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第14話・S評価

【執務室】



 一室に、タモンと総司令官の姿はあった。




「ご苦労だった。お前の見解を聞こうか」




 般若の面を外し、タモンと向き合う総司令官。


 過酷な強化合宿が始まったときも、そして終わってからも彼は冷静であった。




「まずは赤坂班です。キョウスケが隊長とだけあって個々の能力に見合った訓練がされてありました。中でも走流野ヒロトは頭一つ抜き出ています。ハンターに怯む様子もなく、また慈悲の心もないと部下から報告を受けました」

「……ナオトには?」

「合宿中はずっと距離を置いていましたので、気づかれていません」

「そうか。他の班員はどうだった?」

「青空イツキの言霊に苦戦されましたが、後は滞りなく。彼女も無事です」




 タモンが大きく息を吐き出す。




「それを聞けて安心した。東昇からの大切な預かり物だ。無傷で返したい」

五桐(ごとう)カナデ……。ソウジと同班でよかったのですか?」

「あいつと一緒にする事に意味がある。彼女には酷だがな」




 少しの間を置いて、総司令官は別の班の報告に入った。




「黄瀬班の混血者も同様、青空イツキの言霊に苦戦を強いられた以外に、特に問題はありません。ただし、あの子だけは上級試験の参加資格を剥奪した方がよろしいかと」

「彼か……。あいつとは家族も含めて面談の予定を入れている」




 言いながら、タモンは手元にある報告書に目を通した。


 合同強化合宿はS~Fの7段階で評価されている。混血者全員とヒロトはA、人間はBが数人と残りがC・Dであるにも関わらず、1人だけF評価の子がいる。


 上層部が提示する上級試験参加に必要な最低評価はDとされおり、それ以下はタモンが面談を行い最終判断を下すこととなっているのだ。


 ふと、タモンの手が一枚の資料でぴたりと止まった。




「これは何かの間違いか? S評価がいるぞ」

「私が彼を評価しました」

「……なぜナオトにS評価を下したんだ」

「久しぶりに驚かされましたよ。新しい言霊を作ったんです。もしかすると彼はヘタロウさんを超えるかもしれません」

「タイミングが悪いな。本人から話しを聞いてみたいが、月夜の国に行ってしまった」

「そんな任務がありましたか?」

「いいや、ただの休暇だ」




 タモンが背もたれに寄りかかると、総司令官は面を装着した。執務室を出るようだ。




「私からの報告は以上となります。書類に問題がありましたらお呼びになってください」




 扉に手をかけたところで総司令官はタモンに振り返った。




「ああ、一つ言い忘れていました。青島さんとキョウスケのことですが、あの2人相手に情報収集は厳しいかと。しかし、タモン様の推測通り疑心を抱いているのは確かのようです。このまま監視を続けますか?」

「頼む。先走った行動をされるとこれまでの努力が水の泡になる」

「仲間は多いに越したことはないのでは?」

「頼りにはなるが、ダメだ。失敗したとき彼らが必要となる。失うわけにはいかない」

「それは貴方も同じですよ。走流野ナオトに関しては如何なさいますか?」

「引き続き泳がせておけ。いずれボロが出るだろう」




 総司令官は扉から手を離した。




「……本当に彼は重大なことを隠しているのでしょうか」

「絶対だ。ユズキが気にかけていた奴には必ず何かある。イツキが良い例だろう」

「不躾で申し訳ありませんが、何を根拠に彼を疑っているのですか?」

「ユズキは極度の人間嫌いだ。だから情報が少ない。だが、赤坂と青島、そしてナオトとだけは打ち解けていた」

「なるほど……。青島さんとキョウスケがその証拠、ですか。分かりました」




 再び扉に手をかけると、総司令官は静かに部屋を後にした。







  合同強化合宿終了から、数日後――。




「青島班、出発!! 三種への警戒を怠るな!」




 俺達は月夜の国へ向けて歩みを進めた。


 当初に比べればだいぶ様になってきたように感じる。青島隊長を先頭に俺達は後方を歩き、イツキと話しながらも瞳は忙しなく動いている。あの頃みたいに好き勝手な行動はしていない。――いや、1人だけ自由な奴がいた。




「敵さんはどこだー? 俺様に怖じ気付いて逃げちまったのか?」




 青島隊長の周りで「あっちか! いや、こっちだな!」と、ドタバタと動き回っている馬鹿は言わずもがなイオリだ。彼は〝ジッとする〟という言葉を知らない。


 訓練校のテストは、体力測定と筆記試験があった。人間と混血者を総合でみると首位を独走していたのはソウジだ。俺とヒロトは筆記がまるっきり駄目で、総合で競うとなるとどうってことない。


 ヒロトは常に総合で競っていた。猛勉強しても結果は出なかったけど、体力測定だけはソウジの次に身体能力を誇っている。


 そんなヒロトを妬ましく思っていたのが、この豆乃イオリだ。他クラスだというのに、毎日のように喧嘩腰で教室を訪れてはやられてしまい、それでも懲りずに彼はやって来た。


 これだけでも話題の人となったのに、彼をもっと有名にしたのはある一言だった。




「俺とちゃんと戦え! この負け犬が!」




 ヒロトは一度だって無視したことはなかった。さらには、彼はあちらこちらで妙な噂を振りまいた。「あいつは超のつく嘘つきだ」、と。もちろん、誰も信じなかった。


 気づけばイオリは学校に来なくなった。通った日数は1年もないんじゃないだろうか。


 野外訓練が始まってからは、イオリの存在は忘れられていった。かくして俺もその1人だ。




「イオリよ、少し落ち着いたらどうだ」

「いやー、すんませんね。俺ってば一気に強くなっちゃってさ。ドカンと一発やりたくてウズウズするんですわ」




 余裕のある笑みに、そうか――、と納得する。イオリは野外訓練を受けていないし、今回が初任務だ。よって、ハンターがいかにして人を喰らうのか、獣がどのように襲ってくるのかを知らない。さらには、重度の出現により緊迫する闇影隊の雰囲気に馴染めずにいる。いや、そもそも空気を読もうとしていない。


 体質が変化しただけで根本的な部分は何も変わっていない。彼はあの頃のままだ。イツキは空笑いしている。




「イオリ君ってすごく元気な子なんだね」

「そうかー? お前らが陰気なだけなんじゃねえの?」

「かもしれないね。だけど、天野家では大人しくしてもらうよ」

「ただのお泊まりなのになんでだよ」

「貴族だから」




 陽気なイオリが顔色を変え、どうしてだか急に半獣化した。




「装!!」




 右半分の身体が変化する。黄色い毛と黒い斑点、それに細くて長い尻尾。チーターにそっくりだ。イオリはその姿でイツキに向き直った。




「それを早く言えってんだ。なんてったって、コレを手にできたのは貴族様のおかげだからな」




 イオリの話によると、貴族は実験費用の資金源であるらしく、中でも特に資金提供したのが天野家なんだそうだ。


 それからというもの、騒がしかったイオリは大人しくなった。

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