第10話・最弱、面食らう
道中、数の減った仲間の背を見て悲傷した。41名いた北闇からの受験生は15名に減り、26名がこの世を去った。死者のなかにはダイチも含まれている。
乱雑に集められた遺体で山のようになった場所から、ダイチの残りの身体を探し出そうとした者達がいた。ソウジとその配下だ。周囲の響めきを無視して、顔に感情を浮かべることもなく、ただひたすら遺体を一つ一つ確認していた。
見つけてあげる事は出来なかったが、きっとあの中にダイチはいたはずだ。ダイチの身体はたった一部だけを残して、他の部位は亡くなった受験生の遺体と共に火葬された。
ソウジの腕には骨になったダイチの頭部が抱きしめられている。白い袋に収められ、彼の手で家族のもとに帰すそうだ。ダイチの頭を持ち上げたときの感触はまだ両手に残っている。
俺はまた後方を歩いている。その理由は――。
「ねえねえ、ナオト。試験が中止って何かあったの?」
俺の横を歩くのはウイヒメだ。
入院したとき、ツキヒメが置いていった手紙に、王家と共に試験を見守るとの内容が書かれてあった。本当に南光へ来ていたようだ。
気を遣ってくれたイオリとイツキがウイヒメを連れて前へ歩いて行き、青島隊長とカケハシとツキヒメと一緒に隊列に続く。
すごく天気は良いのに、皆の面立ちはとても暗い。
「こんな時に申し訳ない。本来ならば、南光の者が護衛につくはずだったんが……。犯人の目星はついているのか?」
青島隊長が首を横に振る。
「なにせ、目撃者はたった1人を残して全員の死亡が確認されています。報告は受けましたが、恐らく、新種でしょう」
「やはり、か。あんなに憂虞されるオウガ様のお姿は初めて見た。ただでさえ重度絡みでお忙しい身だろうに……。いや、これは本音ではないな」
「と、言いますと?」
「王家が何らかを隠蔽したのは確かだ。あの地下室が証拠だろう。それに、いくら世のためだとはいえ、国民の不安を煽るような言動ばかりが目立つ」
熱の籠もった空気が風に誘われて隊列を通り過ぎていく。
「試験開始前、青島さんも激励の言葉を受けただろう? たった一度しか証明されていない実例だというのに、大丈夫だと言わんばかりに自信を持って告げた。実際はそれと反対の事が三日月の森で起きてしまった。こう言ってはなんだが、今のオウガ様を王として認めることはできん。私はエイガ様こそが玉座に相応しかったと思っている」
「それはっ……」
「ああ、失言もいいところだ。しかしだな、前皇帝は国民に様々な情報を発信し情報提供を促していた。王家だけでは無理だと、弱点もあるのだと公に認めていたのだ。だから、愛され信頼も厚かった。エイガ様はそれに近い性格のお方であった。ところが、オウガ様ときたら……」
情報隠蔽に人体実験など、目指しているものがわからないとカケハシは言う。続けて、何かを恐れているように見受けられると、これまでの王家の動きに危惧の念が伴わざるを得ないといったような、影のかかった顔をみせた。
俺には理解しがたい内容だ。ツキヒメと同じ速度で、2人から距離を取った。
重苦しい空気から先に脱出したのはツキヒメだ。
「ナオトは平気なの?」
いつもと変わらず、きちんとした正装で、整った顔で心配される。
「全然ダメ。今回はショックが大きすぎる」
俺の視線はずっとソウジの背中から離れずにいた。ウイヒメがいてもこれっぽっちも癒やされることはない。
「他クラスとはいえ、同期なんだ。仲良くなれそうだったのに……。なんでっ……」
あんな悲惨な死に方をしなければいけなかったのだろうか。
「父上も謝ってたけど、私からも謝るわ。こんな時に本当にごめんなさい。月夜まで護衛だなんて……」
「それは関係ない。徹底駆除って感じで皆の目が血走ってたし」
「どんな生き物なの?」
「ハンターの皮を被った化け物だって聞いた。詳しい情報は後で回ってくるんじゃないかな」
いったい何から整理したらいいのだろう。俺は何の答えを欲しがっているのか、それさえも闇の中だ。
「ねえ、一ついいかしら」
「我が儘以外なら」
「失礼ね、そんなんじゃないわよ。私が言いたいのは、まだ何も考えなくていいってこと。事が起きたばかりだもの。今はただ、仲間を悼むだけでいいと思うの。じゃないと、ナオトの身が持たないわよ」
彼女の言葉に嫌味が一つもないなんて。そっぽ向いて耳を真っ赤にしながら、聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声でだけど、励ましてくれた。悪態ついていたツキヒメは夢だったのだろうか。
そこへ南光の精鋭部隊が駆けつけた。イツキに声をかけて青島隊長へと移動する。2人は南光へ戻らなければいけないらしい。
イツキが国外待機していたからだ。イツキは戻りたくないと言っている。
「何も情報はありません。そう伝えてください」
「王家命令だ、貴様に拒否権はない。それともなんだ、解決させたくないのか?」
「では、せめて青島隊長を残してください。ここには天野家の方もいます」
「ダメだ、部下だけなどあり得ない」
「リンって子がいるじゃないですか」
「彼女は応答に時間がかかる。いいから、来い」
赤坂隊長と黄瀬隊長に後のことを任せ、青島隊長は嫌がるイツキを引きずるような形で南光へ引き返していった。
そうして、しばらく歩いた。
「今夜はここで休む! ここら一帯は霧が発生するから、十分に注意するように」
日が暮れ、空に星が散り始めた頃。ようやく休憩を取れたのだった。




