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第14話・最弱とツキヒメの約束

 急遽、北闇での宿泊が決定した天野家は、北闇の当主の家で旅の疲れを癒やしていた。そんな天野家を月夜まで送り届けるのは、俺を除いた青島班だ。俺はタモン様から国内待機を命じられているため、正門までしか送ることができない。


 帰る前に買い物をしたいと言い出しのはツキヒメだった。商店街を一緒に歩いて、店を一つ一つ見て回る彼女に着いていく。イツキとイオリは正門で待っているそうだ。そんな2人に、なぜだかツキヒメは頭を下げていた。


 かんざしや花飾りを売っている小物屋で足を止めたツキヒメ。目を輝かせる姿は女子そのものだ。




「わあー、これウイヒメに買ってあげようかしら。絶対に似合うわ」




 そう言って、桜の花で装飾された花飾りを手に取る。たしかに似合いそうだ。ツキヒメは「これも、あれも」と、ウイヒメへの物ばかりを手に取っていった。




「自分のは買わないの?」

「そのつもりだったんだけど、つい。いつもの悪い癖だわ。いつもウイヒメのだけ買っちゃって、自分のは忘れちゃうのよね」




 言われてみれば、ツキヒメが頭に何か着けているのを見たことがない。


 大量に小物をお買い上げになったツキヒメに、お店の人は深く深くお辞儀をした。その他にも歯ブラシや洗顔、部屋着や靴など様々な物を購入していく。正装派のツキヒメからは想像もできないような、俺みたいな一般人が好んで買いそうな物ばかりを選んでいる。


 ウイヒメと自分の分を買ったものだから、荷物持ちをしている俺の両腕にはいくつもの袋がぶら下がっている。もう平気だけど、一応これでも病み上がりだ。




「これでよし! 備えあれば憂いなしってね。行きましょう」




 満足したようで、ツキヒメは正門に向かって歩き始めた。しかし、まだ買い物は終わっていない。




「ここで荷物見といて。すぐ戻ってくるから」

「どこに行くの? 私も着いていくわよ」

「大丈夫。ほんの2・3分で終わるから」




 商店街を走って、すぐにツキヒメの元へ戻った。あまりの速さに驚いているが、それは商店街で買い物をしている人達も同じだ。




「すぐだったろ? それに、もっと修行に励むって言ったし、これで証明できたんじゃないかな」




 言葉に嫌味を込めると、思い出したのかツキヒメは顔を真っ赤にした。




「あの時の失言は謝るわ! 本音じゃないわよ」

「冗談だよ。さ、行こう」




 顔の赤みは一向に引かず、ツキヒメは俯いたまま後に着いてきた。戻りは俺が先導する。


 正門では青島班とカケハシ、そしてウイヒメが待っていた。「これ全部、お土産よ」と言って、ツキヒメは満面の笑みを浮かべる。ウイヒメは大はしゃぎだ。




「姉様のは?」

「あるじゃない」

「服とかじゃなくて、飾り! お揃いで着けたいのにー」

「ふふ、ごめんね。またウイヒメのだけになっちゃった」

「もー! 今度は私も一緒に買い物に行く! 姉様の選んであげるね」




 2人のやり取りを、カケハシは愛おしそうに微笑んで見守っていた。これが家族だ。あいつが言っていた家族とはかけ離れている。


 青島隊長のいつもの号令を合図に、青島班は出発した。背中を見送って、ズボンのポケットに手をしまい込んで帰路を行く。すると、指先にかさかさとした物が当たった。




「あ……、忘れてた」




 慌てて受付の人に声をかけ、急いで青島班を追いかけた。




「ナオトよ、どうしたのだ」

「すいません、ちょっといいですか?」




 ポケットにある物を取り出す。




「はい、これ。ツキヒメにあげる」

「え、私?」

「うん。たいした物じゃないけど、まあお礼だと思って」




 ツキヒメが袋の中にある物を手に取る。手の平にはピンク色の花飾りがあるけど、桜ではない。




「これ、月光花……」

「桜にしようか迷ったんだけど、ツキヒメのイメージじゃなかったから。色だけお揃いってことで」




 俺の肩にイオリがもたれてきた。気持ち悪いくらいニヤニヤしている。




「やるねー、こいつー」

「何がだよ」

「お礼ってなんの話しかしらー?」

「やめろよ、その言葉づかい」

「で、なんの話しだよ」

「ダイチのことで励ましてくれたから、そのお礼。じゃあ、俺戻るから。あんまり遅いと受付の人に怒られるし」

「ちょっと待って!」




 ツキヒメが荷物から物を出していく。そうして俺に手渡してきたのは空っぽの重箱だった。一瞬で人を魅了しそうな、高級感溢れる金と黒の重箱だ。




「これ、預かってて」

「え、なんで?」

「特例任務……。行くって聞いたわ。特例任務の後には休暇があるはずよ。その時、私が北闇まで取りに来るから。必ず持ってるって約束して」

「こんなことしなくても」「いいから! 受け取りなさい!」




 気迫に押されて重箱を恐る恐る受け取った。




「約束よ……」

「う、うん。約束する」




 再び帰路についた。家に帰って、自室にある机の上にそっと重箱を置く。どこにでもあるような子ども部屋にあるのだから、なんとも不釣り合いな眺めだ。


 それにしても――。




「あーあ、これじゃあ大怪我なんてできやしない」




 どうやら俺は軽傷を目標に特例任務に挑まなければいけないらしい。

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