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俺の家族が全員最強でした――。チートは問答無用でフルボッコ!  作者: 犬丸
SEASON・1――/第一章・少年期編・1
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狙われた最弱・4

【会議室】 


 事件後、走流野セメルは上層部に家族全員の休暇を揃えるよう申請をだした。


 理由を尋ねてみると、セメルはこう言った。




「息子達が入隊を果たした今、アレの扱いを学ばせようかと」




 その中には、ヒロトとナオトの班を率いる隊長、青島と赤坂の姿がある。つまり、決定権はこの2人にあるわけだ。双方考える間もなく首を縦に振ったのは、重度の出現があったからだろう。


 他の者達は、大いなる期待の眼差しをセメルに向けていた。訓練校からの報告書に目を通していたからだ。ヒロトとナオトは優秀な成績を残して卒業している。


 興奮を抑えきれず一人が尋ねた。




「お前の父親から受け継がれたその力、確かに息子達にも受け継がれているのか?」

「はい。アレの発現はこちらから引き出さなければなりませんが、身体能力が物語っています。二人とも、すでに性質を内に秘めているでしょう」

「混血者と同等の力……。あれは神から人への褒美だ。可能性があるのならば、一刻も早く〝言霊〟を開花させろ」

「許可を頂き、ありがとうございます」




 ❖




 走流野家の居間に、珍しく全員が座っていた。父さんから「大切な話がある」と言われたのは数分前のことだ。俺とヒロトは真剣な面立ちで父さんへ向いていた。




「今から話すことはとても大事なことだから、ちゃんと聞いて欲しい」




 頷いたのを確認すると、父さんは、序盤からとんでもない話しをし始めた。

 




「実は、ヒロトは1歳の時に誘拐された事がある。その時、父さんとお爺ちゃんは任務で国外に出向いていて、代わって救出に向かったのは母さんだ」




 突然の衝撃的な発言に、ヒロトはテーブルの上に乗っかる勢いで前を向いて、声を大きくした。




「ナオトは!? こいつは無事だったのか!?」

「色々あって、ナオトは3歳まで本部で育ったからね。タモン様や闇影隊も近くにいるから身に危険が及ぶ事はなかった。でも、あいつはまたやって来た。2人が8歳の頃だ。国内に侵入する前に阻止されたが、二度あることは三度ある」




 その三度目がフードの男の出現なのではないか。そこで父さんはしばらく沈黙した。その間に、俺は幼い頃の記憶を思い起こしていた。


 実のところ、俺がショートスリーパーになったのには理由がある。


 ある夢をきっかけに、俺は長時間の睡眠をとれなくなってしまった。その夢は現実のもので、俺が抱える大きな隠し事でもある。口を滑らせでもすれば、家族に多大な迷惑をかけてしまうほどのものだ。


 さらに最悪なのは、俺が〝生まれた瞬間からのことを全て覚えている〟ことだ。原因は不明だけど、俺が抱える悪夢に比べたらどうってことはない。だからあまり気にしないようにしている。




(とは言っても、これはマズいかもな……)




 ご存じの通り、俺たち兄弟は、呪われた双子だって噂されている。原因は、母さんや爺ちゃんが消えたからではない。これは後づけであって、本当の理由は、俺が生誕したからなんだ。


 驚くなかれ。出産時、母さんのお腹の中にはヒロトしかいなかった。それなのに、ヒロトの後に続いて俺が誕生した。噂によると、病んだ母さんは国を出て行き、爺ちゃんも後を追うようにして出て行ったらしい。


 そりゃ病むに決まっている。


 まあ、それはさておき。


 出産時からの記憶があるのだから、もちろん本部で育ったことも覚えている。迎えに来てくれた父さんが涙目だったことも、家に帰ると、爺ちゃんの後ろに隠れながら様子を伺うヒロトがいたことも、鮮明に。


 だけど、そこに母さんの姿はなかった。それどころか、写真や衣類といった、母さんを知る全ての手掛かりが家には存在していなかった。唯一知っているのは、爺ちゃんが教えてくれた髪色のことだけだ。


 あれは確か、双子なのにどうして髪色が違うのかを聞いたときだった。爺ちゃんは言った。「ヒロトの髪は、お母さんの遺伝だ」、と。


 それくらい俺は母親を知らない。しかし、それもこの瞬間までだ。父さんの口から母さんの話が聞けたことによって、ついに真実を知れる日がきた。




「母さんは、俺のせいで家を出たんじゃないの?」

「そんなわけないだろう」

「じゃあ、どうして消えたの?」

「それは父さんにもわからない。母さんはヒロトを正門に置いたまま戻っては来なかった。だけど、置いた姿を見た人はいない。あれだけ監視がいて、門番もいるのに、母さんは煙のように消えてしまった」




 北闇の居住区に入るには、まず巨大な門、〝正門〟を通過しなければならない。門は正門と裏門があり、居住区を囲うようにして四本一組の巨木で壁を築いている。敵の侵入を防ぐための大切な防壁だ。


 巨木の上は人が歩けるよう通路がある。そこに立っているのは大勢の監視員達だ。これにより360度を警戒し見渡せるわけだが、なぜだか母さんの姿を見た者は誰一人としていなかったそうだ。


 父さんは軟らかい目色でそう説明した。しかし、声は頼りなく震えているように感じた。まるで、渦巻きの中に心を浸しているかのようだ。


 俺はというと、ずっと胸の奥でしこりのように固まっていた罪悪感が消えていくのを感じていた。ヒロトから母さんを奪ったのが自分ではないとわかったからだ。


 父さんは「次は身体能力について話そうか」と、母さんの話を終わらせた。俺としてはもっと聞きたかったのだが、話しが逸れてしまうので口を閉ざす。




「2人はまだ無意識に能力を使っているから気づいていないかもしれないけど、自己暗示をかけることができるんだ。もっと速く、もっと遠くへ。そう強く思えば思うほど足は軽くなる。この力は混血者にもある。だけど、父さんは人間だ。混血者よりも体への負担は大きく、燃えたように熱くなった体のせいで死にかけた事もある」

(それって……)




 フードの男から逃げたとき、死にかけたわけじゃないけど、確かに体がカッと熱くなった。あれのことだ。


 暗示をかけられるのは自分にのみで、他の人には全く効果がないと父さんは続け、さらに言葉を紡いだ。




「それと、父さんたちには言霊と呼ばれる能力がある。自己暗示で身体の一部にエネルギーを集めた後に必要となる、いわば呪文のようなものだ。発動させるには強い念が必要で、しかし、時に最悪な結果を招く事もある」




 そこで、ヒロトが父さんの話しに割って入った。




「ちょっと待てよ、親父。話しが大きすぎてすぐに理解するのは無理だ。それって今話さなきゃいけねぇ事なのか?」

「もうお前達は一般市民ではなく闇影隊の一員なんだ。2人には少しずつでいいから理解してもらわなきゃならない。それに、言霊は自己暗示よりも重要なことだ」




 いつもよりも低い声でいて、父さんが目を細くする。




「例えば、人の死をイメージしてはいけない。言霊は使い方を間違えると簡単に人を殺してしまう。相手に対して少しでも哀れみや同情といった感情があれば別だが、もし仮に本気で死んでほしいと願った時……。相手は悲惨な死を迎えることになる。これは、〝絶対〟だ」




 言い終えるのと同時に、それが簡単なことではないと思い知る。なにせ、噂のせいで幼い頃から憎しみばかりを抱いてきたのだ。殺意など簡単に抱くことができてしまう。


 そしてなによりも――。つい喧嘩っ早い兄を盗み見た。




「それって難しいんじゃ……」

「どれだけ難しいことでも自由に使いこなせるようにならなきゃいけないんだ。仮に、ただのデコピンに言霊を与えるとしよう。指先にエネルギーを集中させて、技を発動させる。単純な動作だが、放たれた力の差を決めるのは感情だ。それに込められた念がどれほどかによって、相手が受けるダメージは大きく異なる」

「もしも、殺意があったら?」

「相手の頭は吹っ飛ぶ。そうならないために、父さんはこれから2人に言霊の使い方を教える」




 恐ろしい光景が頭に浮かび、盗み見ていた視線がヒロトに集中する。


 ヒロトは喧嘩っ早く、口も悪い。この年齢で不良だと認知されるほどだ。そんなヒロトが言霊を習得したらどうなるのだろうか。いや、考えるのはよそう……。


 余計な不安を抱く俺を他所に、ヒロトは疑問を口にした。




「そういえば、俺たちの能力は混血者に劣らない……って先生が言ってたけど、あれってどういう意味だったんだろうな。だってよ、あいつらは半獣化しない限り俺に勝てねぇわけじゃん?」




 確かにそうだ。彼らは、半獣化・半妖化しないかぎりは人だ。だからヒロトに喧嘩で負けた。


 少しの間を置いて父さんが答える。どうやら、これこそが最も重要な点のようだ。




「さっきも言ったけど、走流野家と混血者は似た力を持っている。そして、先生が言ったのは、身体能力のことではなく言霊のことだ。混血者は己の特技を生かして、言霊で力を与える。これは父さんがやっている方法となんら変わりない。ただ、彼らは半獣化、あるいは半妖化しないと言霊を使うことができない」

「……つまり、俺たちも病気ってことなのか?」




 ヒロトの声は静かに居間へ吐き出された。出の悪い水道水のようにして答えが俺の喉を通ってくる。




「俺たちも……じゃない。正しくは、俺たちのほうが、だよ……」




 理由はただ一つ。俺達の姿が人間であり、混血者ではないからだ。


 この現実に心が異様な感情に蝕まれた。輪郭のない黒い靄が広がり、次いでフードの男が頭に浮かぶ。


 力が欲しい。ユズキを少しでも危険から遠ざけられるのなら、悪魔にだって身を委ねる――。




「父さん、俺、やるよ」




 自然と出てきた言葉だった。今までとは違う、なにか新しい感情が芽生え始める。




「場合によっては大怪我をするぞ?」

「それでもいい。やらなきゃいけないんだ」




 父さんの目を真っ直ぐに見た。その横で、「やってらんねえ……」とぼやきながら部屋を後にするヒロト。止めなかった。むしろ、これでいいと思った。




「ヒロトには後で話すとして、ナオト。これで最後の話になる」




 しっかりと父さんに向いた。




「走流野家に生まれた子どもは、父さんを含めてこの薄紫色の瞳を持っている。とは言っても一家の歴史は浅く、お爺ちゃんと父さんと、お前たち2人の4人だけだ。父さんは任務で何度も国外に出向いているけど、同じ瞳の色をした人に出会ったことはない。おそらく、これは走流野家だけの体質だろう。その事で、父さんが小さい頃にお爺ちゃんからよく言われていた言葉がある」




 それは、〝薄紫色の瞳を持つ者は必ず命を狙われる〟とのことであった。これは母さんも知っていて、結婚したその時からよく聞かされていたらしい。


 実際にヒロトは誘拐された。数年前に奴はまた現れ、そして今回のフードの男。


 爺ちゃんの言葉は現実のものとなりつつある。

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