第3話・最弱、仲間の受験資格を剥奪される
それから日も暮れ始めた頃、俺達は南光の国に足を踏み入れた。
「すごい数だな……」
赤を基調に建築された、ここ南光の国の街中を歩きながら、初入国のため目が一点に集中することはなかった。北闇とは違った風景に気分は高まっている。
北闇よりも国を囲う壁は高く、レンガで造られた豪華な家の並びは一際目を引き、商売が盛んのようでとても活気のある国だ。さらには、水に恵まれており、数多くの小川のような水路が引かれいて歩くのではなく小舟を利用して移動する人もいる。
それでもどこか物足りなさを感じるのは緑が少ないからだろう。レンガばかりで他の色が全く目立たない国でもあった。木壁に囲まれる北闇よりも、頑丈そうな赤いレンガで壁を築いている。
次に目にとまったのは、ひしめき合う戦闘服に身を包んだ受験生の数だ。国によって戦闘服の色に違いがあるらしく、北闇は黒と緑が基調であるが、東昇は黒と青、西猛は黒と白、南光は黒と赤を基調としている。
それはともかく、想像以上の受験生の数に目眩がする。これだけの数が一斉にハンターを狩るとなると流れ弾を食らってもおかしくはない。
受験生を横目に門から国内へ進んでいくと、青島隊長は受付と書かれた紙が貼られているテントの前で立ち止まった。ここで登録を行うらしく、班ごとに並んで順番を待つ。
「次、中に入れ」
いよいよ俺達の班の登録だ。
「青島班、受験者3名だ」
「ここに名前の記入を。混血者は混血者の欄へ」
青島隊長が記入をしている間に、受付係の男性は箱を一つこちらに差し出した。イオリが受け取ったそれを覗きこむと、中は3つに区切られていた。
確認したのを見て、男性が口を開いた。
「もたもたするな。早く髪の毛を切って中に入れろ」
「え、何の為に?」
「お前たちが死んだ時、親御さんに形見として持ち帰るために提出するのだ。わかったらさっさと切れ。次が待っている」
3人で顔を見合わせて、仕方なく言う通りにする。髪を切りながら、耳の奥に総司令官の話しが聞こえてきたような気がした。
髪の毛を入れた箱を渡し、テントを後にする。次に向かうのは宿屋のようだ。
少し短くなった髪を指で触りながら、青島隊長にイオリが問う。
「宿屋に着いたら今度は何をするんっすか?」
「移動の疲れを取るだけだ。試験は明日の早朝に開始される。それまでは特にすることもない」
「お、王家から激励の言葉の一つや二つくらいあるのかと思ってたぜ!! なあ、ナオト!!」
いつの間にいたのか、ぎこちない喋り方でヒロトは俺にそう声をかけてきた。ヒロトなりの仲直りのつもりなのだろうが、俺は黙って頷いただけで言葉を返さなかった。出来なかったのだ。
命令されたことが悔しくて、その言いなりになっている自分が情けなくて、ヒロトを格好いいだなんて思ってさらに惨めになった。
あまりの気まずさに心の逃げ場を捜していると、受付係の男性が走ってこちらにやって来た。表情は険しく、それを見た青島隊長は眉間にシワを作る。
「青島班、そこで止まれ!!」
「なにか問題でも?」
イオリを背にして前に立ちはだかった青島隊長は、腰に片手を添えて目の前に来た男性を見下ろした。
「勘違いするな。実験体に用はない。そいつだ」
そう言って、イツキに視線を送る。
「青空イツキ、貴様は受験できない」
瞬く間に南光の精鋭部隊が駆けつけた。イツキを取り囲み臨戦態勢をとっている。北闇の精鋭部隊は動物の面をつけているが、南光は目の部分がくりぬかれた真っ赤な面だ。
その輪の中に割って入った青島隊長はイツキの肩を抱いて受付係を睨みつけた。
「どういうことだ。説明しろ」
「ソレは、11年前の根源の1人だからだ。青島さん、あなたは過去に大勢の命を救った功績がある。手荒な真似はしたくない。許してくれ」
受付係の言葉に、俺はイツキの背中に動揺の目を向けていた。
(まだ……いるのか……)
11年前とは大地震のことだとわかる。しかし、男性は「根源の1人」だと言ったのだ。イツキのような奴が他にもいて、それは――、いやそんな事があってはならない。ジンキだけではなく、他にも得体の知れない生き物がいるだなんて考えたくもない。
「用件はそれだけか?」
「いや、まだある。ソレは国外へ出てもらう。その他の者は宿屋へ移動しろと、王家からの命令だ……」
「――っ、1人で国外に出るなど自殺行為だ!! 王家はいったい何を考えている!!」
「今回の試験で国から出されるのはソレだけではないのだ。南光からも女の子が出されている。試験期間中、彼女は国に入れない」
会話がされる中で、イツキは門に向かって歩き始めていた。慌てて呼び止める。
「イツキ!!」
「俺は大丈夫。ハンターや獣なんかに喰われたりしないよ」
「でもっ……」
「青島隊長がいないと、全員受験資格を剥奪される。だから、青島隊長も着いてこないでね」
青島隊長の考えがわかっていたのか、止められる前にイツキは重心を低くして走る態勢をとった。そして、一歩蹴ったその瞬間、俺たちを襲ったのは尻もちをつくほどの突風だった。
片腕で視界を守りながら、飛ばされそうになったイオリをもう片方の腕で支える。風が吹きやむと、そこにはもうイツキの姿はなかった。
門前に集る受験生の様子から察するに、この場から消えたのではなく、猛スピードで門から出たようだ。俊足の持ち主だとわかっていても、あまりの足の速さに驚愕するばかりだ。
「イオリ、大丈夫か?」
「んなわけ! 恥ずかしすぎるわっ。青島隊長とヒロトは平然としてやがるっ」
振り返ると、そこには何食わぬ顔でこちらに手を差し伸べるヒロトの姿があった。
「1人で立てる」
「そうかよ……」
そんな事よりもイツキの行動だ。あまりにも常軌を逸している。これでは周りに化け物だと指を差されても釈明のしようがないじゃないか。
いや、イツキにとってはどうでもいい事だ。ジンキは唯一のユズキとの繋がりだ。
こうして、とんだ激励を受けた青島班は宿屋に移動したわけだが、一息する間もなく、俺は青島隊長に数々の文句をぶちまけたのだった。




