第5話・最弱、試験の情報を得る
【王家城内】
玉座の間に各国の隊長が集結していた。
洋風の造りをした王家の城は、オウガを目立たせるに十分であった。
玉座に鎮座するオウガは、王のみが身につけることを許される金の鎧を身に纏っている。一見、和風な鎧であるが、城内の廊下は大理石で埋め尽くされ、天井にはシャンデリアがいくつも吊されているような内装だ。
故に、オウガに最初の一言は不要だ。嫌でも大衆の目を引く。
オウガが立ち上がった。
「いよいよ上級試験が開催される。例年同様、多くの死者が出るだろう。ハンターの生態を解明できればいいのだが、どうか許してほしい。第一試験の変更はしばらくないものと心してくれ」
オウガが深く頭を下げると、大衆は目頭を熱くしながら拍手した。オウガを含め、皆が身近な者をハンターによって命を奪われているのだ。オウガの気持ちを汲んでの拍手だった。
頭を上げて、オウガは言葉を紡いだ。
「ここで良い報告がある。北闇からの情報だ。ハンターは人間にしか襲わない事が新たに発見された。これには月夜の姫君が身をもって証明してくれたそうだ。皆、心から感謝の意を示し、混血者との行動を徹底するよう努めよ」
大衆から歓喜の声が漏れる中で、オウガは声を大にした。
「よって、第一試験、人と混血者を合同としたハンター討伐試験を行う!」
❖
早朝――。
「全員、注目!!」
試験官の声で、スタート地点に集合している受験生が一斉に前を向いた。いよいよ上級試験が開始される。試験終了まで、青島隊長は控え室で待機しているそうだ。
スタート地点の中心には白い線が引かれている。右には混血者を含む班が、左には人間のみの班が立っている。
開始の合図で先に右側に立つ受験生が試験場まで走り、その一時間後に左側がスタートする流れだが、つまりは後半組はこちらが減らしたハンターを討伐するだけでいい。扱いの差に右側にいる前半組の大半が殺気立っていた。
だが、仕方がない。ハンターは混血者を襲わないのだ。最善の策だろう。
試験官による説明が始まった。
「この道を直進すると裏門が見えてくる。そこを通過した先にある三日月の森がハンター討伐地点だ。ハンターの侵入を防ぐため裏門は5分で閉門するから、受験生は時間内に必ず通過するように。制限時間は2時間だ。それまでに誰か1人でも戻っていなければ不合格となる。では、今から網を配る」
説明に、隣にいる班の1人が鼻で笑った。南光の受験生で、寝不足なのか目元にはクマがあり、半目で試験官の方を向いている。彼は口の端を上げて、人を馬鹿にするような笑みを浮かべていた。
「懲りずに三日月の森か。やっぱり南光の人間は学習能力に欠けてやがるぜ。あの森にいるハンターを減らしたいんだろうが、ムダだっつーの」
我が兄の言葉遣いにそっくりで、思わず盗み見る。そいつは同班の子に同意を求める視線を送った。同班の子が答える。
「王家を馬鹿にしたらまた隊長に怒られるよ? でもクロムは人の話しを聞かないから、ネチネチ言われるのは僕なんだ。そうやって僕を落ち込ませたいんだね……」
「いちいち暗いし気にしすぎなんだよ。いいか、デス。こっちはリンがいねぇってだけで痛手だっつーのに、ハンターを20体も狩らなきゃならねぇんだ。仮に俺達が合格したらリンはどうなるよ。置いてけぼりか? 胸クソわりぃ!!」
「クロムはリンが大好きだもんね。痛手とかじゃなくて、隣にいないと落ち着かないんだよね。そうだよね、そばにいる僕よりも、外に追い出されたリンが気になって仕方ないんだ」
この会話にピンときたのは新人三班全員だ。俺達は目を合わせた。森について詳しく知っていそうだし、何よりもイツキのことがある。
クロムにヒロトが話しかけた。
「ちょっといいか?」
「ああ? んだよ、てめぇ。ガン飛ばしてんじゃねぇぞ。っつーか、双子か? 同じ顔して気持ちわりぃ」
ヒロトが動くよりも速く、俺は2人の間に割って入った。右手をヒロトの胸に置き、ここは堪えるように目で訴える。
大きく息を吐いて、ヒロトが尋ねた。
「リンって子のことなんだけど、外に出されたって話してたよな? 実は俺達の仲間も1人、同じ目にあったんだ。外には獣やハンターから身を守れる建物とかあんのか?」
「バカか、てめぇは。んなもんあるわけねぇだろ。っつーか、てめぇんとこの班員も光の子なのか?」
「光の子……? あ、隊長が話してたやつか。そんな風に呼ばれてんだな」
「いいや、そうじゃねぇ。てめぇらも見ただろ? 光の子がどんな扱いを受けるかをよ。しかも揃いも揃ってお決まりみてぇに化け物って呼びやがる。バカの一つ覚えもいいとこだっつーんだ」
「じゃあ、光の子ってなんだよ」
クロムの背後から暗い顔を覗かせたデスは、話しているヒロトではなく、なぜか俺の方に近寄ってきた。
「クロムがそう呼んでるだけだよ。僕よりも、リンのことが好きだから……」
「そ、そうなんだ。ってか、近すぎるから。もうちょっと離れろよ」
虚ろ目なデスが怖くて、思わず一歩後ろに下がってしまう。
「弟に近づくな。……んで、ついでにもう一つ。これだけの受験生で狩りに出れば確実にハンターの数は減るはずなのに、それをムダだって言うのには理由があるんだろ? 地形に問題があるのか?」
「……まあ、光の子に免じて教えてやってもいいか。山の頂上にあるバカでかい城、見てみろ」
こちらに向きながら、クロムは自身の背後を見るように親指で方向を示した。そこには赤いレンガの壁に囲まれた城があった。周囲にある木を全て伐採したのか、はっきりと視認できる。外壁は白く、洋館みたいな造りの城は朝日を浴びて光沢を放っていた。
「アレが王家の住む城だ。んで、三日月の森は、あの山裏のふもとに建つ壁のちょうど真後ろらへんにある。澄んだ湖と背の高い木しかない、どこにでもある森だ。でも、木が邪魔で太陽の光は遮断され、頂上にある城のせいで二重に影がかかちまって暗い上にジメジメしてんだ。そういった場所を好むのか、とにかくハンターの数は年々増えてやがる」
「それを今から俺達が狩るんじゃねぇか」
「南光は他国よりも国民の数が多い。となれば、ハンターにとって壁の中は餌が溢れる宝庫っつーわけだ。受験生の人数なんて関係ねぇ。どんだけ狩ろうが意味ねぇんだよ。ここに俺たちが住んでるかぎり、また集まってくる。まあ、それだけハンターの数が多いってことだ」
話し終えたのと同時に、前の班から網が手渡された。大きな網で、この中に討伐したハンターを入れて持ち帰らなければならない。
「とにかく、気をつけろよ。ハンターの群れよりも厄介なのは受験生同士によるハンターの奪い合いだ。この人数だと争奪戦は免れねぇ。試験が開始されれば確実に潰しに来るぞ。ってなわけで、相打ちで死にたくなきゃ閉門時間ギリギリで通過することだ。お互い外で待つ班員がいる者同士だし、全滅は避けようぜ」
「ああ、ありがとう」
準備体操を始めるヒロトの横で、俺は腹の底から湧いてくる恐怖に身体を支配されていた。
クロムのアドバイスにあった「時間ギリギリ」とは、我先にと森に向かった受験生をハンターの餌にしろという意味だろう。たしかに試験を乗り切るのに確実な方法ではある。しかし、他人を犠牲にしてまで第一試験を突破する必要があるのだろうか。
あちらこちらで切磋琢磨し合う彼らがハンターに喰われる様を想像すると足が震えてしまい、この場から逃げたくなった。




