第4話・最弱、恐れる
気に食わない事だらけだ。ヒロトと喧嘩したのもあって、余計に腹正しいのかもしれない。
ユズキや本人から聞いただけでも、イツキは幼い頃から散々な目に遭ってきたんだ。もういいじゃないか。そんな扱いは北闇だけで十分だ。それなのに、どうして――。
「どこに行けばイツキは普通に歩けるんですか!? なんで他国に来てまでこんな扱いをされなきゃいけないんですか!?」
新人三班は男女で部屋が別れている。そのため、この場には他の班の子もいるけど、もう我慢ならなかった。もし、俺やヒロトの瞳に関する情報が南光全土に知れていたらと思うと、イツキに対する言動が他人事とは思えないのだ。
「……どこから話せばいいのか」
「知っていることを全部!! お願いです!!」
畳へ視線を落としながら青島隊長は話し始めた。
「事の発端は今から30年ほど前に遡る。現皇帝であるオウガ様と、その弟、エイガ様との間には不仲説があった。エイガ様が突如として王家から姿を消したのは、そんな噂が囁かれていた頃だ」
その頃、王家内には二つの派閥があった。一方はオウスイ派と呼ばれ、力で世界を統一することを掲げていた。もう一方はトア派と呼ばれ、愛によって世界を統一することを掲げていた。オウスイ派はオウガ様を中心に、トア派はエイガ様を中心にそれぞれの派閥は成り立っていた。
当時、今よりも混血者に対する人間の態度は酷かったそうだ。これは混血者も同じで、互いに差別がはびこっていたという。
「このことが公になり、闇影隊の混血者たちはエイガ様の捜索を勝手に放棄した。オウガ様に引き渡せば、エイガ様が殺されると思ったからだ。エイガ様の派閥が頂点に立てば、混血者は救われると考えた。そしてその裏では、また別の噂が流れていた」
エイガ様の捜索中に、多くの闇影隊がそれぞれの大国で人間の姿をした化け物を目撃した、とのことだった。それは、姿が半獣化・半妖化している重度とは違い、二本の足で歩く別の生き物だといわれていた。
噂を一つに統一すると、その生き物は各国に一体ずつ存在していることがわかり、しかし捕獲にまでは至らなかった。
「そこで、オウガ様は別の命令を下した。その四体の生き物とエイガ様を抹殺せよ、と。トア派の筆頭であるエイガ様と謎の四体との接触を避けたかったのだろう。混血者を恐れる人間は、皆がオウガ様の言いなりだった。血眼で探し回り、何年かが過ぎた」
一方で、派閥が原因で混血者と人間の溝は深まり、争いが勃発した。オウガ様は考えを改め、捜索を打ち切りとした。
「今となっては平和そのもの。オウガ様はエイガ様の意志を引き継いだかの如く丸くなった。だが、数年間で、混血者と人は多くの死者をだした。王家は幾度となく他国を訪れ、和解するよう説得して回った。王家は争いが起きぬよう何年も使者を送り続けた。重度が出現したのはそんな時だった」
王家を手こずらせた重度の存在は、まだ火がくすぶっていた人々を鎮火させるに十分であった。でも、オウガ様は謎の四体の生き物を忘れたわけではない。
「そうして月日は流れ、11年前……。知っての通り、あの大地震が北闇を襲った。その直前、世界中の人々が天高く上る光の柱を目撃した。その場にいたのは生まれたばかりのイツキだった。おそらく、南光から出された女の子も同じ状況にあったのだろう。光の柱は三つの国で1本ずつ確認されているそうだ」
「大地震は北闇だけじゃなかったってことですか?」
「あの地震は同時に四大国で起きている。光の柱が目撃されたのは西猛の国を除いた三国だ。オウガ様は、その光と謎の四体になんらかの関係があると睨んでいるのだ」
だからイツキは南光を追い出された。自国に二体がいるのは避けたかったのだろう。
「でもそれって、あくまで憶測ですよね? 四体の生き物だって噂にすぎないし、エイガ様が南光を出て行った理由も明らかになっていないようだし……」
「王家に関する情報は、今も昔も、なにも表に出てこない」
確かにそうだ。王家の城にある地下室だって、カケハシが見つけてくれなかったら、そこに走流野家に関する資料があった事すら分からず終いだった。
ここで、黙って話を聞いていたヒロトが口を開いた。
「くだらねぇ、オウスイ派とトア派だなんてよ。爺ちゃんから聞いたことがある。昔話だと思ってたけど、まさか王家が関わっていただなんてな」
「俺は聞かされてないけど」
「それはナオトが無駄に早寝早起きだったからだ。俺は眠れない事の方が多くて、よく爺ちゃんが話してくれた」
現代の皇帝・オウガ――。それよりも千年以上も昔の皇帝、それがオウスイだといわれている。唯一の女帝であり、しかしながら彼女は玉座には座らず戦士である事を貫き通した。そしてその妹がトア。彼女は慈愛に満ちた化け物だったそうだ。
「オウスイは人間に好かれ、トアは人間以外の生き物に好かれていた。でも、姉妹の仲は頑丈な鎖のように簡単に切れるものではなかった。化け物だと罵られ幾度となく人間に命を狙われた妹を、姉は死ぬまで守り続けた。俺たちもそうであれ、ってな」
「それの何がくだらないんだよ」
「姉妹の仲は良かったんだ。それなのに勝手に派閥にしやがって……。俺の目標に泥を塗るなってんだ」
ヒロトがこんな性格になったのは、爺ちゃんの昔話が原因だったようだ。
その日の夜、イツキの安否や王家が気になって、なかなか寝付けなかった。
というのも、なんとなく頭でわかっているのだ。これまでの話しをまとめてみると、謎の四体の生き物、その内の一体。正体はジンキに違いない。
(それにしても変だな。ジンキは地中深くで眠っていたんじゃないのか?)
ユズキが何に片足を突っ込んだのか気になっていたけれど、実は俺自身、ユズキと同じように〝何か〟に直面しているんじゃないだろうか。
結局、俺は睡眠を取らずに朝を迎えた。




