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第11話・脅威、再び

 眠れるわけがない。イオリを連れて、足音をたてないように静かに皆と離れた。


 適当なところで座り込んで、クロムの話しをした。帰り際に耳元で囁かれたあの言葉。彼はユズキを知っていて、さらには俺の名前まで知っていた。仮にユズキから聞いたとして、どうして俺に伝言を頼んだのだろうか。




「俺はユズキのことをよく知らないから、これといった事は言えないけど、光の子についての情報だけは集めといてやったぜ」




 どうやら、イオリはイツキから話しを聞いていたらしい。




「それで、なんて言ってたんだ?」

「リンと一緒にいて何か感じたかって聞いてみたけど、特に何もなかったってよ。俺のイメージだと、波長っていうの? お互いに惹かれ合う! みたいな感じになったのかなって思ったけど、ぜーんぜん。だとしたら、やっぱ気になるのはユズキとクロムの接触だよなー」




 なぜユズキは彼らに接触したのだろうか。彼らが強そうだから? いや、違う。話を聞いてくれそうな相手だから? これも違う。


 ここで、しっくりくる答えが見つかった。




(リンの身体に封印されてるって知ってたんだ……)




 だとしてだ。なぜイツキではなく、俺の情報を彼らに与えたのだろうか。そこで、ふと思い出したのはユズキの去り際の言葉だった。


 僕が動くのは僕達のためだ、と彼女はそう言っていた。では、クロムが言う「約束は守った」とは、いったい何の事なのか。俺に伝えたのだから、きっと俺に関係することだろう。


 黙りこくってしまった俺の顔を覗き込むイオリに、このモヤモヤの答えを知りたい、そう口にしようとした時だった。野営地から怒鳴り声のようなものが聞こえてきた。




「なんだ?」

「ここに来るまでにちょっとした口喧嘩があってよ。それの続きだろーな。多分、ソウジと誰か。試験は中止になったけど、生き残りで合否を出すらしいから」

「そんな説明あったか?」

「隊長達だけにな。それをどっかのお馬鹿さんがうっかり話しちまって、混血者に文句の嵐。凄かったぜー」




 ダイチが死んだからだ。




「いくらなんでも、無神経すぎるだろ」

「他の班も仲間を殺されたんだ。気が立ってるんだろ。全員無事なのって、青島班と黄瀬班だけらしいからな」




 話しながら、立ち上がったイオリは周囲を見渡した。目を細めて何かを警戒し始める。




「どうしたんだ?」

「ここまで霧が流れてきてる。急いで戻った方がいいな」




 たしかに来た時に比べて視界が悪い。三種の襲撃に備える必要がありそうだ。


 足早に戻ると、喧嘩の仲裁に入る赤坂隊長とヒロトの姿があった。ヒロトに羽交い締めにされているソウジは半獣化しており、尻込んだ相手は赤坂隊長の背後に隠れている。その合間にも霧はどんどん濃くなっていき、そして肉眼では捉えられないほどになった。


 そこに、予期せぬ事態が発生した。


 聞こえてきたのは獣の唸り声とハンターの囁き声だ。一瞬にして場は沈黙した。それも束の間、第一試験を鮮明に覚えているため、すぐに恐慌をきたした。


 あの脅威が、絶望が、脳裏に焼きついた生き地獄が再び繰り返されようとしている――。誰も言葉にはせずとも、そんな緊迫した思いが、空気が、そう叫んでいるかのようだ。


 俺は声を大にした。




「ウイヒメ、ツキヒメ! どこだ!?」




 イオリと背中合わせになりながら、必死に彼女達を捜す。


 濃くなった霧は視界を悪くしていく一方だ。どこにハンターや獣がいるのかも目視できず、迂闊に動けない。ただわかるのは、悲鳴すらあげる間もなく誰かが死んだということ。氷を噛み砕くような音で耳の奥に痛みを感じる。


 警戒していると、イオリが小声で話しかけてきた。




「みんな所々で集まって動けずにいるのかも。何か見えるか?」

「まったく……。ハンターだけならまだ打つ手があるけど、獣にはニオイで居場所がバレてるかもしれない。作戦を練らないと……」




 霧の奥に目を凝らした、その瞬間。


 暗さと、あまりにの速さで目視できなかったが、胸の辺りを鋭いもので抉られた。傷を目にすると途端に痛みが電気のように身体中を走り、ドクドクと溢れ出る血を手に取って膝をつく。


 これはハンターじゃない。予感が的中したのだ。




「バレてる……」




 斜めに引き裂かれた傷は三本あり、傷と傷の間隔で攻撃してきた相手の体長がある程度予測できた。大猿とまではいかないが、それ並にデカい。




「大丈夫か!?」

「俺のことはいい! 近くにいるぞ!」




 同じ場所でくるくると回りながら360度を警戒する。すると、霧を突き破って2本の手が伸びてきた。それは俺とイオリの頭部を鷲掴みにし、強く地面へ叩きつけた。




「見つけた、見つけたぞ。走流野ナオト!!」




 半獣化した暴れるイオリを、腕1本で押さえつけながら、そう言った奴はぐっと顔を近づけてきた。


 俺の目の前に現れたのは、フードの男だ。

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