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拝啓芥川様

作者: 籠蜥蜴

【拝啓 芥川様】


芥川様お久しぶりです。

外は雪が振りそうに風が冷たくなっていますがここ静岡市は土地柄、雪はなかなか降らないので今年もきっと降らないでしょう。

私としては白銀に広がる世界が好きなのでとても残念です。

突然のお手紙びっくりされたと思うのですがふと思い出したかの様に右手にはペンを握っていて文を認めていたのでついでにと言ってしまっては失礼になるのは重々承知の上、芥川様に先日あった不思議な話を手紙に指せて頂く事となりました。

不思議か不思議ではないかは人それぞれではありますが私の人生不思議な怪異現象というものは滅多に起きない故。

是非とも芥川様に見て頂きたくこの手紙を送らせて頂きました。

別にこの手紙を見ていなくても良いのです、出来れば見ていて欲しい、出来なくても見ていて欲しいですけど。


大分話が逸れてしまいましたが


うちの桃代が最近何を思ったのか突然に家出を致しました。

2日3日位空けることはあったのですが、

かれこれ一週間帰って来なかったので流石の私も心配になり色々近所の人達と桃代の行きそうな所を探し回ったのですがなかなか見つかりませんのでした。


途方に明け暮れ気がつけば夕暮れ時、流石の私もお腹の虫がうめき声を上げ始めました。

そう言えば駅前にあるたこ焼き屋に行ってみようと思い立った私は即座に駅前まで歩いて行きました。

駅前に着いた私は改めて気付かされたのですが、あれが欲しいこれが欲しい等と思った日に限ってその物がないと言う事に。

案の定、その日に限って儲かってんのか儲かって無いのかよく分からないたこ焼き屋さんが見当たりませんでした。

その代わりに儲ってなさそうなたこ焼き屋さんの場所に一人の老婆が勉強机程の大きさのテーブルを広げて座ってました。

老婆というのは失礼かもしれませんね、もしかしたら40歳過ぎで老け顔なのかもしれませんし、もしかすると老婆に変装した女子高生かもしれませんし、世の中難しいものになりましたね。

芥川様の時代にも女子高生という者は存在していたのでしょうか?

是非ともルーズソックスなる物をお教えしておきたい所存です。

あれを履くとなんとまあ絶対領域とのバランスがマッチングしていてお色気をそそられてる気持ちに陥ってしまうのです。

つまり魔物の履物とでも名付けて置きましょう。


それはさておき、その自称老婆Kがそこにテーブルを構えて座っていたので気になって話しかけて見ました。

Kというのはただ単に老婆だけというのも申し訳ないですし、老婆にも老婆で御名前があると思うので、何となく加藤さんみたいな顔をしてたのでKと名づけた次第です。


そのKに私は要らぬ勇気を振り絞ってお声をかけたのです


「あのう、柄の事をお聞きしますがこの辺に以前たこ焼き屋さんが無かったでしょうか?」

と、訪ねました。

すると自称Kはにこやかに


「えぇ、そのたこ焼き屋さんCなら本場の大阪で勝負したいと言っていたのでこの場を譲って貰う事になったのですよ」


ん?C?まさかこの人も私と同じ考えを持っている能力者でしょうか、と思うと遂に胸が張り裂けそうな気持ちになりました。

ですがここはその張り裂けそうな気持ちを抑えてKに聞いてみる事にしました。


「で、貴方様はここでテーブル1つ構えて何をやられてるのですか?」


するとKは右手を差し出しました。

そこに何か大切なものが握られているかの様でした。


よく見るとそこには七色に輝くハンドスピナーが大切に握られているでわありませんか。

ん?これは限定品か?

七色のハンドスピナーは当時非常に珍しく持っているだけで話のネタやちょっとした人気者になっていたそうです

そもそも芥川様の時代にはそんな物はなかったですね。

軽く説明致しますと

大体ぷらすちっくで出来ていてボールベアリングという素材のものがありその部分を指で持ち、はじくと遠心力効果で回転を始める。

そしてその回転を見ていると集中力が増したり気分が落ち着いたりと色々な効果があるみたいなのです。

多分物を見ないと分かりづらいですよね

失礼致しました。

話に戻りますね


Kは顔色一つ変えずに平然と


「私はこれで商売をやってるのですよ」

と言った。


何てとぼけた婆だ、と思いましたがそこを表情に出さないようにして様子を伺うようにしていました。

でも疑問のオーラを感じ取ったKはそのハンドスピナーを私に握らせ


「私はハンドスピナー占い師なのだよ」


とこれ程までに見た事のない真剣な眼差しで私を見つめてきました。


さて、この右手に握らされたハンドスピナーで何をしてくれるのでしょう?

私はそのまま黙って見ている事にしました。

するとKは「こうやって遊ぶのですよ」

と丁寧に遣り方を教えてくれたでわありませんか。


内心私もこの道具は一度触ってみたい願望が有りまして、どう言う玩具なのか気になっていたのです。

なんて感動なのでしょう

丸みのある部分を上向きに人差し指でひょぃっと弾けば不思議とモーター掛った様に廻り始めました。

それが人の力であるのに人の力で無いような気がしてならないのです。

これはいつ回転が収まるのだろうとずっと見ていたくなりました。

ですがなかなか止まりそうにありません。

3分位は見つめていたでしょうか?

次第にハンドスピナーは勢いをなくしてくると私の指が飽きたかの様に離れていきました。

ここらが不思議なのです。

一旦指を離れてしまったハンドスピナーが何故だが愛くるしく感じてしまい、拾い上げるとまた無意識のうちに回し始めました。

1回廻すとこれがまた病みつきになり、何回も遣りたくなってしまい永遠と続けられそうな気持ちになってしまいました。

何回かハンドスピナーが私の手元を離れていくのを繰り返していくと

はっ、と我に返りました。

Kをみるとニコやかな笑みで此方を観察するかの様に見ていました。


「して、探し者はもう近くまで来ているよ」


と突然Kの口からその様な言葉が流れてきました。

どうやら私がハンドスピナーに夢中になっている最中にその占いとやらが始まっていたのです。

でも私は何もKに対して一言も発していないのに私の悩み事が分かったのでしょう?


「占いとはそういう者だよ」


はて?

私は背筋がぞっとしました。

この人は人の心が読めるのか?

余りにも突然だったので言葉が出ませんでしたがやがてKがそんな私を察したのか


「私はね、昔から困ってる人の心を詠むことが出来るのですよ。最初は嫌で嫌でね、でも歳を重ねるに連れてこれは神様からの授かり物ではないか?と思ったのですよ。だから貴方を見た時に直ぐに分かったの、貴方は私を必要としているってね」


私は最初何がなんだかさっぱり分からなかった、

分からなかったなりにこの人は私を助けようとしてくれている、とだけは理解出来た。


暫くそこに立ち尽くしていました。

というよりKが何かを言い出すのを待っていたと言ったほうが正しいのかもしれない。


「私の探し者は何処にいるのですか?」


口を開くまでにとても時間が経過している様に思えたがやっと私言葉に発する事が出来た。

Kは安定の笑みで


「大丈夫、貴方の探し者は家に帰ってますよそろそろ瓦が冷たくなってくる季節ですからねぇ」


ん?瓦?何の事だろうと疑問にも思ったのだが、家に帰ってますの一言で何故か私は安堵した。

この婆を凄い信頼している訳でもないのですが、只々今の私にはこの言葉が一番の力になっていたのだ。


「何かいきなりですみませんでした、とても貴貴女の言葉に救われました。お代は如何程になるのでしょう?」


私が財布を取り出そうとした所でKの右手が私の顔の前まで伸びてきた


「お代は大丈夫ですよ、何よりも貴方様が救われたのであればそれだけで私は満足しております。逆に申しますと感謝をしているのです。最近はというと心配しない殿方様が多いと聞きました。それで私も少し心配になってこの駅前でこうしてテーブルを敷いて待っていたのです。まぁ婆の反抗期とでも言っておきましょうかね」


と言って婆は左手で長い裾を口元まで広げて隠していた

まるで笑っているかの様

只私には何の事を言っているのかさっぱり理解出来ずにいた。


思い出したかの様に再びお腹の虫がうめき声を上げました。


この桃代が帰って来ない間ソワソワ仕切りで殆ど何も喉に通さなかった呪縛が今解けたかの様に私はコンビニエンスストアに息が切れる程に全力でかけていきました。


本当は親子丼がよかったのです。


卵のふんわりした感触が好きで舌がそのふわふわ感を求めていたので、今日は親子丼が良かったのです。


案の定、親子丼は売り切れてました。


泣く泣く牛丼にしたのです。


ここのコンビニエンスストアの牛丼のぷりっとした食感が好きなのですが今日は親子丼の気分だったのでとても残念な気持ちになりました。

だからといって冷めてしまってはぷりっとした食感も残念な結果になってしまうのでそれだけは避けたかったのです。

なので足早に帰宅しました。

家につくと妻の梨花が

「今日から冷え込むから炬燵出しといたよ」

と言って洗濯物を干しに二階に上がっていきました。

一番風呂、という言葉が日本には存在しますが、一番炬燵、という言葉を作ったのは私でわないかと言うくらい一番に炬燵に入るのが幸せ感を感じます。


今年ももうこんな季節か


只何となくその炬燵に脚を入れるとモワモワっとした感覚がしました。


ああ、この感覚は桃代か――


「貴方の探し者は家に帰ってますよ」といった婆の言葉を思い出し改めて超能力というものに驚かされた。


ふと、炬燵シーツを捲ると案の定そこには桃代が丸くなって寝ていた。幸せそうに

ん?足元には幻覚だろうか、あの時のハンドスピナーが転がっていた。

そこで私は初めて気づきました、

ですが全然その事について驚く事はなく寧ろ其の出来事を物語に出来ないかと思い筆を取ったのです。


気がつくと窓の外には薄っすらゆらゆらと氷の結晶が空から浮遊してくるのが見えました。


芥川様、この話は最後になりますがもしこの手紙が芥川様に届いて居るのでしたら一言でも良いので感想を頂けると幸いです。


いえ、感想というのは贅沢かもしれません。


遠くから見守っていて頂けるだけでもこの手紙を書いたかいがあるというものです。


長くなりましたが

年末ご多忙の折ではございますが、お身体にお気をつけて良き新年をお迎えください。







最後まで読んで頂きありがとう御座いました。

一先ず書きたいものが仕上がったと言う事で自己満に浸っております。

これからもちょくちょく新しいものを書いていく予定なので楽しみにして頂けたら幸いです。


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