表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/316

【逸話】不穏分子

【執務室】


 扉が閉まったのと同時にタモンは息を殺して笑った。ユズキだけが情報収集していたのではない。この男もそうだった。


 束の間、扉が叩かれた。




「入れ」




 訪れたのは赤坂キョウスケという男だ。後に赤坂班率いる隊長となる男である。キョウスケは、動物の面と顔半分を隠している手拭いを外した。




「彼女、見張るまでもなくイツキと共に鍛錬場へ戻りましたよ。ただ、やりにくいですね」

「だろうな。この俺ですら、用件がイツキの事でなければ感情を誤魔化しきれなかった。まさか、ニオイや気配がないとは……。まるで幽霊だ」

「ですね。様子を見に行った隊員から報告を受ける予定が、ことごとくイツキに潰されちゃいました。なんだか彼女を守ってるみたいでして」

「ほお……」




 感心したかのように息を漏らす。イツキには防衛本能がなかった。とにかく手当たり次第なのだ。それを人は暴走状態と呼んだ。


 彼女なら押さえ込めるかもしれない――、そう思い至ったところで、真率な表情を張る。




「名をユズキというそうだ。本人曰く、名前以外の記憶がないらしい。この国の者ではないってことだけはわかっているようだが……。どうも賢いガキだ」

「らしくないですよ、タモン様。考えすぎです」

「初めからお前に託しておけばよかったと後悔している。まさか、イツキが暴力を振るわれていたとはな……。俺の判断ミスだ。そのせいで得体の知れないガキにイツキの心を奪われてしまった」

「多忙な身です。2人のことは今後俺に任せてくれませんか? タモン様は、ほら……」




 その先の言葉に詰まるキョウスケ。困ったように眉を下げている。タモンは頷いて返事をした。




「ったく、走流野家と同時進行か。面倒な事が次から次に転がり込んでくる」

「ヘタロウさんの捜索に何か進展があればいいんですけどね」

「そうでないとな。セメルのガキはいつまでたっても堂々と歩けん」




 我が生まれ故郷なのに――と、顔を曇らせる。イツキの事が過ぎったのだ。




「あのガキに言われた。理由を知らず、己を化け物だと信じ込んでいるイツキに、頭っから化け物を否定するなと。イツキを否定したも同じだってな。この俺が説教をされた」

「それはっ……」




 またキョウスケは言葉に詰まった。タモンが硬く口を閉ざす理由をわかっているからだ。


 あの日、起きてしまったおぞましい事件を説明するには、イツキはまだ幼すぎる。かといって嘘を話すわけにもいかない。難しいところなのだ。


 しかし、タモンが気になったのはそこではない。




「変だと思わないか? 年齢はイツキと同じで8歳ってところだろう。そんなガキがつらつらとあんな台詞を吐きやがった。ただ賢いだけなのか、それとも……」

「なんだか気味が悪いですね。……わかりました。彼女について調査します」

「いや、それは他に任せる。お前は徹底して監視にあたれ。いいか、この国の不穏分子となりうる存在であるならば、その時は迷うな」

「御意」




 こうして、タモンとユズキの奇妙な関係が幕を開けたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ