第6話・進むべき道
何年か前に北闇を襲った大地震。それは、人知れず地中深くに棲み着いていた巨大な生き物が目覚めた事によるものであった。
アマヨメは言った。彼は赤子に封印され、今も生きている、と。そしてこう続けた。
「看板の所で待っているあなたのお友達。あの子の体内にいるわ。名前はジンキ。コウの仲間よ」
「――っ、誰がそんなことを!?」
「あの子の母親よ。自分に封印するはずが失敗したらしいわ。無理もないわね。ジンキの力は強大すぎるもの」
言葉をなくした。イツキはタモンよりも強いと自負していた。その力はジンキのものらしい。驚くのはこれだけではない。なんと、ジンキが「土地神」だと言うのだ。そしてジンキもまた、コウと同じく言い伝えを守ってきた生き物なんだそうだ。
つまり、僕を待っていたということになる。
『コウ、僕と一緒にラヅキを捜しに行こう。ラヅキになら助けられるかもしれない』
『無理よ。私はここからは動けないわ』
『なぜだ?』
『封印される直前にジンキ様が叫んだの。逃げろ、コウ。奴らに狙われている、って。きっと、ラヅキ様が呼び戻したのはこれよ』
代わって、アマヨメが詳細を話す。
「詳しいことまではわからないけど、どうやら他の国でも奇妙なことが起きているみたいなの。始まりは西猛の国よ」
「なぜそう言い切れる」
「何年か前に、子どもが悪霊に取り憑かれたって騒ぎになったの。すぐに噂は消えたけど、私の記憶が正しければ、地震の後よ」
しかも、その国にも土地神がいるらしく、発見出来ればラヅキの居場所がわかるかもしれないらしい。
『ユズキ様、お願い……。どうかラヅキ様を見つけて。でないと、この世界はもっと狂うことになるわ』
こうして、コウの隠れ家を後にした。帰りはアマヨメが送ってくれる。
コウと出会った場所に着くと、口元に手の平を添えて、アマヨメはそっと息を吐いた。すると、地面に雪で出来た白い道が浮かび現れた。
「これで迷わないわ。それにしてもユズキちゃん、あなたって私を見てもそんなに驚かなかったわね。一応これでも、私は伝説に近い生き物なのよ? 自信なくしちゃうわ」
そう言って、肩をすくめる。
「ちゃんと驚いた。ただ、僕の友達に比べれば、お前はまだ人に近かかったってだけだ」
「どういう意味かしら?」
「知らない方がいい。妖といえども、まだ生きたいだろう?」
「ふふ、あなたって面白い子ね。さ、行って。コウのために見つけてきてね」
アマヨメと別れて白い道を歩いた。振り返ると、僕が前へ進む度に後方の道が消えていく。イツキと合流する頃には前方も消えてなくなった。コウや隠れ家を守っているみたいだ。
「お帰り、ユズキ。平気だった?」
「ああ、問題ない。帰ろう」
来た時と同じく、面とマントを着用する。
家に着いてからは、やり残していた荷解きを始めた。そうしながら、イツキに謝る。
「精鋭部隊のこと、すまなかった。……見つかるといいな」
アマヨメの話しを聞いて、タモンがイツキに説明できない事情がわかった。それでも言い方は考えるべきだと思うが、しかし簡単に話せる内容ではない。それに、タモンが恐れている理由も理解できた。
僕は、もっとこの世界を知る必要がある。
「それにしても、とんでもなく寒かった。あんなに雪が積もっているだなんて。冬に備えなきゃな」
「え、冬? 冬ってなあに?」
「春・夏・秋・冬、の冬だ」
「ん? 春・夏・秋・春、だよ。もう、何言ってるの? みんな知ってるよ、それくらい」
疲れてるんだね、と言いながら荷解きをするイツキ。その隣で唖然とする僕。鍛錬場で過ごしているため知らなかった。まさか、この世界に冬が存在しないなんて。
「……言ってなかったか? 僕に記憶がないって」
「あ……。そうだった。ごめん」
「いいんだ。もしかすると、親がそんな話しをしていたのかもしれない」
「ユズキの親ってどんな人なんだろうね。きっとキラキラしてるんだろうなあ」
「キラキラ? よくわからん奴だな。よし、さっさと終わらせよう!」
「うん!」
さて、得た情報をまとめよう。
Aの正体はラヅキという黒い狼。イツキの力の根源はジンキという土地神。迷界の森には、森の主・コウと、妖・アマヨメが棲んでいる。
今後、僕が進むべき道は西猛の国という場所。そこで土地神を捜しだし、ラヅキの居場所を突き止めなければならない。
これらの何よりも一番の収穫は――。
(妖は獣語を理解できるのか……)
新たな発見であった。




