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第13話・イオリ様だっつーの! 新たな仲間

【野営地】


 合宿、最終日。終了まで残り数時間――。




「あーあ、やってらんねえわ」




 早くも諦めムードの者がちらほらと見え始める。集合時間をすぎても、離れた場所で一カ所に固まって口々に不満を吐露し合っていた。




「総司令官殿は、俺達を参加させたくねえんだわ、きっと」

「ハンター20体だなんて無茶よね。だって私はただの人間だもの」

「同感。こんなことなら人体実験とやらに参加しとけばよかったぜ」

「せんせーい、ここに人間やめたいって人がいまーす」

「口うるさい親から離れられるならなんだってしまーす」

「ほんとそれなー」

「理由がださいって」




 談笑し、このまま時間が過ぎ去るのを待っているようだ。それも良いだろうと、総司令官は面の奥で無表情にその光景を眺めていた。そこへ、野営地まで登山してきた少年が現れた。


 談笑し合っている集団に近づき、そして尋ねる。




「なあなあ、合宿って終わったのか?」




 笑い声がやんだ。




「だ、誰ですか?」

「おいおい、なに上ずってんだよ! 同じクラスだったろーが! さっき南光から戻って来たんだぜ。おかえりーとか、久しぶりーとか、ないの?」




 ぐいぐいと寄ってくる少年に、集団は後退りした。少年の身体の半分が人ではない姿をしているからだ。


 見かねた総司令官が少年の前に立った。




「悪ふざけはやめろ。今すぐ解くんだ」

「へいへい、すんません。……解!」




 元の姿に戻ったのを確認して、総司令官がまじまじと少年を観察する。


 こんがりと焼けた肌にキツネのような目をした少年は、総司令官に八重歯をきらりと光らせて笑ってみせた。




「成功したようだな。実験の様子はどうだった?」

「すんげえ痛かったっすよ! 父ちゃんに殴られるのより半端ねえ感じで! 気がついたらこれっすわ」

「次からは俺が質問した際には、逐一事細かくはっきりと順に説明しろ」

「へいへい、すんませーん」

「わかればいい。ついてこい」




 行く前に、少年はもう一度集団に声をかけた。




「お前らビビリすぎ。っつーことで、久しぶり!」

「…………誰?」

「イオリ様だっつーの!! またな」




 「あー」と声を漏らし、ようやく理解した様子の集団は、去って行くイオリの背中に嘲笑った。







 やっと終わった、鬼の合宿。伝令隊のニスケさんが届けてくれた手紙を読む俺の隣で、青島隊長は未だに感極まっている。




「もー、泣かないで下さいよ」

「ナオトよ、私は嬉しいのだ! お前が自ら言霊を作り上げソウジに勝利したと聞かされた時、どれだけ胸が舞い踊ったかっ! 恥など捨て雄叫びをあげたほどだ!」

「聞こえてましたよ、その声は。森中に響いてましたから」




 青島隊長がずっと俺の頭を撫でているせいで、寝癖のようにうねうねとした髪の毛。鼻先をくすぐるそれを掻き上げて、喋り続ける青島隊長を他所に手紙へ微笑んだ。


 ウイヒメからだ。




「青島隊長、話しを変えて申し訳ないんですが……」

「いいぞ、なんだ!」

「ウイヒメの手紙にいくつか薄らと濃い文字があるんですけど、多分これ青島隊長にです」




 何度も読み返していたから発見できたものの、その文字は他の文字に比べてほんの僅かに濃いのだ。そして、そこにはとても気になる単語が書かれていた。




――ナオトへ――

【〝先日〟は突然お邪魔してごめんなさい。〝お話〟があると言ったけど、本当はただ会いたかっただけなの。コン様から貰った〝例の件〟、ナオトの〝勘は見事に的中していた〟よ。だけど、これに関しては適当な返事しかしない姉様も〝誰も信用できない〟から、またナオトに相談したいの。合宿が終わった後、よければ〝お泊まりに来て〟下さい】




 青島隊長は神妙な面持ちで読んでいる。さて、例の件とはいったい何の事だろうか。


 とりあえず、空気を読んで包火で手紙を燃やすと、青島隊長は「ありがとう」と言った。ここでイツキが口を挟む。




「貴族の家系、つまり天野家のような家柄からの手紙にはよっぽどの事がない限り検閲(けんえつ)は入らない。しかも相手がナオト宛てならすぐに伝令隊の手に渡されたはず」

「俺を極貧家系みたいにいうなよ」

「そこじゃなくて、俺が言いたいのは天野家というブランドを利用しただけでなく、ナオトが必ず気づくとわかったうえで細工した誰かがいるってこと。だけど、王家と深い交友関係にある天野家の手紙に細工しようなんて、そんな度胸のある人はまずいない」




 加えて、イツキは「まずこれ、文章の所々が8歳児のものじゃない」と名探偵のごとく推理した。




「ということは、ウイヒメと親しい人がやったってこと?」

「正解。ですよね、青島隊長」

「ああ、その通りだ。これはカケハシ殿からの手紙だ」




 険しい顔に、俺とイツキは硬く口を閉じた。


 そこへ総司令官がやって来た。隣にはどこかで見たような顔の男の子がいる。総司令官は青島隊長に声をかけた。




「青島、今いいか?」

「はい、なんでしょうか」

「欠員補充だ。今日から青島班にこいつを配属する」

「しかし、タモン様は混血者以外の者とは組ませないと……」

「南光が行った実験の成功者だ。青島班全員の試験が終わり次第、紹介するようにとタモン様から命を受けていたが、タイミングが良かった」




 男の子と目が合うと、そいつはにかっと笑いながら俺に言った。




「よっ、ナオト久しぶりー」

「…………誰?」

「お前もかよ! イオリ様だっつーの!!」




 記憶の貯蔵庫が忙しなく動き回る。そして、ある記憶が飛び出したところで、俺はようやく彼を思い出した。




「あー、豆乃(まめの)イオリ!」




 豆乃イオリ――。訓練校では別クラスだったけど、彼はある意味で有名な子だった。

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