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俺の家族が全員最強でした――。チートは問答無用でフルボッコ!  作者: 犬丸
SEASON・1――/第一章・少年期編・1
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狙われた最弱・3

 事件後、慌ただしい北闇のおかげで俺は初の休暇をもらうことができた。


 父さんとヒロトが帰ってきたのは、俺が居間でフードの男について思考している時だ。土足で居間に足を踏み入れる2人に、すっかり脳内の暗中模索はふっ飛んでしまった。


 国外任務は一週間前に終わっていたらしいけど、ドームが邪魔して中には入れなかったそうだ。


 話しを聞きながら俯く俺の顔を父さんが覗き込んだ。




「ナオト、いったい何があったんだ?」

「それがよく覚えてなくて……」




 咄嗟に嘘をついてしまった。父さんとヒロトの視線から逃げるように、畳の縁に視線を落とす。


 人ではないナニかと接触したっていうのに、まるでそんな出来事などなかったかのように俺は無傷だ。一方、ヒロトの戦闘服は傷だらけの泥まみれでぼろぼろじゃないか。


 おもむろに立ち上がり玄関に向かった。靴を履いていると、背中に父さんの気配を感じた。




「出かける前に父さんの話しを聞いてくれ」

「……なに?」




 父さんの声はどこか寂しそうだ。




「国に戻ってきたとき、まだ朝日が昇って間もないというのに、皆はとても混乱していた。それから、口を揃えて言ってたんだ。どうして自分たちは同じ行動を繰り返していたんだろうってね」

「…………行ってきます」




 身体が強張っていたせいで乱暴に玄関のドアを開けてしまった。すると、目の前には肩をピクリと揺らす男性の姿が。戦闘服を着ている。





「走流野ナオト、本部からの呼び出しだ」




 男の声が聞こえたらしく、父さんが顔を出す。




「おはようございます、ニスケさん」

「ああ、戻っていたのか」

「先程、帰還しました。それで息子に何か?」

「すまないが、こちらにも内容は伏せられている」

「じゃあ、これだけ教えて下さい。誰からの呼び出しですか?」

「タモン様直々に」




 父さんの全身が俺よりも目に見えて分かるほどに強張った。一方、俺も似たような状態にある。




「ナオト、本部に行くのだから今すぐ戦闘服に着替えてくるんだ」




 冷静を装っている父さんだが、このタイミングでの呼び出しだ。感づいただろう。今回の事件と俺が関係している、と。


 本部へ向かう足取りはとても重かった。なぜなら、そこに行けばユズキがいるからだ。




「あの、一つ質問してもいいですか?」

「なんだ?」

「タモン様ってどういう人なんですか? その、会ったことがなくて……」




 本部直通の石段を前にして、ニスケが立ち止まる。




「鬼のような人だ。絶対に怒らせてはならない。これだけ言えば意味はわかるだろう?」

「はい……」




 聞かなければよかった。


 石段を上がりきると、見渡すほどの和風庭園が出迎えてくれた。池の中では色鮮やかな鯉が泳ぎ、手入れされた木々では鳥が羽を休めている。その奥にある大きすぎる平屋の建物、あれが本部だ。ここには、青島隊長のような上官や、他国から使者、国を出入りする際に必要な通行書を発行するために訪れる一般人や商人しか来ない。


 つまり、用がない者は立ち入るな、ということだ。


 中に入ると、廊下を挟んで業種別の部屋が並んでいた。入り口近くにあるのは医療隊室と伝令隊室だ。医療隊室のドアには白い布、伝令隊室には青い布がぶら下がっている。ふと、ニスケの肩を見た。右肩に青い布が巻かれている。伝令隊らしい。




「タモン様、走流野ナオトを連れてきました」

「ご苦労。お前は下がれ」

「御意」




 入るように促して、ニスケは去って行った。


 ちなみに、タモンという人物、北闇の玄帝と呼ばれる偉い人だ。


 重たい扉を開けると、やはりそこにはユズキがいた。玄帝がいるというのに、敬意を払う気がないのか見事な仁王立ちでいる。態度の悪すぎる彼女に怒りを打ち消されてしまった。2人は睨み合っていた。


 そんななか、俺は初めて目にするタモン様を凝視していた。


 年齢は三十代半ばくらいだろうか。片手で赤い髪を掻き上げたタモン様の額に見えた、隆起する二つの黒点。鬼のような人だと言ったニスケの言葉を思い起こす。


 まんまじゃないか……。




「ようやく揃ったことだ。本題に入るとしよう」




 ピリピリとした執務内に、タモン様の声が静かに吐かれた。慌ててユズキの隣に歩みを進める。


 多忙なのか、とにかく執務室の中、とくにタモン様の仕事机の周りは汚い。本や書類が無造作に散らばっている。




「まず始めに、この国を呪縛から解いたこと、礼を言う。下級歩兵隊にしては大手柄だ。ユズキから詳細を聞いたが、お前にも確認したい」




 タモン様からの質問は、国民の言動や、外の様子。犯人の特徴や、俺たちの体調に変化はないか、などであった。その全てに答えると、ユズキと同様であったのか、椅子に背中を預けた。




「あいつは何者なんですか?」




 俺の問いに、タモン様が眉を寄せる。




「断定はできないが、姿を変えられることから推測するに、ある生き物ではないかと考えている」




 代わって、ユズキが口を開いた。




「お前たちでいうところの、重度だ。間違いない」




 重度――。授業ではほんの少ししか触れなかったが、それはある体質を持つ生き物の事である。


 そもそも混血者とは、人害認定の内の二種をベースとした者達をそう呼ぶ。簡単に言えば、獣の血を引く家系なら半獣人に姿を変えられ、妖の血を引く家系なら半妖人に姿を変える事ができるわけだ。この症状は未だに解明されていない謎の病気で、人の姿に戻れる事から軽度とされている。


 これらを踏まえた上で、重度とは人の姿をしていない者を指す。本来の姿が、半獣人か半妖人のままなのだ。彼らは発見次第、すぐに王家へ引き渡す決まりだが、発見されたのは何十年も前の事だと先生は話していた。


 そこで、ふとこんな疑問を抱いた。




「どうして重度なんですか?」

「それは、何を根拠に……ということか?」

「はい」




 気にするところはそこかと、タモン様は大きく息を吐き出した。




「あいつらは症状が悪化すると、獣や妖そのものになると言われている。あくまで王家の推測にすぎんが、そんな報告は俺がこの地位に就いてから一度も聞いたことがない」




 鋭い眼光が俺の身体に突き刺さる。




「重度ってのは、それくらい伝説に近い存在だった。それがどうだ。症状からみてもお前達の目の前に現れたのは、おそらく妖化の進行が始まっている奴だ。いいか、気にしなきゃならんのはここだ。顔がバレてないとはいえ、そいつは可能性が二つと言った。ここまでやったくらいだ。喉から手が出るほどに欲しいってことなんだよ」

「重度ではなく、妖の可能性はないんですか?」




 人害認定の一種、妖。教科書に妖の絵が載っていたが、絵の下には想像図と書かれていた。誰も見たことがないからだ。こちらの方が伝説っぽく感じるが、重度よりも時間をかけて説明された。




「妖は確かに存在するが、奴らは人との接触を避けている。こちら側から事を起こさない限りは姿を現すことはない。だが、重度は違う。人に抱く殺意は凄まじく、当初発見した闇影隊が捕獲に挑んだところ陣形は半壊したらしいからな」

「じゃあ、本当に重度なんだ……」

「ナオト、厄介なのはこれだけではないぞ」




 黒岩ジロウという男は、北闇に存在しない――。


 ユズキから告げられた真実に目眩を感じられずにいられなかった。




「最初から監視されていたってことなのか?」

「というよりは、ジロウという男になることで外の様子を伺っていたんだろう。幸い、僕たちは依頼人と距離を置いて歩いていたし、会話も全て小声だった。人間に嫌われていなければ班員のそばを歩いていたところだ。皮肉だが、感謝するしかない」




 どうしてだか、ユズキの最後の言葉は、自分も含めているような気がした。


 それにしても、どうして俺とユズキだけが幻覚にかからなかったのだろうか。俺たちの共通点といえば友達以外に何もない。




「それと、お前達を呼び出したのには別の理由がある。今朝、特例任務から戻った者から報告を受けたんだが、どうやら向こうでも重度と思わしき生き物と接触したらしい」

「狙いが僕達だけではないと言いたいのか?」

「俺としては、そこを問題視はしなかった。厄介なのは、闇影隊の中に裏切り者がいたという点だ。それに加えて、今回の北闇を襲った男……」




 俺とユズキは顔を見合わせた。おそらく、考えている事は同じだろう。




(北闇に奴を手引きした者がいる……)




 それが可能なのは、深夜の出入りが自由な闇影隊だけだからだ。




「とにかくだ。今後は今まで以上に警戒して任務に励め。本来なら国内待機を命じるところだが……」




 次に国民が被害に遭うときは、これだけでは収まらないかもしれない。俺達は外で囮になるしかないのだ。その現実に思わず拳に力がこもり、震える。




「そんなに怖がることはない。常に精鋭部隊の者に監視させるから安心しろ。何か起きたとしても重傷で済むだろう」

「そうじゃありません。死ぬことが怖いんじゃ……」

「じゃあ、なんだ?」

「国民の為に囮になっ――」




 全てを言い終える前に、ユズキが俺の口を塞いだ。本心は彼女の手の平に吸い込まれてしまう。そして、無言で首を横に振られた。


 こうして、俺とユズキは執務室を後にした。帰る前に気分を落ち着かせるようにと、石段に腰を下ろす。そして、前のめりに座り込んで腹の底から息を吐き出した。




「ごめん……」

「僕に謝る必要はない。前にも言ったが、お前の気持ちを理解できないわけではないからな。ただ心配だ」




 上体を起こしてユズキの方を向いた。




「お前は壊れかけている。とても放っておけない」

「別に俺は壊れたりなんかしない」

「このままでは嫌でもその日はくる。今のお前は、父と兄に尊敬を抱きながらも、どこか劣等感を抱いている。その相反する感情のせいで、ずっと苦しんでいるんじゃないのか?」




 視線を落として一点を見つめたまま、ほんの一瞬ではあるが俺の思考は停止した。


 そういえば、父さんとヒロトが帰宅した時に俺は2人のどこを見ていたっけ。どう感じていた?




「そうかもしれない……」



 最低だ……。


 家族が無事に帰還したことよりも、戦闘で負った傷の具合を比較するだなんて。




「俺ってどこか変なのかな?」

「いいや、正常だ。だが、あまりにも視野が狭すぎる。着いてこい、一つずつ片付けるぞ」




 どこに行くのかと思いきや人が多い商店街で足を止めた。そして、俺に「ここから動くな」と言う。ユズキは1人で歩き始めた。


 俺はただ彼女が遠ざかっていく後ろ姿を眺めていた。すると、どうだろう。道ばたで会話をしている人々が、彼女のために道を空けてくれるではないか。しかも、彼女を見つめる視線は俺とヒロトに向けられるものと変わらなかった。


 ユズキがこちらに振り返り手招きをした。それから公園に向かう。ベンチに座って、ユズキに尋ねた。




「なんでユズキが?」

「僕についてはまた今度だ。どうだ、視野の狭さに気づけただろう? とはいっても、まだまだ……だがな」




 ユズキの行動に、自分の小ささを突きつけられる。




「女々しいなあ、俺って……」

「限界の頂点は人それぞれだ。でも、だからといって周りを突き放すようなことはするな。余計に孤独を感じるぞ」




 さらに、ユズキはタモン様とのやり取りを持ち出す。




「あと、執務室でお前が言いかけたこと。なんとなくだが予想はついている。何を抱えているにせよ、言葉は選んで使うものだ」




 ユズキは俺の額を指で弾いて、こんな俺に微笑んでくれた。

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