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第8話・ライマル・参上!

 西猛の国、正門。




「ようこそ、絶景の国へ……か」




 強風で乱れる髪の毛を掻き上げて、すぐ側にある絶壁から真下を覗き込む。岩に砕ける波の音と、一望できる水平線。森林に囲まれる北闇と違って、西猛の国は垂直に切り立った断崖絶壁の上に、傾斜のきつい階段状のようにして国を築いている。


 岩の性質か、塩なのか、とにかく壁は白い。絶景といえば、絶景だ。


 案内人の後に続きながら、特に何の面白みもない水平線を眺めていると、突然目の前に影が舞い降りた。




「新顔発見!」




 上の階から飛び降りてきたのは、黒と白の髪の毛をした僕よりも少し年上であろう男の子だ。猫みたいな軽快な動作でいて、人懐っこい顔をしている。




「ライマル、参上! そこのオチビさん、仏頂面のオッサンと一緒じゃあ楽しくないだろー? 俺が案内してやるぜ!」




 間髪入れずに案内人が割って入る。




「こら! このお方は白帝のお客様だぞ! 引っ込んでろ!」

「コモクの客かよー。そんじゃあ俺ら、ダチにはなれねぇってわけだ。じゃあな、オチビ」




 階段を無視して壁を登っていくライマル。案内人がこちらに向いて冷や汗を垂らす。




「本当に申し訳ございません。アレには厳しく注意しておきますので」

「あの子も一緒で構わないぞ」




 すると、案内人が僕の両肩を強く掴んだ。瞼がひくひくと小刻みに震えるくらい大きく目を見開いた奥で、瞳孔がゆっくりと広がっていく。




「アレに関わってはいけませんっ。もし、またアレが近づいてきたら、すぐにコモク様の元へ逃げてくださいっ」

「痛いんだが……」

「――っ、すみません! 私としたことが……。行きましょう」




 いったい、なんだったのだろうか。







「コモク様、ユズキ様を連れて参りました」

「入りなさい」




 ひんやりとした真っ白な岩壁。岩の机に、岩のソファーもどき。無機質な部屋に似つかわしくない女性――コモクがそこにいた。


 彼岸花の柄をした崩れた着物も印象的ではあるが、太もも辺りまでしかない生地から覗くすらっとした足が嫌でも目に入る。胸元は谷間が見えるほどにがっつりと開き、袖は破かれている。


 片膝をたてながら横たわり、キセルをくわえた顔でこちらに向いた。




「まあ、座んな。なにか飲むかい?」

「まずこれを。タモンから預かっている物だ」




 コモクに封を渡すと彼女は早速読み始めた。汚い物を触るかのように人差し指と親指で書類を持ち、顔の前に垂らして目を通している。至近距離であることから、潔癖症とういうわけではなさそうだ。これがコモクのスタイルなのだろう。




「へえー、わざわざ西猛でねぇ。あんた、ユズキっていったっけ?」

「ああ」

「今日から入学するかい?」

「…………」




 さて、何の話しだろうか。




「諸々のケツに書いてあるよ。育成学校で基礎を学ぶべく、入学を希望する。なお、期間を1年とし、その後北闇へ編入学する……って。まあ、後は私への文句ってところだね。まったく、相変わらず面倒くさい男だよ」




 白帝の監視下に置くとはこういう意味だったのか。抜かりない奴だ。僕の動きを封じ込める気でいる。内心、苛立ちで叫びたい気分ではあるが、コモクに悟られるわけにはいかない。




「タモンは僕を心配しているんだ。両親を捜そうと勝手に国を出るから……」

「記憶がないそうだね。西猛に手掛かりがあればいいけど。学校へ行けば、あんたを見たことがあるって子がいるかもしれないね」

「だといいが……」




 子どもの記憶力を舐めたらいけないよ――、そう言ってコモクはくすくすと笑った。


 結局のところ、僕の入学は避けて通れない道らしい。今日は体を休め、明日から学校へ行くこととなった。そして、最後に。




「一つ、注意しておくことがある。ライマルという男の子に会ったら、すぐに離れてちょうだい。タモンと揉めるのはゴメンよ。無傷で帰したいの。意味はわかるね?」

「その子なら、ここへ来た時に会ったが、危害を加えるような子には見えなかったぞ?」




 起き上がり、足を組んで座るコモク。




「あの子、人懐っこいだろう? それだけならいいんだ。だけどね、突然人格が変わっちゃうんだよ。ここ数年だけで被害者の数は右肩上がりだ。中には死んだ者もいる。訓練校に通ってるから、気をつけてちょうだい」

「覚えておく」




 こうしてコモクと別れた。僕達が話している間に先程の案内人が部屋を用意してくれたらしく、また案内され、鍵を受け取って部屋でくつろぐ。


 それにしても、まさか一軒家を用意してくれるとは。早速ベッドに転がる。


 考えるのは明日にして、今日は休もう。そう思い、目を閉じたときであった。ドアを叩かれ再び目を開く。来たばかりなのに、もう客人が訪れるなんて。


 ドアを開けると、そこにはあいつが立っていた。




「またまたライマル参上! 入っていくのが見えたから、来ちゃったぜ」




 どう離れろというのだろうか。

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