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第11話・幻惑の森へ

 死神ゲームが始まってから半年ほどたった頃。


 初めは、寝込みを殺されるのではないかと、睡眠時間を削るくらい警戒していた。それがどうだろう。泊まりに来る度に炊事や掃除を進んでやってくれるではないか。宿泊代らしい。今では住み込みの家政婦になっている。


 もしかしてこいつ、俗にいう二重人格ってやつでは?


 そんなライマルは掃除の最中だ。




「へえー。1年って期間に縁があるんだ」

「ああ。とにかく1年。何事もそうやって事を終わらせてきた。まあ、今回は偶然だがな」

「にしても、やっとこさ良いタイミングがやってきたって感じだよな。明日の野外訓練は幻惑の森に通じる道に近い場所を走る。ルート外れて行こうぜ」

「道を知ってるのか?」

「知らない奴なんていねぇよ。入ったら終わりなんだぜ」




 この半年間、蘭が来たり、コモクと話したりで行動に移せる日がなかった。首の傷のせいだ。2人はライマルの仕業だと見抜き、彼を呼び出した。ライマルは適当に嘘を並べ、僕達の関係性や目的を悟られぬよう上手いことしてくれたそうだ。


 現状は前とそう変わってない。しかしある日、ラッキーな発見をした。まさかここでタモンに感謝する日が訪れようとは。学校こそが唯一コモクが来ない場所だと気づいたのだ。野外訓練では蘭の監視もない。なにせ、あいつはコモクの側近だ。ライマルが教えてくれた。


 そこに何の手掛かりもなかったら、次なる行動に移せない。つまり、僕はこいつに殺されるわけだ。







「全員集まったな。外へ出る前に注意事項だ! もうわかっているとは思うが、獣やハンターへの警戒は怠らないように。特にハンターだ。現れたら瞬時に固まり、決して単独で動かないこと。申し訳ないが、混血者はその都度対応してくれ。それでは、出発!」




 いよいよだ。ライマルが背中に張り付くような形で後方を走った。


 訓練用のルートは、国民がわかりやすいように歩道の端に赤いレンガが敷かれている。歩道といっても舗装されておらず、ハンターや獣が身を潜める場所がいくらでもあるような、ほとんど自然のままにされている道だ。


 幸運なのは、担任や精鋭部隊の監視が一切入らないことだろう。


 護衛は混血者に任せ、人間は混血者の戦闘を観察・加勢し、互いに学び合っているのだ。


 この方法は東昇という国の訓練方を真似ているらしく、聞く話しによると軍事国家で成り立つほどに過激派が多いそうだ。戦争になれば、まず勝てないとライマルは言っていた。




「おい、オチビ。そろそろ抜けるぜ」

「出発してそう時間はたってない。気づかれるんじゃないか?」

「ばーか。この訓練法には大きな落とし穴があるんだ」

「見事に隊列を成していると思うが……」

「混血者のほとんどが前方配置。こいつらは必死こいて走るしかない」

「なるほど。後ろは手薄ってわけだな」

「……違う、俺がいるからだ」




 言いながら、僕を別の道へ導くように背中を押した。


 茂みを掻き分けながら、山頂へ向かうようにして真っ直ぐ歩く。山道はとても険しく足取りは重い。ライマルは特に指示をだしてこなかった。




「そういえば、ライマル。蘭とはどういう関係なんだ?」

「んだよ、いきなり」

「僕達の関係について話しを流してくれたんだろう? よく信じてくれたなと思って」

「多分、これっぽっちも信じちゃいねえよ。堂々と後を着けてくるもんだから、オチビの家に逃げてんだぜ、俺」




 背中で声を聞いていると、開けた場所に出た。そこで僕は動きを止めてしまうこととなる。立っている場所が切り立った崖の頂上だったからだ。一歩進めば落ちてしまうところであった。




「この道はダメだ。別を探そう」

「ん、ここでいい」




 ライマルに振り返る。




「着いたのか?」




 なぜだか、ライマルが両手を僕へ伸ばしていた。まさか――、そう思った時には遅かった。




「……お前が死ねば、コモクの面目も丸潰れだな。これで西猛はお終いだ。じゃあな、オチビ」




 とんっ――。静かに体を崖の外へ押しやられた。しがみつく物はどこにもない。ライマルを仰ぎ見る。悲しそうな顔をしたライマルが、落ちていく僕を見下ろしながら、小さな声で「ごめん」と謝った。咄嗟に狼尖刀を発動させた。


 ここまでは覚えている。おそらく、途中で意識を失ったのだろう。


 突然肺へ流れ込んできた酸素に、瞼をこれでもかとこじ開けて、思いっきり吐き出したの同時に激しく咳き込んだ。背の高い木々がクッションとなってくれたおかげで命拾いしたようだ。


 胸を撫で下ろす間もなく、咆哮をあげながら襲ってきたのはライマルだった。




「――っ、どうしてお前まで落ちてるんだ!?」




 体勢を立て直し、回避する。




「でっかい爪を俺の足に引っかけたからだろ! くそっ!」




 また静電気で身動きを封じられるわけにはいかない。両手に狼尖刀を構えて臨戦態勢となる。


 じりじりと互いに距離を詰めながら同時に地を蹴った。その周囲では、霧が発生していた。

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