第13話・不安定
「いやいや、あり得ねえっつーの。ナオトと重度が近い血筋って、そんな馬鹿な話しがあるかよ」
「俺を動かすのは記憶だ。こいつが俺の兄であることに間違いはない。確かに感じる。懐かしさと、愛おしさと、……そして寂しさ。これがいつの記憶なのか不明だが、ただ変だ。さっき見た記憶では、お前はもう少し幼かった……」
「そのもう少し幼い時期って訓練校にいた頃だと思うんだけど、やっぱあり得ないぜ。お前は北闇にいなかった。そうだろ?」
男は自分の年齢も説明がつかないと言った。俺が兄であるならば、自分はもっともっと幼いはずだ、と。一方で、俺とイオリは男よりも困惑している。
イオリの言う通りあり得ない話しだ。まず一つ、俺の家系に混血者はいない。二つ目に、ユズキは家族ではない。
いきなり、男は思い出したかのように焦りだした。
「何かがおかしい。俺は騙されているのか? あいつに確認しなければ……」
イオリの肩も限界だったのだろう。いとも簡単にイオリから逃れた男が指笛を吹いた。合図だろうか。
「どうやら増援がきたようだ。ここは一旦引かせてもらう。次に会うとき、俺は答えを持ってくる。答え次第ではお前を連れ去る。本当に俺の家族であるならば、北闇にいる必要はないのだから……。今度こそ手に入れる」
本当の家族を――。
そう言って、男は霧の奥へ姿を消した。同時に、身体から力が抜けていく。血が出すぎたようだ。俺は意識を手放した。
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目覚めたときには病院のベッドの上にいた。あの後、無事に北闇へ戻れたらしい。点滴を引っこ抜いて、病院着のまますぐに向かったのは執務室だ。タモン様に報告しなければと、懸命に足を動かした。
執務室には赤坂隊長とイオリの姿があった。
「ナオト!? お前、何してんだよ!」
「重度のことを話さなきゃと思って……」
「それは俺がやるって! ってかお前、さっき寝かされたばっかなんだぞ!?」
指を引っかけて襟を広げ、傷口を確認してみるももう塞がっている。
「うん、大丈夫みたいだ」
「だけどよ!」
タモン様が静かにするよう咳払いをした。
「こいつはそういう体質だ。気にしなくていい。動けるんだろ?」
「はい」
「ならば、話しに加われ」
全て話した。フードの男が話していたことを、一言一句間違いのないように。話が進んで行くにつれてタモン様の眉間が中心に寄っていった。俺自身もそうだ。
「……家族、か」
「妄想か何かでしょうか?」
「先にこちらでまとめた情報を話そう。フードの男と他の重度が繋がっている件についてだ。赤坂、ナオトにも説明してやれ」
「わかりました」
赤坂隊長がこちらに向く。
「山吹神社事件、覚えてる?」
「はい」
「あの場にいた重度と接触した。霧で見えなかっただろうけど、二体いたんだ。手を組んでいるってこと。だけど、巨犬を逃がしたのはフードの男じゃない。……つまり、他にもいる」
「――っ!? 大猿と、東昇の猪と、神社の巨犬……。フードの男も加えて、すでに五体ですよ?」
「逃がした犯人も含めたら六体か、七体か……。わからないね。しかも、新種に襲われた直後の接触だ。この一連はすべて重度に繋がっているのかも」
ここで、タモン様は俺の話しへ戻った。
「巨犬は、名指しでナオトを殺すと言ったそうだ。だが、その場にヒロトがいたにも関わらず反応を見せなかった。お前の顔を知らないで揺さぶりをかけてきた事になる。これは救いだろう。しかし、フードの男はまた違った反応を見せている。ナオトがお前の方だと知っていながら、殺さなかった。奴らは手を組んでいるが、目的は違う」
フードの男は俺を生かしただけでなく、他の重度に俺の素性を隠している。ならば――。
「あいつが言っていた家族って言葉に嘘はないってことですか?」
「断言はできん。お前の言う通り妄想かもしれん。だが、それにしては行動が明確すぎる。言霊を使ってまで捜していたのだ。なんにせよ、決定的な証拠がない」
極度の不安に押し潰されそうだ。そんな俺に、まだ打つ手はあるとタモン様が言葉を紡いだ。
目的が違うということは、例え組織で動いているとしても、根っこはとても脆くて不安定であるだろうと。潰すなら、今がチャンスだとも。
青島隊長とイツキが戻り次第、特例任務を発令するそうだ。その間に他国の闇影隊に協力を仰ぎ、しらみつぶしに重度を徹底捜索、及び討伐する。この時、新種が現れれば、新種の動きで重度側であることも証明できる。
「餌はお前だ。もしかすると死ぬかもしれん。まあ、だからこそ餌なんだな」
「どういう意味ですか?」
「孫の身に危険が及ぶんだ。ヘタロウが姿を現すかもしれないだろう?」
「もし現れなかったら?」
「それは二つのどちらかを意味する。あいつが死んだか、捕らわれているかだ。いいか、ナオト。あいつはお前達家族を大切に想っていた。嫌いで行方をくらませたわけではない。これだけはしっかりと頭に入れておけ。でないと、お前は変な方向に勘違いしそうだからな」
とにかく、今は傷を癒やすこと。タモン様とそう約束して執務室を後にした。
他国との特例任務は、あまり良い予感はしない。上級試験で思い知ったばかりだ。人は目的さえあれば簡単に他人を殺せる。不安定なのは、闇影隊も同じなのだ――。




