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第4話・迷界の森

 真夜中、イツキと共に迷界の森へ向けて出発した。




「僕はまだ納得していないからな」




 イツキから借りた面の奥で先程の話を持ち出した。


 僕にはニオイと気配がない。こそこそと抜け出すのは得意なのだ。精鋭部隊の力がなくとも実行できたというのに。




「入隊したきっかけはユズキだけど、実はもう一つあるんだ。父さんを捜したくて……」

「ならば、闇影隊に入隊すればいい」

「それだと班を組まされる。単独で自由に動けるのは精鋭部隊だけ」

「……父親の話をされては何も言えないじゃないか。卑怯だぞ。しかも、おにぎりのおじさんとやらが話してたことだろう? なんの信憑性もない」

「ちゃんと資料が残ってたよ。あの大地震で行方不明になってた。もしかしたらハンターに喰われたかもしれないけど、死体が出ていないなら俺は僅かな希望に賭ける。表で堂々と動けないなら、裏で動くんだ」




 やはり、帰ったらタモンとは話し合おう。何をしでかすかわかったもんじゃない。


 こうして迷界の森に辿り着いたわけだが、噂通り危険な森らしい。とても大きな立入禁止の看板が目立つ場所に置いてある。




「ここから先は1人で行ってくる。必ず戻ってくるから待っててくれ」

「わかった。ただし、捜されているようだったらその時は中に入るからね」




 面とマントをイツキに持たせて、森へ足を踏み入れた。


 さすがは迷界の森と名付けられただけはある。どの木にも目印に掘った跡が残されており、中には巻き付けられたままの古いロープもある。どれも意味は成さないのだろう。しかし、こうまでして森を訪れるのはなぜだろうか。


 その前に、僕はどこへ向かえばいいのだろうか。




「コウ! いないのか!?」




 大声で呼んでみるも返事はない。




「この森で間違いないはずなんだが……」




 僕には根拠があった。一つはAが北闇の領土内を選んだことだ。さらには、コウを捜す必要があるという点。それはつまり、人目につかない場所にいるということ。聞けば、北闇の国民が決して近寄らない場所は、領土内でこの森くらいなんだそうだ。


 ただ、わからない事がある。相手が人なのか、そうじゃないのかだ。Aにも同じ事が言えるだろう。イツキやキョウスケから話しを聞いただけでも、この世界には色んな種の生き物が存在する。Aとコウはどの種になるのか。


 そうして、イツキとだいぶ距離のある所まで来た。とある理由からサバイバル生活で長くを暮らしてきた僕は、五感の中で嗅覚が著しく発達している。イツキが動かない限り、僕がこの森で迷うことはない。


 ここで大事なのは距離だ。


 ニオイや気配がないことなどどうでもいい。嗅覚の発達や、黒い爪も放っておいていい。何よりも重要なのは、これだ。




『コウ! いるなら姿を現してくれ!』




 この言葉、獣語(じゅうご)――。人に聞かれてはいけない、僕を不幸のどん底に陥れた呪われた語だ。この語は獣同士が使う言葉で、人には決して理解出来ない。僕はなぜだか、生まれたその日からこの言葉を話せる。


 相手が獣であればと思ったのだが、返事はない。もっと奥まで進もう。


 気がつけば目印の跡はなくなり、代わりに雪が降る場所へと足を踏み入れた。しだいに、粉雪は吹雪へと凶暴化し、突き刺さるような雪で肌は痛いし服は固まっている。髪の毛も舞うことをやめてしまい、見えない木にぶつかり苛立ちは積もるばかり。


 と、その時。


 足の裏に微弱な振動を感じ、その場で歩みを止めた。なぜなら、振動とともに雪がピタリとやんでしまったからだ。


 束の間、僕は頭上を仰ぐ姿勢となった。


 体長は5メートルほどあるだろうか。黄色い毛に黒い縞模様のトラが僕を見下ろしている。獣がいるとは聞いていたけれど、なんだこの大きさは。




『僕を喰うな』




 獣語で話しかけるとトラは一歩、二歩と後退した。人の姿をしているのだから当たり前の反応だ。もう慣れている。




『そう警戒しないでくれ。人捜しをしているんだ。コウって知らないか?』

『…………コウは人じゃない。私がコウよ』




 着いてこい――、コウは首を動かしてそう合図を送ってきた。

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