表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
93/316

第18話・最弱、束の間の休息

 他の国の闇影隊が増援で駆けつけた頃。同じタイミングで赤坂班が戻って来た。大猿を見失ったそうだ。西猛へ戻る途中で北闇の伝令隊と鉢合わせたらしく、全員に帰国命令がでたと赤坂隊長から告げられたのは先程のこと。


 父さんと赤坂隊長は増援部隊に引き継ぎをし、そうして俺達は月夜へ急いでいる。


 イオリは不安そうだ。




「女王様、無事かな……。――っ、さっき送ったばっかなんだぞ!」




 かくして、俺も不安であった。西猛の国が半壊されたほどだ。小国である月夜の国はひとたまりもないだろう。


 月夜の国は、北闇と西猛の間に位置する。時間はかからずに辿り着いた。今のところ被害はなさそうだ。


 朝日が昇ってきた。赤坂隊長が天野家を訪問し、俺達は外で待機する。玄関から顔を覗かせたお手伝いさんは何事かと驚き、事情を伝えると慌ててカケハシを呼びにいった。


 寝起きなのか、カケハシは半目で対応している。しかし、それも束の間。




「ウイヒメが……? ウイヒメ!?」




 愛する我が子の名前を聞いて覚醒したらしい。




「ウイヒメは無事なのか!?」

「タモン様は保護していると聞いております」

「聞いているとは、どういう意味だ?」

「俺達は西猛を襲撃した重度の討伐へ出向いていました」




 全員の顔を確認するようにカケハシが闇影隊に顔を向けた。




「……こちらで応急手当をしよう。中へ入りなさい。話しはそれからだ」




 赤坂隊長が間に入る。




「いえ、お気持ちだけ受け取ります。今のところ不審な点はなさそうなので、別の部隊が到着しましたら一度北闇へ戻ります」

「そうか。それで、西猛の被害は?」

「復興を終えるまでは国として機能できないかと……」

「なんということだ……。私はどうすればいい?」

「タモン様からの指示はこうです。……月夜の国の住人を北闇へ避難させよ、と」

「小国といえども、簡単に避難できるような人数ではないぞ」

「ご安心を。光は乏しいですが、北闇にはもう一つ国がございます。ですので、一刻も早い支度を」




 話している時間はないと言わんばかりに、赤坂隊長の言葉にはどこか危機感を抱かせるような脅迫にも似たものがあった。


 天野家の使用人が忙しなく動き回っていると、そこへ別部隊が合流した。帰国するとの命令が赤坂隊長から告げられる。




「あの、手伝うために残ってもいいですか?」




 赤坂隊長の顔を見ることはできなかった。俺の視線はずっと月夜へ向けられている。




「不安のはウイヒメ様も同じだよ。彼女、ナオトが戻ってくるまでは何も食べないって、タモン様を困らせているみたいだから。俺としては、早く会ってほしいんだけど」

「ですが……」

「それに、いくら治癒能力が高いからって、ナオトだって満身創痍でしょーよ。ここは一先ず帰って休もう。その身体だと、いざという時に動けないぞ?」

「わかりました」




 納得はできないけれど、仕方がない。父さんが残るということで、渋々ながら帰国した。







 青島隊長の安否が確認できていないため、青島班からの報告は俺とイオリで行うことになった。執務室の扉を開けると、そこには両手足を使って暴れるウイヒメを必死にあやすタモン様がいる。なんとも珍しい光景だ。




「ナオト……」




 俺の顔を見るや泣きながら飛びついてきたウイヒメ。




「無事で安心しました」

「うんっ……。ナオトも怪我してなくてよかった」




 治癒能力に感謝するべきだろう。


 一緒にご飯を食べる約束をし、ウイヒメには退室してもらって、報告に入る。先に青島隊長とイツキの事を伝えるべきだろう。




「死亡の確認は?」




 代わって赤坂隊長が答える。




「できていません。いずれ、コモク様から伝令隊が送られてくるかと」

「あの荒波だぞ。どこかに打ち上げられない限りは発見は不可能だろう……」




 壁に背をもたれて、タモン様は深いため息をついた。




「んで、重度はどうなった」

「一体はイツキが捕獲したようです。しかし、海の中です。もしイツキが死ねば、言霊が解かれ逃亡するか、沖に上がれず死亡するかのどちらかでしょう。それと、もう一つ。東昇が討伐したとされる猪が出現しました」

「確かか!?」

「はい、あの大きさは重度で間違いありません。重度は同じ種で複数体いるということでしょうか?」

「いや、それはない。交合が可能ならとっくに人類は重度に喰われている。これは王家の調査で明らかになっていることだ」

「東昇が間違えたと?」

「討伐したのはあの五桐ハルイチだぞ。判断を誤ったのは蒼帝だろう。王家へ報告したのはあいつだ」




 五桐ハルイチ――。上級試験を受けていた子だ。長髪で扇子を持っていた姿が印象に残っている。


 赤坂隊長を執務室に残して、青島班は束の間の休息を命じられた。イオリは自宅へ帰り、俺はウイヒメを家に招いて食事の用意に取りかかった。ヒロトも手伝ってくれて、見た目は悪いけれど、簡単な朝ご飯を食卓へ並べた。




「天野家ってやっぱ朝ご飯も豪華だよな? これって食えるのか?」




 出来の悪さにヒロトが毒味をする。




「まあ、悪くはねえか」




 目を輝かせながら朝食をガン見するウイヒメに俺達は思わず笑ってしまった。そうして3人で手を合わせて「いただきます!」と元気よく声をだす。


 予定では、明日の昼頃にカケハシ達が北闇に到着する。それまでに鍛錬場の整備を手伝い、迎え入れる準備をするそうだ。青島班も参加することになっている。


 その日の夜。ウイヒメが眠ったのを確認してから、ヒロトと居間でゆったりとした時間を過ごした。ウイヒメは本部に泊まるはずだったのだが、本人が断固として拒否したため、俺の部屋で休んでもらっている。きっと、精鋭部隊が家を囲んでいることだろう。




「好かれてんなあー。本物の妹みたいじゃねえか。可愛い子だよな」

「イオリは天使ちゃんって呼んでる」

「ぜってーにそんなあだ名では呼ばないけど、まあわかるわ。弾けんばかりの笑顔で笑ってくれるし、怒るときも遊ぶときも全力だしよ。俺達もあんな感じだったよな」




 居間に寝転がって、天井をぼーっと眺めながらヒロトは幼い頃の記憶に浸っていた。




「仲直りってことでいいよな?」

「だな。冷たくしてごめん」

「俺が悪いんだって。怒鳴っちまったりしてごめんな。試験前だったから気持ちが高ぶってたっていうか、怖かったのかもなー」

「ヒロトが? 怖いなんて思うことあるの?」

「あるに決まってるだろ」

「よく大猿を追いかけられたな」

「重度とかハンターを目の前にしてもちっとも怖くなんかねえ。そうじゃなくて、俺は家族を喪うことが怖いんだ。爺ちゃんも消えた、母さんもいねえ。親父は平気だろうけど、でもお前は? ってつい考えちまうんだ。試験の時だってそうだ。お前の声を聞いて、俺がどれだけ焦ったか知らねえだろ」




 ふと、訓練校に通う前を思い起こした。


 俺達は「呪われた双子」だとよく喧嘩をふっかけられ、それが自分のことだと理解していた俺はいつも怯えて暮らしていた。母さんのお腹にいなかったのは俺だ。だから、ヒロトは違うのだと、あの言葉は俺に向けられていると、耳を塞いで縮こまっていた。


 けれど、ヒロトはいつだって立ち向かった。その背中に幾度となく救われてきた。


 ヒロトが目指すオウスイとトアの昔話。だが、それ以前に、俺のそういった態度がヒロトにある種の感情を植え付けてしまったのかもしれない。守らなきゃいけないという、正義感を。




「1人でも大丈夫だなんて、口が裂けても言わない。だけど、俺はもう平気だよ」

「ああ、わかってる。今回の西猛の件で思い知ったわ。それによ、ウイヒメがあんなにナオトじゃなきゃダメだってなるんだ。お前はちゃんと人を救ってんだな」

「なんだよそれ、恥ずかしいこと言うなよ」

「……あとさ、青島隊長とイツキ。きっと無事だ。あの2人が死ぬだなんて考えられねえ。な?」

「うん、そうだな」




 それから俺達は他愛ない話で盛り上がり、夜も更けてきて、それぞれの自室に入った。


 俺のベッドの上ではウイヒメが眠っている。壁側に寄ってくれているので、そっと隣に潜り込んだ。




「ナオト……」




 寝言のようだ。


 夢の中にまで俺がいるのかと、胸の奥をきゅんっと締め付けられたのは言うまでもないだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ