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第14話・土地神、トラガミ

 キトが見たライマルの記憶はこうだ。


 今から12年前。まだ昼間時、西猛の国は強烈な嵐に見舞われた。勢力の強い台風が一カ所に止まっているかのような、そんな嵐だったそうだ。荒波は容赦なく国を襲い、当時白帝を勤めていたラオという男は、国の頂上へ避難勧告を発令した。


 そこには西猛だけでなく、村へ帰る途中の者や商人など、様々な人で溢れかえったという。


 大勢の民が固唾を飲んで嵐が過ぎ去るの待っていると、そこへ家族が避難してきた。夫婦と子どもだ。彼らは自分の国へ帰る途中だったそうだ。


 ごった返す人々から、夫婦は子どもを間に置いて守る形をとっていた。そんな時、端の方にいた商人が夫婦に声をかけた。




「馬車がございますので、お子さんをこちらへ!」




 中には他にも子どもの姿があった。だが、今にも押し潰されそうな夫婦に子どもを持ち上げることは出来なかった。見かねた隣の男性は、子どもを抱き、夫婦に代わって商人へ手渡そうと動いてくれた。


 男が、子どもが見えやすいように高く持ち上げると、大地が揺れた。地震だ。


 揺れに、悲鳴や怒号が飛び交い辺りは騒然となった。特に、絶壁付近にいる者達は森側へ行こうと我先に人を掻き分けた。揺れは次第に大きくなった。


 このままだと子どもが危険だ。そう判断した男は、商人に向かって子どもを投げた。


 子どもはまだ2歳。軽々と大人の頭上を飛び越えて、踏ん張りながら手を広げて待つ商人めがけて落下し始めた。


 雷が鳴ったのは、まさにその時だ。どんよりとした空に稲光が走り、続いて落雷した音が鳴り響いた。間髪を入れずに、また空が光った。稲妻は一直線に、誰よりも空に近い子どもへ落ちた。


 商人の手中に、黒焦げとなった子どもが降ってきた。


 揺れが収まった。我が子を見た母親は気を失い、父親は両膝を崩して泣いた。


 すると、子どもの身体が青白く光り始めた。商人の手を離れ、宙に浮く。一帯を照らすほどの眩しさに、民のほとんどが光から目を背けた。


 そんな中、両眼で子どもを見据える人物がいた。ラオだ。群衆を掻き分けて子どもを保護しようとした。しかし、中には南光の者がいた。




「王家に引き渡す」




 父親は子どもを取り返そうと、南光の闇影隊にしがみつき、離そうとしなかった。




「俺の子を、ライマルをどうするつもりだ!」

「王家の判断に委ねる」




 幾日かすぎて、父親の元に南光の伝令隊が送られてきた。子ども――ライマルは王家が引き取るとの事だった。


 それから2年後。ライマルは王家を脱走し、ラオに保護された。


 キトからの話しはここで終わった。




「土地神はいつ出てくるんだ?」

「もう出たさ。あの日、地震が起きたのは土地神が目覚めた事によるもの。雷は奴の怒りだ。残念な事に、狙いを外したようだが」

「どういう意味だ」

「姿を確認する事はできなかったが、奴を強制的に起こした者がいる。ライマルはその犠牲者ってところだろう。それともう一つ、王家が引き取った理由……。それはこいつの体質を調べようとしたからだ」




 土地神が憑依したライマルの身体は、混血者にはない雷の性質がある。王家はこの力の正体を解明しようとしたが、ジンキと違って実態がない。つまり、アマヨメのように自ら姿を現さない限り、目に見えないのだ。




「王家が捜索していないってことは、土地神の存在が知れたってことか?」

「そこまではわからん。しかし、王家……。ライマルを救うためだとはいえ、随分と手荒なことをしたらしい」




 そう言って、いまだに独り言を呟くライマルの手を取る。




「この指の傷は拷問の痕だ。性格がひん曲がるのも無理はない」

「――っ、そうか……」




 人懐っこい性格は、明るく振る舞っていただけなのだろうか。ライマルの手を見て胸の奥が痛んだ。




「……ユズキ、らしくないぞ。お前は他人を気遣うような生き物ではないだろう。いつものように無関心でいるんだ。他人の闇とはいえども、触れすぎると飲み込まれるぞ」

「わかっている」

「お前には俺がいる。他を望むな。俺にとっての厄介事はお前だけで十分だ」

「失礼な奴だな」




 睨みつけると、キトは片頬をあげて笑みを浮かべた。




「それでいい。さあ、今のうちだ。ライマルの意識がこちらに戻る前に、獣語で呼びかけろ。奴が出てくるはずだ」




 ライマルの手から視線を外し、背中に回って片手を添えた。意識を集中させて深く息を吐き出す。




『……聞こえるか、ユズキだ。この名前に聞き覚えがあるなら姿を見せてくれ。……帰ってきた』




 声をかけると辺りが薄暗くなった。正しくは空が曇った。濃霧の中にいてもわかるほどに、雲行きが怪しくなっていく。そして、ゴロゴロと雷の音か聞こえてきた。


 キトがライマルから僕を離した。




「来るぞ……。西の土地神、トラガミだ……」




 ライマルに光の矢が刺さる。湯気が立ちこめ、その中で影が蠢いた。

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