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第10話・死神ゲーム

 手始めに一番近い場所から調べるとしよう。こういった時、気配がない体質はとても役に立つ。所々に立っている監視員や、巡回している闇影隊の近くを通ってもバレやしない。精鋭部隊ですら気づかないのだから。


 忍び足でやって来たのは、この国の頂上だ。人がいないか丹念に調べ、少しずつ中心に向かって歩みを寄せる。




「大丈夫そうだな」




 ライマルが話していた通り、ここら一帯だけ木が生えていなかった。円形にはげており、周囲には生い茂る木々を見て取ることができる。


 ジンキは北闇を揺るがすほどの巨体の持ち主だ。西猛の土地神も似たような類いならば、おそらくこの場所には潜んでいない。調べるまでもなく、ここには何もなさそうだ。だが、気になる。




「何があったんだ? こんな焼けかた見たことないぞ。……お前は知ってるのか? ライマル」

「なーんだ、気づいてやがったのか。つまんねぇの」




 出会った時は潮の香りで誤魔化されていたが、家に訪れた時に気づいた。ライマルは混血者だ。


 影がかかっていて表情を確認できない。これだと変貌した瞬間を見逃してしまう。蘭から情報を引き出しておけばよかった、そう思った矢先のこと。


 暗闇の中で光が発生した。僕の髪がライマルの方へなびく。静電気だ。しかも、それはライマルから放たれている。しだいに体が動かなくなってきた。静電気に拘束されているような感覚で、全身にビリビリと痛みが伝う。


 ライマルが一瞬で間を詰めてきた。いつものライマルではない。肌は白くなり、黒い線が腕や足に螺旋を描いている。指先から伸びた爪は鋭く、口の両端から牙が飛び出している。眼光を黄色く光らせて、ライマルは僕を捉えていた。トラのようだ。


 初めてお目にかかった。これが半獣化。


 非常にまずい状況だ。雰囲気から察するに、今夜の獲物が僕である事は間違いない。問題なのは、静電気のせいで上手く力を発揮できないこと。


 僕の手の甲と手首の間に、長さにして50センチの真っ黒な爪が眠っている。名を狼尖刀(ろうせんとう)いう。何かの生き物の爪なのだが、その正体は5000年以上たった今でもわかっていない。そんな狼尖刀は僕にとって最大の武器なのだ。どんな時でもこいつに助けられた。


 どれだけ力んでもビクともしない。実に厄介な静電気だ。


 ライマルは大きな口を開いて牙を剥き出しにした。容赦なく喉にあてがい、徐々に食い込んでいく。首を血が流れていくのがわかった。一思いに殺せばいいのに、そうしない。こいつは僕が死ぬのを待っている。




「最悪なやり方だぞ」

「だから、ダチにはなれねぇって言ったんだ」




 その意味が、こういう事態を指しているなんて誰が予測できるだろうか。


 手も足も出ないのなら、どうにかしてライマルの気をそらすしかない。とはいっても、手元にある情報でライマルが食いつきそうなのは一つしかない。




「僕はタモンから1年という期間をもらってこの国に来ている。その間に悪さをするつもりだ」

「だからなんだってんだ」

「一緒にやりたいんだろう? ならば、今はまだ僕を殺すな。お前が満足のいかない内容だったら、その時に殺せばいい。僕は絶対に逃げない。あの家に泊まってくれても構わんぞ」

「とか言って、コモクに助けてもらうつもりなんだろ」

「だとしたら、立入禁止区域の場所をコモクから聞き出している。いいか、コモクやタモンに知られたくないんだ」




 ようやく食いついたのか、全身に帯びていた静電気が引いていった。ライマルは半獣化を解き、腕を組んで考えている。




「あの2人に知られたくないってのは面白そうだけど、内容によるなー。西猛でやるんだろ? コモクはなんだって把握してるぜ」

「幻惑の森の内情もか?」

「おっと……、それはないな。幻覚から逃げられずに死ぬって事以外、ぶっちゃけあの森って謎だらけ!」

「よし、そこへ行こう。謎解きゲームだな」

「違う違う! 俺が背後から狙ってるの忘れてる! 前も後ろもあるのは〝死〟だけだ。ゲームで例えたいんなら、死神ゲームってところだろ。な、オチビさん」




 ライマルの表情を見てわかってしまった。こいつが人を襲うのは、楽しさを求めているだけなのだと。だってライマルは、イツキがタモンよりも強いと言って笑っていた時と同じように、目を細めてにんまりと口に弧を描いているのだから。

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