各務氏、異世界への扉を開ける
今回最短かな?ストックが切れますので、ここからは更新の間隔が長くなると思います。
待つこと20分。荷物の様な物は何も持っていないがどこか着膨れしているような二人に、止せばいいのに悪友が声を掛ける。
「あれ?太った?」
瞬間、目にも止まらぬ速さで拳が悪友の両頬に炸裂した。止める暇もあったもんじゃない。
「何か言った?」
「聞き間違いだよね?完次君」
返り血の尾を引きながら二人の拳が元に戻る。腰の乗った美事なアッパーだった、とだけ言っておく。
「もういいか?」
触らないぞ。サクサク進行ダ。
「ごめんね待たせて。
自分の分の下着だけでも持っていきたかったのよ。帰ってきた時身に付けたものは持ち帰れたじゃない?
あっちは女性も下着が無かったから。
ポケットには駄目もとで秀花の分も詰めて来たわ」
なぜ自分から言う?迫田。男に平気で言うのは男ト思ッテナイカラダヨネ。
「直接ズボンは確かにきついよな男でも。
俺も下着は持ってきた」
加わるな真崎。勝田、無理にコメントを考えるな。いいから。
ほら、各務さんが笑ってるよもう、緊張感が無い。
『あのう・・もうよろしいでしょうか?あと少しで星回りと風向きが変わります。
風の精霊王スーンが限界を訴えています』
申し訳なさそうにシーラが声を掛けてくる。
「あ、ごめん。
じゃ、もういいか?覚悟はどうだ?」
今更だけど全員に問う。安全なんて保障のできない世界だ。生還者だった皆も力を失って久しいし身体も変わった。何が起きようとも行くのか?
「当たり前だ早くしろ」
「今更だな。とっくにしている」
「行くよ、勿論。各務さんには感謝する。
積もり積もったこの恨み、倍返しどころか十倍返しだよ」
「「行くわよ!!」」
不敵に笑う奴ら。あんなに帰りたかったのに、あんなに戻りたくなかったのに、行くのか・・・当然だよな。この十年足らずの時間、後悔ばかりしていただろう。
残された設楽の事。生還した時に時間が戻ていて、死んだ筈の礼子が部活忘れるなと笑顔で帰って行った時の後ろ姿に、良かったと悪友が泣いた事。葬式の夜、ずぶぬれになった迫田が半狂乱で叫んでいた事。その時間差で来る死への追体験は完全に俺たちを壊した。
俺はパライソと行き来が出来ていたから、設楽と会うことが出来ていたからまだマシだった。
「忘れ物を取りに行こうぜ、十倍返しでな」
返す俺に真崎がサムズアップをしてくる。悪友は首に抱き着き、それを勝田たちが目を細めて見ている。俺たちは笑ってサークルに入った。
「各務さん」
そして各務さんに手を伸ばす。目を逸らさない強い視線。躊躇なく握り返されるその手を引いて、全員がサークルに入った。
『各務様、魔力をサークルに注いで下さい』
全員がサークルに入り準備が終わったことを確認したシーラが各務さんに当然のように頼む。が、各務さんはどうすれば良いのかと戸惑う風に俺を見た。
これだけの人間を無事にパライソまで転移させるには莫大な魔力が必要だ。各務さんに早速頼ることになる。
「各務さん。指先をサークルに向けて、全身を巡っている魔力を流し落とすんです。
皮膚を伝って、血液に混ざり込んで・・・何かが動いているでしょう?」
伝わるようにと考えながら各務さんにレクチャーする。
最初こそ戸惑っていたが各務さんの人差し指が何かを引っ掛けたようにくいっと曲がる。
「それです。どんな感じですか?」
人差し指と親指を摺りあわせ、見え無い物を凝視する各務さん。
「見えないけれど何かある。細い糸の様な・・・ロープ?」
Oh!初めてで魔力を制御できるのか。しかもロープってその太さの魔力を集めてるってことだよな。 出来る人って制限なんか無いんだな。遠い目をしていると、俺以外も何とも言えない表情をしている。
「それですよ。そのまま足元のサークルに流し落として下さい」
言われるままに各務さんがそのような動作をする。
瞬間、光が爆発する。
今まで経験したことの無いエネルギーが全身を打つ。
「シーラ!!」
目を焼く白光に、誰も見えなくなる。四方から呻きや悲鳴が聞こえるから生きてはいるようだが、辛い。
「シーラ!!」
再び水先案内人を呼ぶ。
光の向こうで何かが過り、シーラが歌う。
高く、低く、シーラから紡がれる呪言。
『道が開きます。
各務様、扉を!』
隣にいた筈の各務さんが目の前に居た。
シーラに導かれ、爆発的な光量の中扉が浮き上がっていた。
各務さんは誰に言われるまでも無く扉に手を掛けていた。軽い抵抗のあと扉は開かれていった。
初めての魔法!魔法少女じゃなくて兄ちゃん?
読んで頂き感謝感激。