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最終話・桜、散る

 新種の情報は何も手元にない。そのせいでヒロト達は苦戦を強いられ、1人また1人と目の前で命を奪われていった。新種はとても賢かった。何人かの頭部を丸呑みにできる状態でいて、わざとヒロト達の前で生かしているのだ。


 その間に月夜の住人は次々に惨殺されていく。状況を把握できていない後方にいる住人は、前へ前へと前方にいる住人を地獄へ押していく。




「救いたいか?」




 奴の言葉は俺に対してのものだった。




「当たり前だろ!!」

「では、話せ。貴様の秘密を。そうすれば助けてやろう」




 返答に詰まった。それどころか、イヤな汗が毛穴という毛穴から噴き出てくる。こいつはいったい、俺の何を知りたいのだろうか。




「秘密ってなんだ」

「誤魔化す気かな? 君にとって、あの方々の命はどうでもいい、と。ほら、時間がない」




 北闇へ逃げようとする住人は、もうすぐそこまで来ていた。救おうと必死になるヒロト達もまたここまで押し返されてきている。




「隠している事があるだろう? ずっと、ずっと、胸の奥底に埋めていた、アレだよ」




 奴がにたりと笑ったような気がした。その瞬間、脳裏に悪魔が過ぎる。どくんどくんと忙しなく動く心臓、活発に動き回る一つ一つの細胞達、鼻から漏れる小刻みな呼吸。追い打ちをかける、フードの者。




「は な せ」




 強く目を閉じて、硬く閉ざされた口を無理矢理開いた。




「俺は……の……じゃない……」

「聞こえないな。住人を黙らせたいが、彼らには状況がわかっていない。すまないが、もう一度頼む」




 喉は渇ききっていた。人々の叫び声が鼓膜を直撃していて、なんとかして助けたいと強く思っても、それとは裏腹に俺の身体が拒否しているのだ。言いたくない、言うべきではない、これ以上の不幸を家族に与えたくない。そんな思いが俺の口を閉ざしていく。


 すると、フードの者はウイヒメの首を絞めて高く身体を持ち上げた。




「仕方がない。この子を先に殺すことにしよう」

「――っ、やめろ!!」

「待つのは好きじゃないんだ。早くしてくれ」

「わかった、言うからっ……。ウイヒメを解放しろ!!」

「ちゃんと喋れるじゃないか。さっさと吐かないと、首をへし折るぞ」




 父さんとヒロトが視界に入った。けれど、ウイヒメを喪うわけにはいかない。


 深く息を吸い込んだ。




「大声で頼むぞ。さすがにこの声は耳障りだ」




 息を吸う度に身体が震える。意を決して腹の底から声を出した。




「俺は……、俺はこの世界の人間じゃない!! 別世界から転生した人間だ!!」




 父さんとヒロトが勢いよくこちらに向いた。フードの者はしばらく黙って、それから片手を腹に添えながら笑った。




「なんだ、それ。聞きたかったものとは違うが……。そうか、お前はとんでもない奴だな。なおさら興味が湧いた」




 フードの者が新種に攻撃をやめるように言った。しかし、遅かった。そこに立っている者は、闇影隊を除いて誰もいない。全滅だ――。




「約束通り、救ってやったぞ。……と言いたいところだが、手遅れだったか」




 フードの者はウイヒメを隣に立たせ、頭を掴んで強制的に下を覗かせた。




「両親に別れを告げろ」

「父様、母様、姉様、みんな……」




 ウイヒメを救出しようと、俺は奴に言霊を放とうとした。こちらを視界に捉えながらも、奴は構わずに話し続ける。




「イヤ、か。子どもとは実に我が儘な生き物だ」




 もう一度、ウイヒメが俺に手を伸ばした。木の枝を強く蹴って、ウイヒメの手を掴もうとした。その下では新種が大きな口を広げて、俺が落ちるのを待っている。




「ああ、思い出した」




 フードの者が片手をあげると、マントがめくれて鋭利な爪が露わになった。奴は爪先が一点になるよう槍のように構え、ウイヒメの頭部を押さえつけたまま、彼女の身体に振り下ろした。




「この子を生かすとは、約束していない」




 次の瞬間、俺の耳から全ての音が消え、風の感触がなくなり、森の香りすら感じなくなった。


 赤い水玉が頬に、額に、手に当たる。


 男の腕はウイヒメの身体を貫通し、太い枝ごと地面へ叩きつけた。




「さあ、グリード達よ、帰るとしよう」




 マントを翻し、奴は何事もなかったかのように去って行った。


 ウイヒメの側で俺は膝から崩れた。横抱きにすると、崩壊したダムのようにして口から血を噴き出す。ウイヒメが弱い力で、小さな手で俺の腕を握って、俺の両眼を魂のない瞳で見つめた。




「ナオト……、死にたく……ないよ……死に……たくない……お願い……ナオト……死にたく……ない……もっと一緒に……」

「ウイヒメ……、ウイヒメッ……、ウイヒメェエ!!!!」




 ウイヒメは目を開いたまま息を引き取り、この世を去った。俺は絶叫した。声が枯れて発声できなくなっても、ウイヒメを抱きしめながら、怒りのままに、悔しさのままに、泣き叫んだ。


 その横で、ソウジが遺体の中から生き残りを発見した。


 それは、気絶したツキヒメだった――。

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