違いないらしい。

 だが、俺が驚いているのはソコじゃない。

「カガミさんが大魔導士と言うギフトを得られていると?」

 ここ重要なところ。

 現在パライソに於いては、魔法や聖魔法、精霊術を使える者がこの世界の趨勢を握っていると言って過言ではない。

 魔力こそ持ち得ないが、薄まった魔素をギフトによる体内機関等を経て魔法を実現化する存在は、それすらできない者にとって英雄化され、畏怖の対象ともなる。

 俺たちの世界のファンタジーなどでは、魔法使いや魔導士の定義は曖昧で同一視する向きさえある。

 だが、パライソでは魔導士と言えば魔法使いの上位者。大魔導士と言えばさらにその上の最上位者になるのだ。それは人の身ながら、神々始めとする太古の人ならぬ存在に近い者と呼ばれる伝説級。

 流石各務さんと言えば良いのかなんなのか。隣で勝田も呆れた顔をしている。

「そうね。

 何を間違ったのか、道理も分からない赤ん坊が人を大量に殺せる武器を持たされている。それを完璧の抑えることは私にも無理だわ。必ず綻びが出来て漏れる。その漏れた物も魔力の膨大さからすれば人には致命的だと思われるの。

 ギフトを使いこなすには一から教えなければならないわ。

 精霊王の友、貴方たちが死ぬ思いで覚えた呪音階・・呪言だったかしら?教えることは可能なの?

 こればかりは我々精霊も縄張り外の事になるから十分な支援は期待して貰っても困る」

 そんなことを言われても俺も困る。

 俺や他の奴らが法術を使うための媒体になる呪言を覚えたのは、実践の上でだ。適当に原理だけ説明されて、戦場に放り出された者の方が多かった。

 俺も最初に得た精霊キキは初めて人を焼いた時に出会ったんだったし、真崎が無効化を得たのも高熱の油を頭から浴びた時だと言っていた。その時一緒にいた兵士たちに気安い人間がいたらしく暫く引きこもっていたな。

 思い出すだけで気が遠くなる。

 そういう経験は為になるのかならないのか、ならないだろうな。

「俺たちが今より段階を上げて漸く魔導士になるので、見習いに親方の親方を指導できると思います?」

「そうよねえ・・・」

 アマンダさんも思案顔だ。

「こう言うことは王都の頭でっかちが得意なのよね。

 呼び寄せるか・・・こっちから行くか」

 ふむと唇を結んで考え込んでいる。

「た、セイジ君。何がどうなっているのか」

 珍しいへの字眉をした各務さんが俺の側に寄ってくる。

 初めて自分の力を垣間見たショックは結構凶悪だったらしく青い顔色をしている。

「ああ、もう全部バレバレみたいなんでアマンダさんの前ではいつも通りで良いですよ。

 この部屋から一歩でも出た時は気を付けて下さい。

 特にギルドで(たむろ)しているような輩は皆ハイエナなんで、声を掛けられても、そうだな自分はギルドマスター預かりなんでとか言っておいてください。それで大半は逃げ出しますから」

 フルネームは言わないようにと言っていたことを忘れていた。

「すごい言われようね。私は弾除け?」

 ふんと鼻を鳴らすアマンダさんに効果抜群ですよと指を立てる。

「まあ、一部厄介な連中もいるけど親文風吹かして自分ではギルドまで来ませんからね」

 各務さんが聞きたいことはソコじゃないんだろうけど、少し位は確信から遠ざかりたい。こんなポジション要らねえや。

「逃げても無くならないわよ。

 さっさとやりなさい」

 貴方は私の母親でしょうか。分かりましたよ。やればいいんでしょやれば。

「各務さん。この先何を如何(どう)こうするよりも先ずやらなければならないことがあります。

 貴方には立派な大魔導士になってもらわなければならない。そういうことです」

 大魔導士がなんであるかよりも、これからやらなければならない事、それにはここから離れなければならない事。そんな事を事務的に伝える。

 俺たち的には時間的ロス感が半端ないが、各務さんのこの絶賛垂れ流し中の莫大な量の魔力を、ギフトを使用し自分の内に収める事を覚えて貰わなければ、この部屋からも出られないだろう。

 ギフトを使用するという事は自分のギフトを知り、使用に耐えうる心身に身体を改造しなければならない。平たく言えば誰かに師事し、覚醒し、制御できるようにならなければならないのだ。

「あのう・・・その頭でっかちさん?は(せめて)魔導士さんなんでしょうか?」

 僅かな希望を込めてアマンダさんに伝手を聞く。

「ああ、絡繰り技師?ギフトはそうだったわ」

 職人?法術すら使えない人だよな。それとも魔道具職人か?

「悪いけどただの職人よ。副業にこの国の宰相をしているわ」

 国のトップスリーをただの職人とは言いませんよね。もうヤだこの人、オウチニ帰リタイ・・・

 


 熱いですね。暑いなんてレベルじゃないです。

 就職決まりましたがブラックのにほい・・・


読んで戴き感謝感激。

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