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第20話・北闇と月夜、衝突する

【月夜の国付近】


 タモンとナオトが新種と鉢合わせた頃。何台もの台車を引きながら、月夜の住人は闇影隊の護衛のもと、北闇へ向けて出発していた。




「あなたの息子さん、ナオト君。彼は立派ですな」

「光栄です」

「お世辞ではない。本心だ。色んな意味で私の娘2共が心を奪われているよ」




 マナヒメとウイヒメを横目に見て、カケハシはそう言った。


 彼らの背後に重度が現れたのは、山吹神社を通り過ぎた辺りでだった。巨犬と大猿だ。二体に気づいたのは精鋭部隊だった。全員に荷物を捨てて逃げるよう告げ、臨戦態勢に入る。しかし、二体は精鋭部隊を無視し、逃げ始めた月夜の住人を追い始めた。


 セメルが言霊を発動するも、いつもの威力は感じられない。セメルの言霊の能力は水だ。治癒能力は他の混血者と変わらない。西猛での傷がまだ癒えていないのだ。セメルが舌打ちをした。


 重度はまるで遊んでいるかのようだった。精鋭部隊やセメルの攻撃をかわし、逃げたかと思いきやまた戻って来て、追いかける。それの繰り返しであった。


 もし、ここに月夜の住人がいなければ、闇影隊は違う行動を取った。自国に近づけぬよう重度を引き離しただろう。しかし、死に物狂いで走る住人達は、誰もが一直線に北闇を目指していた。




「北闇へ向かうな! 誘導されているぞ!!」




 精鋭部隊の声は叫び声にかき消された。


 その頃、鍛錬場ではまた別の事件が起きていた――。







 正門を過ぎた辺りで、新種は立ち止まった。数にしておよそ40体が、北闇に入らず、こちらを見つめたままでいる。


 俺を下ろしたタモン様は、赤坂班を呼んでくるよう言った。すぐに鍛錬場へ向かった。本部に着くと、園庭は人でごった返していた。背の高い木に登って、その中で目立つ金髪を発見する。声を投げた。




「なんで外に出てるんだ!?」

「中にいやがった!! 奴らの仲間だ!!」




 ヒロトはこう説明した。皆が息を殺していると、急に一部が雑然と取り散らした状態になったそうだ。大衆の中にフードを被った怪しい者がいて、そいつは住人を人質に道を空けるよう命令した。中には闇影隊もいる。怯える住人を解放するよう決め台詞を吐くように交渉した。相手は何も答えなかった。


 そして、それは一瞬の間に起きた。




「――っ、そいつはどこに行ったんだ!?」

「正門だ!! 人が邪魔だ動けねえんだ!! 早く追え!!」




 奴は、人質を殺し、ウイヒメを浚って外へ出た。


 またタモン様のもとへ引き返した。しかし、ウイヒメの姿はどこにも見当たらない。タモン様に話すも、そんな者は来ていないと言われた。


 すると、新種を挟んだ向こう側にフードの者が現れた。奴はそこでウイヒメを解放し、姿を消す。新種が一斉に振り返った。




「マズイ……」




 タモン様がそう呟くと、新種がウイヒメを襲おうと我先に走り出した。俺の身体は勝手に動いた。ウイヒメが俺に手を伸ばす。新種を跨ぎ、奴らよりも前を走って、俺はウイヒメに手を伸ばした。そこへ、別の者が現れた。ウイヒメを浚った者と同じようにフードを被っている。


 ウイヒメを抱き、木の枝へ飛び移る。俺も同じように飛び移った。下では新種が木を登ろうと爪を立てている。


 タモン様が攻撃しようとすると、フードの者はウイヒメの首に自身の爪をあてがった。ぷつりと空いた小さな穴から血が滲み出る。




「やめておけ。この娘を殺すぞ」




 赤坂班と黄瀬班が加勢するも、奴は問題ないというかのように毅然とした態度を振る舞った。




「褒めてやるべきか。北闇に混乱を招いたのは、月夜の姫君、君だよ」

「私……?」

「盗み聞きはよくない。見てごらん、君のおかげで我々は無事に目的を果たすことができる。もうすぐ見えてくるはずだ」




 フードの者が別の方向に顔を向けた。




「ほーら、君の家族と仲間達だ。何やら慌てているようだね」




 その背後では、見覚えのある白い体毛と茶色の体毛が確認できた。二体は俺達の姿を確認すると、左右に分かれて森の奥へ去って行った。


 新種の目が月夜の住人に向いた。




「何をしている。さっさと始末しろ」




 フードの者がそう命令すると、新種が月夜の住人に向かって走り始める。赤坂班と黄瀬班が後を追った。新種は、ちょこまかと、まるで木を渡る猿のように不規則な動きで散らばって行動している。


 ハンターとは明らかに違う。まるで、闇影隊を錯乱させるかのような、こんな動きをするなんて。


 新種が先頭を走っていた住人に食らいついた。あまりの小ささに、こちらから見ると、北闇の闇影隊が月夜の住人を襲っているみたいだ。


 新種はヒロト達には目もくれず、命令だけをただ遂行した――。

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