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模擬訓練と最弱・3

 箱が消えたのと同時に、俺の中で爽やかなイメージであったイツキも消えていく。 




「4分ってところかな。なかなかやるね」

「なんの時間だ?」

「あの中にいた時間だよ。(おん)牢鎖鏡(ろうさきょう)。この言霊は敵を捕獲し、情報を抜き取るための技なんだけど……」




 顎に手を添えて、観察しながらイツキは俺を軸にくるりと回った。




「あの情報はなに? あの人達は誰?」

「誰って……――っ!」




 そうだ、俺の小指を引いて歩いていたのはイツキだ。あの闇の中にイツキもいたんだ。




「あれはパニックが引き起こす幻覚みたいなものだろ?」

「そうだけど、映し出すのは空想の世界なんかじゃなくて〝現実〟だよ」




 毛穴という毛穴から汗が滲み出てきた。中での出来事がイツキには見えていた。闇に捕獲されていた時よりも気が動転してしまいそうだ。


 色々と策を練るも、大猿になぶり殺しにされた仲間を見て笑っていたような奴だ。あの2人の姿を見たからといって、恐怖など抱くはずもない。あるのは、ただ純粋な疑問だけだ。


 ならば、もっともらしい言い訳を押し通す他ない。




「ある意味あれは現実かも。俺さ、小さい頃からよく怖い夢を見ていたんだ」

「夢?」

「うん。父さんも爺ちゃんも闇影隊だろ? どんな仕事なのか頭ではそれとなく理解していたけど、本当に理解したのは俺自身が闇影隊になってからだ。それまでは、三種の姿なんて空想の世界の生き物だったから、いつも想像してたんだ。人を殺す2人の姿を……」

「だけど、2人は人を殺さないよ?」

「それを知ったのは訓練校に通ってからだ。小さい頃は人を殺してるんじゃないかって思ってたし、夢にまで見るようになった。あの頃の俺にとっては夢ですら現実みたいなものだ。頭に染みついて、トラウマになって今でも夢に出てくる」

「ああ、そういうことか。だからあんなに悲惨な姿なんだ。ダメだよ、ちゃんと闇影隊の職務を把握してなきゃ。タモン様が任務の振り分けを行う闇影隊の主な職務は三種の討伐。当主が任務の振り分けを行う闇影隊の主な職務が人に関係するもの。これでもう大丈夫だね」

「え、そうなの?」

「うん、当主に関しては授業で習わないからね。それに、所属を振り分けるのは学校だし。少しでも混血者の役に立ちそうな人間はこちら側に配属されるよ。だけど、人間にも悪者はいるでしょ?」

「あ、ああ。そうだな」

「タモン様は忙しいから、代わりに当主が指示を出してるってわけ。ただ、給料の差が凄いから、タモン様側の闇影隊に異動願いを出す人が多いけど」




 なるほど――、と心の中で納得した。


 おそらく、大猿やハンターとの戦いで生き残った人間の中に、学校側が選んだ優秀な者たちがいたのだろう。そして、ただ逃げ惑っていた彼らが異動願いを出した者。どうりで死者が多かったわけだ。


 とにかく、これで話しを流す事に成功した。納得する俺を見てイツキは満足そうだ。そして、本題に入る。




「んで、俺はイツキを捕まえなきゃいけないわけだけど……」

「あ、そうだった。じゃあね!」

「――っ!?」




 地面に落ちていた枯れ葉が宙を舞う。すでに、そこにイツキの姿はなかった。ユズキの言葉を真似るわけではないが捕まえるだなんて無茶だ。


 1キロの範囲ならいけるかも、だなんて心の隅っこで考えていたけど足が速すぎる。これだと、どれだけ追いかけても叩き損ねた蚊のような心情になるばかりだ。


 イツキを捕まえるより先ず、ユズキを捜すことにした。範囲が狭いおかげでそう時間はかからず、彼女を発見した俺は今までの事を話した。




「あれは、内側からしか攻撃できない上に、イツキの念に勝る念でないと破壊できない仕組みになっている。経験が物をいう言霊は、相手が抱くあらゆる感情に勝つしかない、というわけだ」

「だとしたら、衝撃砲だけで簡単に壊せるもんじゃないだろ?」

「それほどまでに、お前が悪夢に対して抱く感情が大きかったって事だ。イツキも驚いただろうな。まさか、4分で破壊されるだなんて思ってもなかっただろうから」




 ユズキの身体に伝う汗や赤く腫れている拳に自然と笑みがこぼれた。内側からしか攻撃できないと知っていながらも、ただ待つだけではなく、外で動いていたのだとわかるからだ。たった4分間で、いったいどれだけ破壊を試みたのだろうか。




「ありがとう。ユズキも疲れただろ? 手は痛くない?」




 そう言うと、ユズキが頬を赤く染める。前もそうだったが、彼女は心配されたり褒められたりするとすぐに表情に出る。こういったことには慣れていないのだと、語らずとも言っているようなものだ。


 勢いよく立ち上がって、顔を隠しながら「さっ、イツキを捜すぞ!」と裏返った声で言ってユズキは歩き始めた。

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