第8話・新種、現る
「ひぃぃい! もう勘弁してくれよ! 前より最悪じゃねえか!」
イオリが叫ぶのも無理はない。俺達は今、ハンターが作り上げた巨大なドームの中に閉じ込められている。前回と同じく、どこを見渡してもいくつもの空洞の目がこちらを向いている状態だ。
レンが恐る恐るハンターの口元へ手を伸ばした。ハンターは微動だにしない。
「さっきから何が起きているわけ? なんでこいつらは俺達を喰わないの?」
「だっかっら! 混血者は喰わねえんだって! 人に群がるハンターばっか攻撃してたんだから、お前はわかってるだろ!」
「いや、そうなんだけどさ。青島班はこんな目にばっか遭ってんの?」
レンは動揺していた。気持ちはわかる。これで二度目の経験となる俺とイオリも混乱しているのだ。
なぜハンターがこんな行動にでるのか、これに何の意味があるのか皆目見当もつかない。ハンターと意思疎通が取れればいいのだが。
ここで、ハンターの隙間から外の様子を伺おうと動き回っていたイオリが、ふと足を止めた。
「ってか、おかしくね?」
「なにが?」
地べたに座り込んだレンは適当に返事をする。
「レンも言ってたじゃねえか。青島班はこんな目にばっか遭ってるのかって。なんでだ?」
「いやさ、赤坂班と青島班で月夜の国に行ったときも、青島班はハンターの苦手なものが水だって情報を持って帰ってきたわけじゃん。新しい情報も青島班。今まで解明されなかったハンターの性質が、ここ最近で2つもわかった。……うん、変だね」
2人同時に俺を見る。
「待って、俺がハンターと繋がってるって言いたいのか?」
「弟君、そこじゃないよ。さっき弟君に着いて来たハンターもそうだけど、ハンターは弟君に興味があるんじゃないの?」
「そうじゃねえよ」
ジロリとイオリに視線をやるレンは、お手上げだと言わんばかりに両手をあげた。
「じゃあ、なに? お答えをどーぞ」
「興味があるなら常にハンターが近くにいるはずだろ? だけど、あいつらは人間がいないと近寄ってこない。女王様が死ぬ覚悟で証明してくれたんだ、それは間違いねぇ。っつーか、なんでこれだけの数のハンターが三日月の森にいるのかって話しだ」
確かに、とレンが頷く。
「ハンターが興味を持ってるってのはなさそうだね。数体ならまだしも、ちょっと数が多すぎるか……。ねえ、君達はどこに隠れてたのかな?」
ハンターは「サチ」の一言しか喋れない。もちろん、返事がかえってくる事はなかった。それにしても、やけに静かだ。
「……皆、死んだのか?」
「やめてよねー、俺も今同じ事考えてた」
「右に同じ。っつーか、外が見えねぇ。そっちはどうだ?」
手分けしてみるも、二重になっているようで外は目視できなかった。そうこうしていると、ハンターのドームが崩れ始める。
イオリが頭上を仰いだ。
「あー……、またかよ。レン、身構えた方がいいぞ。こいつら、雨みたいに降ってきやがるから」
空笑いした直後、俺達は何百もいるハンターに押し潰されたのだった。
這い出てみて驚いた。内側にいたハンターは散り散りに茂みの奥へと消えていったのだが、外側にいたハンターは全滅していたのだ。死んだまま内側のハンターを覆っていたらしい。それだけじゃない、閉じ込められていたのは他の混血者も同じだった。状況も同じだ。
惨状を呈しているのは湖だ。ハンターは水が嫌いだ。なので、そこだけはドームがなく、水は真っ赤に染まっていた。全滅だ。
「なんで……死んでるんだよ……。ハンターは混血者を襲わない、そうだよな?」
イオリの声は震えている。
騒然とする場にデスが舞い降りた。彼は閉じ込められる前に脱出したらしい。クロムが走り寄ってくる。
「デス! 無事か!?」
デスの身体から羽やかぎ爪が消えていく。半獣化を解いたというよりは、解かれたような感じだ。彼の目は、動揺と恐怖が入り混ざったように酷く怯えた目つきをしていた。そこで、身体の一部がおかしな事に気がついた。思わず声をかける。
「デス、その右手……」
「あ……、やっちゃった……」
デスの右手だけ半獣化が解かれていなかったのだ。クロムが声を張り上げた。
「――っ、ずっと半獣化してたのか!?」
「だってさっ……、降りられなかったんだっ……」
顔をクシャリと歪ませて、頭を抱え込みながら座り込む。そんな仲間の姿を見て、クロムの怒りの矛先は北闇に向いた。
「てめえらの情報が間違ってたんじゃねぇのか!? 混血者も襲われてるじゃねえか!」
「違うよ、クロム! 情報を正しかった! 殺したのはハンターじゃないんだ……。アレは、アレは……」
ハンターの皮を被った、化け物だ――。
それだけ言って、デスは大声を上げて泣き叫んだ。




