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第9話・初登校

 勝手に家へ入り込み、堂々とくつろいでいるライマル。友達はいなさそうだ。


 今のところ、聞いた話しのような変貌ぶりは見られない。いつものように情報収集を始めた。


 まずは育成学校についてだ。途中から入学しても大丈夫なのか。




「平気平気。育成学科の方だろ? 玄帝の依頼だから、最初の2年間ははしょられてんだ。後は学校側が卒業見込みって判断すれば、卒業試験を受けられるってわけ」




 他に気になることといえば、北闇のような立入禁止区域だ。ああいった場所は僕にとって都合が良い。




「あー、あるぜ。南にある幻惑の森って所だ。言っておくけど、北闇と同じで生きて出られねぇからな。あそこの森で発生してる霧に毒が混ざってるらしくて、死ぬまで幻覚を見続けるんだってよ。おっかねぇよなあ」




 幻惑の森ほどではないが、もう一カ所、立入禁止区域があるらしい。しかもそこは頂上の裏側だ。




「山が噴火した跡みたいなでっかい穴があって、そこ全域が入ったらダメなんだってよ。何回か見に行ったけど、焼けたみたいに木がなくて土が真っ黒なんだ。兄ちゃん姉ちゃんらの心霊スポットになってるぜ」




 鼻をほじりながら丁寧に教えてくれたライマルは、ブツを指で弾き飛ばした。


 究極の選択だ。人が訪れる場所か、幻覚にかかって死ぬ場所か。人が寄らないのは後者に違いないけど、死んではこの世界へ来た意味がない。


 にやにやと笑みを浮かべながら、ライマルが近寄ってきた。




「なんだー? 悪さでもするつもりなんだろ。俺も混ぜろ!」

「その話は後だ。とりあえず、その手で僕に触れるな」




 片手で「しっし」と払うと、いきなり元気をなくしてしまった。俯き、僕に視線だけを寄こして上目遣いに睨みつける。




「新顔だし、ちょっと期待してたんだけどな。お前もあいつらと同じかよ。やっぱコモクの客はダメだわ」




 そう言って、ライマルは部屋を出て行った。乱暴に閉じられた玄関のドアは「バンッ!」と大きな音をたてる。タモンのせいで苛立っている僕の怒りがピークに達したのは言うまでもないだろう。


 次の日、精鋭部隊の者が家にやって来た。鼻先すれすれのところで顔を覗き込みながら、僕が目覚めるのを待っていたらしい。寝起き一発目、面が僕の目の前にあったのだ。心底驚いた。




「おはようございます」

「お、おはよう」

「昨夜、教科書類は学校に用意いたしました。手ぶらで構いません。行きましょう」

「まずは、顔を洗ってご飯を食べる。そして歯磨きだ。なんにせよ、近すぎるぞ、この愚か者」

「あなたには全く気配やニオイがないんです。こうでもしないと見失いそうで。それはそうと、朝ご飯なら出来ています。食べてください」

「物音一つしなかったが……」

「デリバリーですよ」




 なんとも調子の狂う奴だ。


 名前は(ラン)というそうだ。コードネームらしい。音声変換器を装着しているため、性別は不明だ。


 学校に向かってる最中は一言も話さない。国民から向けられる視線は容赦なく全身に突き刺さる。




「そういえば、昨夜ライマルが遊びに来た」

「彼が……ですか。何か話されたんですか?」

「僕には西猛の土地勘がない。だから、色々と尋ねた。まあ、その後はすぐに帰ったが」

「それは幸いでしたね」

「なぜだ?」

「彼、昨晩に1人殺っちゃいましたから。あなたじゃなくて良かった」




 無言で結構。教室に入るまで僕から話しかける事はなかった。とにかく、これで蘭の役目は終わった。ところが、蘭は教室を出て行かず、また至近距離で僕を見ている。教室内に黄色い悲鳴が飛び交った。




「勘違いされるだろう。やめてくれ」

「……うん、いますね。それにしても不思議だ。まるで幽霊と話している気分ですよ。生きてますよね?」

「当たり前じゃないか」

「コモク様が面白い子だと仰っていた意味が分かりました。貴重な体験をありがとうございます。それでは頑張ってくださいね。あ、それともう一つ……」




 彼、同じクラスです――。やはり、無言が一番だ。


 蘭のおかげで1日目にして有名人になってしまった。精鋭部隊の送り付きだと一部の女子は大騒ぎし、廊下には他クラスの子が集っている。


 僕は人間が嫌いだ。正直、とても気分が悪い。




「ねえねえ、さっきの人とはどういう関係なの?」

「ただの案内人だ」

「絶対ウソー!! 年の差カップルってやつでしょ! だとしたら、言えないわよね」




 どうにでもなれ。


 これは噂が静まるのを待つしかない、なんてそんな事を考えていた時だ。教室の扉が開くと、室内が一気に静寂と化した。先程まで話していた子はそそくさと席に着き、廊下はもぬけの殻となる。ライマルが登校してきたのだ。


 この静寂は、授業中も、休み時間も、そして下校時間になるまで続いた。あんなに怯えながら授業を受けて頭に入っているのだろうか。とにかく不気味だった。

 

 学校では何も情報を得られず、そうして今夜、僕は動き出した。

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