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第19話・狙われたのは……

 朝を迎える頃、北闇を重度が襲った――。


 正門を突破され、町の中心部に向かって破壊行動を繰り返している。俺とヒロトは重度の攻撃による爆音と、人々が混乱する騒音で目を覚ました。


 荒々しく玄関から出て行ったヒロトは、家の前で倒れる伝令隊の姿を見て立ち止まった。伝令隊の両足は根元から千切れていて、腕の力だけでここまで来た事は、おびただしい量の血の跡が教えてくれた。


 息絶える寸前で伝令隊が言った。




「ウイヒメ様を……鍛錬場へ……」




 状況は最悪だった。青島隊長とイツキがおらず、何も知らないであろう月夜の住人と北闇の闇影隊がやって来る。加えて、昨夜の西猛での一戦で戦力は期待できない。そこで、ヒロトは戦闘へ加勢しに、俺はウイヒメの護衛に就くことにした。物陰に隠れながら本部を目指す。


 時折聞こえてくる重度の咆哮にウイヒメは何度も腰を抜かせた。実際に見たことがなくても、獣の声は恐怖を与えるに十分なほど太くて重圧がある。このままではウイヒメの身が持たない。




「おぶります。乗ってください」




 両足に自己暗示を最大限にかけて、本部までの道のりを一気に駆けた。崩壊し行く手を阻んでくる民家の屋根へ飛躍し、横出しになる電柱を避け、飛んできた瓦礫をスライディングで交わし、そうこうしながら本部に到着する。


 鍛錬場には避難してきた住人が身を寄せ合って震えていた。タモン様の姿もある。




「ウイヒメ様を連れてきました」

「よくやった。そこのお前、彼女を頼む」




 タモン様は精鋭部隊に声をかけた。




「ナオトも一緒じゃなきゃイヤだ!!」




 あやしていた時のようなタモン様の緩い表情はなく、目がつり上がり、きつい口調で咎めた。




「外の状況を見ただろう。ナオトは戦力だ、連れて行く」




 硬く口を閉ざしたウイヒメ。涙目で俺に向いた。




「必ず戻って来ます」

「絶対だよ!!」




 鍛錬場から出ると、重度は本部の近くまで進行していた。正門から迷うことなく一直線に本部へ向かっている。




「住人と部隊の避難は終わったのか!?」

「赤坂班が向かっています! それで最後です!!!!」

「お前達も中へ入ってろ! 後は俺がやる」




 タモン様は俺に着いてくるように言い、歩き始めた。俺の目のまで爆風に煽られる白い羽織。玄帝の字が刺繍されている。


 直ぐ側で民家が崩れようとも、すれすれに物が飛んでこようとも、タモン様はびくりともせず歩き続けた。粉塵の中へ足を踏み入れ、視界が悪くなろうともまるで気にしていない。堂々たる姿勢に、これが玄帝なのかと息を飲んだ。


 そうして重度の目の前で足を止めた。そこにいたのは、海に落ちたはずの猪だ。他には見当たらない。




「こいつか?」

「はい。顔の火傷、あれは俺の言霊です」




 前足で地面を蹴ってこちらを威嚇する猪。それを無視してタモン様が俺に振り向いた。




「前に話したな。国民を守るのは俺の勤めだ。その代わり、お前たちに外を任せている、と」




 入院した時、タモン様が俺に言った言葉だ。




「今がその時だ。俺が猪を食い止める。隙を見て、お前は月夜にいる部隊へ報告しろ。できるな?」

「はい!!!!」




 返事に対して頷くと、タモン様は猪に向き直った。


 道ばたに落ちている小石が宙に浮いた。タモン様の身体の表面からは熱を感じる。だけど、これは自己暗示ではない。なぜなら、タモン様の皮膚が赤ではなく黒っぽく変色しているからだ。その色は、やがて額にある黒点と同じ色に変わり、黒一色となった。


 そして、黒点があった場所からは角が生え、口の端から先が鋭く尖った歯が伸び出てきた。体つきは筋肉で膨張し、普段より何倍も膨れ、身長は2メートル以上にまで高くなっている。


 こんな生き物、昔話でしか見たことがない。




「鬼……」




 俺がそう呟くと、拳を力強く突き合わせ、猪の牙を鷲掴みにした。巨体は簡単に持ち上がった。




「何をやっている!! 今だ、行けぇえ!!」




 猪が笑った。




「月夜へか? その小僧を走らせたとて意味はない。小娘が盗み聞きしていたことくらい、あの方は見抜いている」




 猪を放り投げると、巨体は宙で体勢を整えて地面へ着地した。




「わしの役目は終わった。……もう手遅れぞ、北闇の玄帝、タモンよ」




 猪が一歩、二歩と後退する。




「待て!! なぜ西猛と北闇を襲った! 狙いは何だ!? 走流野家か!?」

「…………貴様と直にやり合えばわしとてこんな傷じゃすまん。さっさと引かせてもらうぞ」




 くるりと方向を変えて猪が走り出した。その後を急いで追いかけるも、森に入ったところで姿を見失う。




「あんな巨体、どこに隠せるんですか!?」

「赤坂班の時と同じだ。目の前にいた大猿が急に姿を消したと言っていた。……戻るぞ」

「でも、俺は月夜へ行くんじゃ?」

「……あいつは俺の質問に対して何も答えなかった。そういう意味なんだよ、ナオト」




 お前を外へ出したのが間違いだった――。そう言って、タモン様が俺を俵担ぎにした。直後、茂みが一斉に左右に揺れる。現れたのは、ハンターの皮を被った化け物だ。


 デスが言っていた意味はこれか、と納得した。言葉通りだ。そして、月夜でハンターの死体から採取したトゲの正体もわかった。


 奴らの背中には、多くのトゲが、まるで背骨のように生えている。

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