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第11話・最弱、闇に触れる

 いくつかある野営地の中で、青島班の野営地は隅の方に設置されている。中を覗くとイツキはまだ戻っていなかった。


 もしかして――と、そんな心配を胸に周辺を捜す。イツキは野営地から少し離れた場所で唸っていた。



「やっぱり……。落ち着かせてほしいとは言ったけど、そんなに無理しなくていいよ」



 両方のこめかみに人差し指を押し当てながら精神統一をはかろうとするイツキ。力なく雪の上に両手をだらりと下ろすと深呼吸を繰り返す。


 彼を見てふと思った。


 家族の件も気になるし、ユズキの事も気になる。しかし、今は目の前にいる大切な友達の話を聞くべきなんじゃないか、と。


 この俺に「友達になろう」と言ってくれたのはイツキが初めてだった。壁を築いているのは自分のため、友好関係という意味では特に周囲に対して不満があるわけではない。けれど、俺は嬉しかったのだ。いくら頭で冷静に考えてみても、心が追いついてなかったのだろう。


 孤独――。俺はこれに堪えられる自信がない。


 とにかくだ。イツキが気を許してくれたように、俺も変わらなきゃいけないと思った。

 

 それに、ユズキのことを聞くのはまだ待った方がいいのかもしれない。なにせ、北闇の住民が多くいる中でユズキだけに気を許したんだ。イツキが荒れていた姿なんて想像すら浮かばないけれど、あの濃い闇は過去を物語っている。


 ユズキの事は一先ず置いておくとして、イツキについて聞いてみるか。



「昨夜の事なんだけどさ、赤坂隊長は誰のことを話してたんだ?」



 イツキの隣に立って返事を待つ。



「誰って?」

「ほら、アレの味方だとかなんとか。それって敵なの?」

「アレは北闇にとっては敵だけど、ユズキにとっては敵じゃない。なんだか難しい獣なんだよね」

「へぇ……。え!? ジンキってけもっ」



 イツキの両手で口を塞がれて、掟である事を思い出した。半分以上も大声で叫んでしまった後ではあるが、周囲を見渡すイツキの顔に変化がないことから、とりあえず誰の耳にも聞こえていないのだと判断する。


 口を解放してくれると、イツキは何処かへ向かって歩き始めた。今いる場所よりももっと森の奥深くに進み、これ以上は危険だと思えるほどに雪が積もる所で歩みを止めた。


 そして、ジンキとはどのような生き物なのかを説明してくれた。



「ジンキっていうのは、北闇の地中深くに棲み着いていた馬鹿でかい化け物のことだよ。どれくらいの年月かはわからないけど、長い間眠りについていたのに突然目を覚ましたんだ。……今から12年前にね」

「その12年前ってさ、何があったの?」

「あの日、北闇を大地震が襲った」



 それを聞いて、生まれた日の出来事が脳裏に過ぎった。


 〝ドンッ!〟と大きな音が聞こえた後、建物が上下左右に揺れて、まだ生まれたばかりの俺とヒロトを両脇に抱えた父さんは急いで建物から外に出た。


 しばらく同じ感覚で揺れて、そこから徐々に落ち着いていくのが本来の地震。しかし、12年前の地震は長くは揺れなかった。けれど、一発目の衝撃は想像を絶するほど大きすぎて、大木で築いた壁は倒れてしまった。


 俺の記憶を補足する形でイツキが話を続ける。



「地震の原因はジンキが覚醒したことによるもので、地中から這い出ようとしたんだ。でもそれは1人の女性によって阻止された。光影(こうえい)の国出身、夜桜(よざくら)レイ。彼女がジンキを再び眠りにつかせた」

「光影の国って、たしか北闇と東昇の間にある小国だよな?」

「うん。光影血筋の人間には特殊な能力がある。人間なのに言霊を使えるんだ」



 身を乗り出す勢いでその言葉に食いついた。



「走流野家だけじゃないのか!?」

「残念だけど全く別物だよ。俺達の言霊は自然の力によるものだけど、光影の国の言霊は眠らせる能力しかない。闇影隊のように隊を組んで戦うんじゃなくて個人で扱うから、封印術士っ呼ばれてる。発症する人間はごく僅か。能力の差異も極端で、夜桜レイは中でも凄腕の封印術士だったみたい」

「そうなんだ……。ってことは、ジンキはまだ俺達の足もとにいるってことなのか?」

「ううん、もういないよ。足もとには、ね」

「じゃあ、何処にいるんだよ」



 イツキは記憶の糸を辿るかのように、ゆっくりとした口調で言葉を紡いだ。



「夜桜レイのお腹の中には赤ちゃんがいた。出産予定日はまだ数日先だったのに、大地を揺るがした最初の衝撃で陣痛がきた。レイは本部にいる夫の元へ向かった。だけど、玄関先には大きな空洞ができていて向こう側へは行けなかった」




 その時、レイは空洞の奥に生き物の存在を感知した。そこへ侵入し、ジンキと対峙した。ジンキは四肢を地に着けて立ち上がろうとしていた。このままだと北闇がひっくり返ってしまう。時間が無い。だから、ジンキを自分に封印することにした。陣痛に堪えながらそうして自分の職務を果たした。


 ここで事件は起こる。封印した直後に破水してしまったのだ。自力で出産するしかなかった夜桜レイ。そこへ闇影隊が駆けつけた。直後、赤子が誕生した。赤子は産声ではなく獣のような咆哮を発した。そして、あろうことか母親である夜桜レイを喰い、その場にいた闇影隊を襲い、――殺した。


 イツキの目からポロポロと涙がこぼれ落ちる。




「封印は失敗した。夜桜レイではなく、胎児に……俺に封印されたんだ」




 頭からつま先まで、ぞわっとしたものが俺の全身を這う。イツキは混血者だ。その力の源は――ジンキ。




「俺の力の根源は、母乳ではなく、母親を初の食事としてしまったことへの恐怖なんだ。これが始まりで、鍛錬場に閉じ込められた恐怖、闇影隊への恐怖が積み重なって、あんな闇に仕上がった……。味方なんて誰もいないし、父親がどこにいるかもわからない。ずっと一人ぼっちだった……」




 イツキは孤独に耐えきれず父親を探そうと北闇を脱走した。そして、森でユズキと出会い再び鍛錬場に閉じ込められた。


 イツキの力を目にした時、初めこそは驚いていたそうだが、彼女はイツキにこう言った。「僕達は特別だな」、と。この言葉が彼女へ執着する原因となっているようだ。


 とはいえ、その気持ちは十分に理解できるものだった。ユズキは頭から否定しない。ありのままを受け入れた上で、間違っていることを正そうとしてくれる。だからといって、根っこから正そうとするわけではない。頭に染みついているものを無理に消そうとはしないのだ。


 こんな相手には滅多に出会えないだろう。だからこそ、ユズキの存在は何よりも大きく感じるのだ。


 それはともかく、ユズキから聞いた話しと繋がった。だけど、あるのは情報がまとまった達成感ではなく、胸を抉られたような痛みとユズキに対する怒りだ。


 彼女はこの事を知っていたはずだ。それなのに、イツキがいる目の前で「ジンキの味方」だと言い放ったのだ。いくら物事をはっきりと口にする性格だといえども、時と場合を考えてほしいものだ。


 イツキを頼れと言いながら、当の本人をこんな状態に追い込むなんて。


 そして、こうも思う。俺はいったい「何を知ってしまったんだろう」と。


 だって、変じゃないか。イツキの体内に封印されているのに、なぜ彼女は味方だと言ったのだろうか。いつジンキに接触したんだ?


 何が彼女をあそこまで動かしたのか、何に片足を突っ込んでしまったのか。


 まるで胸の中で大勢が慌ただしく走り回っているみたいだ。疑問はやがて不安に変化していく。不安は俺に逃亡の一歩を踏み出させようとしていた。

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