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第3話・謎の生き物、〝A〟

 鍛錬場と呼ばれるこの地下空間に住み始めて1年になる。無駄な時間を過ごしたところで物語の真髄に入ろう。


 今から半年ほど前のこと。訪れる作業員達がこんな話しをしていた。「またあの森で行方不明者が出たらしいぞ」と。


 たまに遊びへやって来るキョウスケという男がいて、そいつにどんな場所かを聞いてみた。付近に迷界の森という場所があるらしく、「足を踏み入れれば最期、出てこられないよー。精鋭部隊だけなの、入れるのは」とふざけた顔で返された。


 すぐにピンときた。僕はそこへ行くべきなのだ、と。というのは、この世界に来た目的に関係しているからだ。


 念のためにもう一度だけ言っておこう。僕はこの世界の生き物ではない。つまり、別の世界の者という事になるわけだ。さらに言わせてもらうならば、望んで来たわけではない。名も姿もわからない――仮に〝A〟と名付けよう。そいつに強制送還させられた。


 ここで簡潔に説明しておく。


 前の世界で、僕は親子喧嘩をしていた。気の狂った母親に「出て行け! この疫病神!」と物凄い剣幕で怒鳴られ、それはもう玄関の外に近所の人が集るほどの凄まじいものだった。


 彼女の手には包丁が握られていた。僕は両手を広げて死を覚悟した。別に死ぬのはどうってことない。それは僕の人生において、途中経過の一部だ。そろそろ頃合いだろうと思っていたし、終止符を打つのが母親という肉塊ならば、それはそれで面白い結末だとも思っていた。


 両手で包丁を握り、奇声を上げながら走る母親。中を覗いていた近所のおばさんが慌てて転がり込んできた。虚しくも、サクッと、刃物は心臓を貫いた。よろめく僕を、母親は「出て行け!」と、開いた玄関から道路の方へ何度も突き飛ばした。その時だ。


 Aの声が聞こえてきた。電波の悪い通話のようで、声は途切れ途切れにしか聞こえず、内容は全く伝わってこなかった。その中ではっきりと聞こえたのは、「時期ではないが、帰ってきてもらう」、「森の主、コウを探せ」、という内容だった。


 直後、真横から鉄の塊が突っ込んできた。僕の体は宙に舞った。しかし、待てど暮らせど次の衝撃がやって来ない。それもそのはず。目を開くと、僕は月光を浴びながら空から地上へ落下していたのだから。


 とまあ、これで強制送還の意味はわかったことだろう。そして、僕が森へ行きたい理由も同時に理解して頂けたと思う。


 それからというもの、外に出られるその日まで、イツキに言葉や字、サバイバルを徹底的に叩き込んだ。今となってはすらすらと話せるし、自由に本部と鍛錬場を行き来するほどの行動派だ。


 そうして今日、転機は訪れた。なんと、タモンがイツキに新居を用意してくれたのだ。




「すごいね、ユズキ! 全部ピカピカだ!」




 部屋中を駆け回り、ベッドにダイブするイツキ。




「ふかふかー……。外ってすごい……」

「疲れただろ? 少し眠ったらどうだ」

「ヤダよ。ユズキがどこかへ行っちゃう」

「行くって、どこへだ」

「迷界の森に行きたいんでしょ?」

「――っ!? お前、いつから……」




 顔だけをこちらに向けて、イツキが言葉を返す。




「キョウスケと森の話をしてた時、見たことない顔してたもん。気になるんだなぁと思って。俺がその夢を叶えてあげる」

「しかし、あの森には精鋭部隊しか入れないと言ってたぞ?」

「問題ないよ。何の為に俺が本部まで行ってたと思う?」




 そう言って、まだ荷ほどきしていない荷物から黒いマントと面を取りだした。精鋭部隊の物だ。




「盗んできたのか!?」

「まさか……。入隊したんだよ、ユズキのために」




 背筋が凍りついた。精鋭部隊がいかなるものか心得ているからだ。人害認定の生き物以外に、時には人をも抹殺する。精鋭部隊とはある意味、闇影隊の精神の中核に位置する組織だ。闇影隊の精神崩壊を阻止すべく、彼らがその部分を補い、隊を安定させている。


 だが、精鋭部隊にはそれがない。常に精神力のみで己を保っている。


 早くに死に直面させたくて様々なことを教えたわけではない。暴力を受けないのなら、それでいいじゃないか。国を歩けるのなら、それでいいじゃないか。あとは子どもらしく生きればいいのだ。イツキが皆と同じように暮らせるならと、そう思っていたのに。




「僕自身がどうにかしなければならない問題であって、お前が足を突っ込む必要はないんだ。だから、今すぐに精鋭部隊を辞めろ。でないと僕がタモンに話をつけるぞ」

「無駄だよ。俺の力にタモン様は勝てない。もう試したんだ。認めざるを得ない状況に自分から持っていった」




 自分はこの国で最強だと、イツキは嬉しそうに言った。

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