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第1話・拾い物

 とんでもない拾い物をしたことはあるだろうか。


 例えばカバンに詰まった大金であったり、隕石の欠片であったり。さらにわかりやすい心境でいえば、学生が卑猥な本を見つけた時の驚きと期待、落ちていた財布に入っている身分証とお札を目の辺りにした時の興奮と罪悪感。


 僕にとって、そんな複雑な心境となる対象は紛れもなくコイツだろう――。


 なんて、場所を自由に選べるのに、わざわざ隅っこに座る少年を見据えながら明かりも乏しいだだっ広い空間でそんな事を考える。この空間全てがコイツの家なんだそうだ。


 あまりの汚さに、つい先程、人工的に作られた小川で強引に洗浄された少年。緑の髪色が姿を見せてくれた。


 さなか、コイツはずっと二単語を繰り返し口にしていた。「友達」と「神様」だ。謎めいた上に、複雑さを臭わせるとんだ拾い物に僕は頭を悩ませている。


 少年の情報を手に入れる手段は1時間くらい前まで存在した。僕の視界の先で転がっている死体が持っていたはずなんだ。少年の名前以外の情報を手に入れる間もなく、少年はここの比にならぬほどの黒い物体の中へそいつを閉じ込めてしまった。そいつは懺悔を叫びながら精神に異常をきたした挙げ句、少年はこれまた黒い触手を放ち殺した。


 なんなんだ、この世界は――。そう疑問を抱くと、少年がこちらに振り返って言った。




「目が真っ黒だったから、キケン」




 そうして、何の感情を見せることもなく、死体から戦闘服の一部だと思わしき上着をはぎ取って遠くへ投げた。


 それからというもの、隅っこの方で膝を抱えながら座り込み、こちらに近づこうとしない。




「来ないのか?」




 僕の声に、少年は視線だけを寄こした。




「そこにいるとケガするよ」




 何か危険な物でも落ちているのかと辺りを見渡していると、ふと自分の足もとで目が止まった。微量ではあるが茶色いシミがあちらこちらにある。これは血痕だ。




「何をされた」

「殴られたり、蹴られたり。物が飛んできたり、怒られたり」

「怒られるって誰にだ? お前は1人で住んでいるんだろう?」

「知らない人……」




 言いながら、地面を静かに見つめる少年に背筋に刃物を当てられたかのような、そんな寒気を感じた。


 そして、また話し始めた少年は小さく震え始めた。




「みんな、シネって言うんだ。でもね、ごめんなさいって言えば笑ってくれる。みんな幸せになるんだよ」

「お前は勘違いをしている! それは幸せなどという感情ではないぞ!」




 想像するのも嫌になる背景に、つい怒鳴ってしまった。イツキの肩が跳ね、それ以上奥には行けないのに後ろへ下がろうと体をよじり、次第に震えが大きくなった。いきなり怒鳴られて怖がっているようだ。




「すまない……」




 ごめんなさい、ごめんなさいと何度も呟く小さな少年。側にいくと、怖ず怖ずと手を握られた。握りられた手はジワジワと熱くなっていく。




「いくつか聞きたいことがある。ご飯を食べた後はなんて言う?」

「ごめんなさい」

「朝起きたときは?」

「ごめんなさい」

「……眠るときは?」

「ごめんなさい」

「あめ玉をもらったとしよう」

「ごめんなさい!」

「お礼の言葉は、ありがとう……だ」




 クイズを出されたと思っているのか、なんとも楽しそうに答えてくれた少年。感情の起伏が荒波のようだ。




「もう休め。今日は一緒にいるから、眠っていいぞ」

「明日になったら森に帰るの?」

「そのつもりだ」

「――っ、ここにいてよ! どこにも行かないでっ……」




 また涙を流すイツキは、さらに強く手を握ってきた。その瞬間、僕の顔が歪んだ。骨が軋むほどの握力に折られてしまいそうになったからだ。そして、少年の目つきがおかしい事に気づく。黒い瞳が赤く染まっているではないか。




「わかった! わかったから! 手を離してくれ!」




 手を握られただけなのに、殺されるのではないかと思った。


 先程のような痛みはないものの、それでも強く握られている手。寂しいだとか、悲しいだとか、そんな感情が全部集結しているみたいに感じる。


 



「化け物と呼ばれるのは嫌か?」

「イヤだっ…」

「別にいいじゃないか」

「また殴られる! みんなと同じがいいっ」

「みんなと同じなら幸せなのか?」

「遊んでくれる!」

「あんな人間になりたいのか? みんなと同じになるとは、お前を傷つける者達と同じになるということだ。それでもお前は幸せなのか?」

「違う! アレはイヤだ!」

「ならば、化け物でもいいじゃないか。お前はこんなにも優しい。見ず知らずの僕にここにいてもいいと言ってくれた。僕が知っている化け物は、優しい男の子だ」

「ほんとに?」

「ああ、本当だ。まあ、なんだ。僕も化け物みたいなものだからな。お前と同じということになる。僕達は〝特別〟だな。みんなと違うのだから」




 顔をクシャリとさせたイツキは大声で泣き叫んだ。そして、「ごめんなさい」ではなく「ありがとう」と何度も口にする。




「ユズキ」

「なに、それ」

「僕の名だ。教えてなかっただろう? そして、お前の名前はイツキだ。化け物ではなく、イツキ」




 あの死体がそう呼んでいた。間違いないだろう。




「もう一回、名前を呼んで……」

「一度といわず、何度でも呼んでやる。イツキ」




 さて、イツキが落ち着いたところでゆっくりと考えてみよう。


 コイツの体から発生した黒い物体と触手の正体。なんらかの力だとして、この世界には他にもこういった者が存在するのだろうか。それとも、イツキだけが特別なのか。


 もし仮にだ。他にも力を持つ者がいるのなら、僕の手首から生えてくる黒くて大きな爪の正体、コレの答えもここで見つかるかもしれない。


 それともう一つ、先に言っておこう。
















 僕は、この世界の〝生き物〟ではない。

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