最強家族の最弱・1
学校から家までの帰路。国民の注目を浴びる。
俺という生き物を彼らが完結に教えてくれるはずだ。国民ってのは、主食だと言わんばかりに噂話が大好きだ。
「呪われた双子め……」
「あんたの奥さん、妊娠しているんだろ? 絶対にこの道を歩かせるんじゃないぞ」
そうじゃなくて。
「岩を拳で砕いたり、走らせればあっという間に遠くへ行っちまうってのは本当かい?」
「ああ、そうだ。息子に聞いた話しだが、混血者と同等の力をもっているらしい。呪われているだけでなく、化け物じみた能力も備わっているとなりゃ、成績上位なのも納得だが……。結局は化け物ってことじゃねぇか」
「あの一家、他国でも有名らしいわよ。恥ずかしくて外に出られやしない。北闇の汚点だわ」
もっとこう、ちゃんとしたやつを頼むよ。
「そういやあ、母親とお爺さんは行方不明になったが、まだ発見されていないのか? 前にお爺さんの家の前を通ったんだが、廃墟みたいになっていた」
「なあに、二人共もう死んでるさ……。セメルさんも災難だ」
「あの双子の父親か……。本当に可哀想だ」
……ざっと、こんな感じだ。
肝心な所ばかりが抜けているので補足しておく。
俺は訓練校に通っていて、闇影隊を育成する学科を専攻している。
【闇影隊とは、この世界を統治する王家が大昔に設置した歴史ある部隊だ。その目的は、人害となる生き物を駆除し社会の安寧を維持することである】
とまあ、教科書から引用するとここまで簡潔に説明できるが、現実はそんな生易しいものではない。その証拠に、国の裏山には数多くの英雄達が眠っている。綺麗に死んだ者なんて数人いれば良いほうじゃないかな。
そんな脅威的な人害なる生き物を討伐するのが、闇影隊の職務だ。そして、化け物と呼ばれる俺たち兄弟には、――いや、兄には学校から大いなる期待が寄せられている。
全く同じ顔をした兄は、隣を歩きながら人相の悪い顔で人々を睨みつけていた。目が合うと、皆それぞれ違う方へ視線を向けて帰路から消えてくれた。
「やめなよ、ただでさえ目つき悪いんだからさ」
兄の背にそう声をかけると、舌打ちで返事をされた。
ああ、大事なことを言い忘れていた。
俺の名前は走流野ナオト、12歳。ここ、北闇の国に住むマイナス思考の陰キャラだ。伸びきった黒い前髪が視界を覆う不気味な奴である。こんな俺の唯一ともいえる得意技は作り笑いだ。より不気味さが際立つ。だから、友達は1人しかいない。
訓練校では、こんなあだ名で呼ばれている。〝千切れかけの金魚の糞〟。兄の背にひっついているからだろう。
兄の名は、ヒロト。
金髪というだけでも十分に目立つのに、下唇にある三つのピアスは印象に残りやすく、また喧嘩が強い。俗にいう不良の類いだ。性格は短気で、口が悪い。入学する前から問題児である。
その反面、入学から今日に至るまで、一位の成績を誇るという天才であるし、喧嘩はするけれど友達作りがとても上手だ。ゆえに、女子から人気がある。
家に近づくにつれて、道ばたや電柱の後ろ、はたまた会話をする振りをした女子の集団がちらほらと見えてきた。彼女たちの目的はヒロトだ。
「来たっ」
「目の保養っと。一週間後の卒業試験受けるのかな?」
「だとしたら、私も受けなくちゃ。運が良ければ同じ班になれるかもー!」
などと言いながら、ヒロトに注がれていた視線は次に俺へと向けられる。脅迫と、まるで神に願うかのような切望した眼差しだ。
無駄に重たい鞄を抱きながら、目の前で静かに揺れる金髪を見て小さく息を吐いた。鞄の中には、教科書よりも分厚いラブレターの束がぎっしりと詰まっている。
玄関の前に着いてヒロトが家の中に入ると、突然、誰かに敷地の外へと引っ張られた。女子の集団の中に居た一人だ。名前は知らないけど、彼女は確か、誰よりもヒロトに恋着している。
右腕には、恋愛成就で謳っている神社が売る、色鮮やかな玉が連なるブレスレットをつけている。
「ちゃんと渡しているでしょうね?」
声を低くして、じりじりと追い詰めるような瞳で俺に言う。
「渡しているよ。部屋は別だから読んでるかどうかまではわからないけど」
「そっ。それで、試験は受けるって?」
彼女が気にしているのは、一週間後に行われる卒業試験のことだ。これに合格すれば俺たちは闇影隊に入隊することとなる。彼女も受験資格を得たようだ。
「ヒロトの性格、君が一番良く知っているだろ?」
「あ、当たり前じゃない! 何よ今更」
「ヒロトは受けるよ。多分、家に帰ったらその事で話すと思う」
玄関から俺を呼ぶヒロトの声が聞こえる。
「じゃあ、もう行くね。手紙は必ず渡すから。同じ班になれるといいね」
「あんたって気味悪いけど、良い奴ね」
「ありがとう。一つ良いことを教えてあげる。ヒロトは単独で動くみたいだよ」
「本当に!?」
「うん、じゃあね」
去って行く彼女の背中に笑顔で手を振る。
(……うぜぇな。下僕みたいにこき使いまくっておいて、調子良すぎんだよ)
そうしてやっと家に帰る事が出来た。
居間でダラけいると、早速ヒロトは本題に入った。
「なあ、ナオト」
「なに?」
「一週間後の卒業試験、絶対に合格しような。闇影隊になって外に出まくるんだ。んで、親父みてぇに活躍しまくって、アイツら全員を黙らせてやろうぜ。な?」
「簡単に言うけどさ、〝ナニ〟と殺りあうかわかってんのかよ……」
すると、ヒロトは自身の両手を擦り合わせて、その手で俺の両頬を包み込むようにして軽く叩いた。頬にはじんわりと熱が伝わってくる。俺は、本日何度目かの息を吐き出した。
「安心しろ、だろ?」
「そういうこった。まだ一週間もあるんだ。俺や友達に相談するのも良し! とことん悩めばいいじゃねぇか」
念のために言っておこう。学校から絶大な期待が寄せられるヒロトは訓練校にて最強の人間である。
つまり、噂は事実だってこと。




