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鬼と毒花・1

 本調子に戻りつつあるタマオ。テンリから受けた傷はとても酷いものだったが、ヨウヒの手助けもあって元気になった。


 包帯の交換をヨウヒが行っている最中、タマオは難しい顔で俯きながら僕に話しかけた。




「本当に、こんなときに申し訳ございません。これまでずっと皆さんの足手まといにならぬようアジトで大人しくしていたのに、私としたことが……」

「どうして外出を?」

「イッセイ様へ食糧を届けようと思ったのです。私に出来る事は、皆さんの健康を管理することくらいですので。ですが、足を引っ張ってしまいました」

「気にするな。猫の捜索はトウヤたちがやってくれている。まずはしっかりと治すことに専念しよう」




 僅かに口角をあげて、タマオは僕に視線を寄こした。




「初めてお会いした日からずっと思っていることがあります」

「なんだ?」

「変な子ですね」

「おい」




 ヨウヒがクスクスと笑う。




「大抵の方は、例えそれが同じ重度であっても、私共を前にすると驚くものです。喜びを通り越した驚愕、あるいは世界が広がったことによる未来への期待……。誰もが顔に滲ませていました。しかし、ユズキさん。あなたは違う」

「もともとこんな顔なんだ」

「顔のせいじゃないでしょう。私は僅かながらの憎しみと不安を感じました。マヤ様との出会いをお話しさせて頂いたときもそうです。あなたにはニオイや気配がない。それはつまり人と同じ生活を送ることが出来なかった証拠。私たちのようになっても不思議じゃない。ですが、あなたの抱いていたものは、私を通して世界全てを憎んでいるかのようなものでした」




 包帯お交換が終わり、ヨウヒは部屋を出て行った。




「今ならわかります。そうさせたのはナオト君でしょう。揺るがない友情があなたを突き動かした。でも、彼だって普通じゃない」




 そう言って、タマオはメガネをかけ、きちんと僕と向き合った。




「あなたはナオト君も威支も平等として扱っている。と、過程します。仮に私があなたに牙を剥いたらどうしますか? 私を殺しますか?」

「殺す理由がない」

「じゃあ、もしも私がセメルやヒロト君を殺した犯人だったらどうしますか?」

「なぜその必要があったのかをまず確かめる」

「やっぱり変な子だ。友人の大切な家族を殺されたというのに、話しを聞くだなんて」

「向こうに非があった場合を考えているだけだ」

「忘れてはないですか。私は重度ですよ。存在そのものが罪の生き物なんです。人間に狙われるならまだしも、同じ重度に命を奪われそうになるなんて……」




 まるで生きる場所がないとでも言わんばかりの苦痛に満ちた表情。とはいえ、気持ちはわからなくもない。




「僕もこの体質には色々苦労させられた。他人が嫌うならまだしも、家族まで……と、そう思った事もある。だが、今となってはどうでもいいことだ」

「では、どうしてそんなに世界を憎んでいるのですか?」

「夢も希望もないからだ。そんな世界に未来はない。味方にとっても、敵にとってもな」

「仕方のないことです。人々は過去を蔑ろにしすぎた」

「言っておくが、子どもにはまったく関係のないことだ。大人の事情で散々振り回される子たちの気持ちも考えろ。人々でなく、これは先代たちの責任だろう。しかももう故人ばかりのな。直に関わっていない者に責任を負わせるのは間違いだ。今の時代にお前の仲間を殺した人間が存在するならば話しは別だがな」

「戦争はもう避けられないですよ」

「わかっている」




 威支のマントを羽織って扉に向かう。頼れるのは〝彼ら〟しかいない。




「出かけるのですか?」

「ああ。すぐ戻る」

「お気をつけて」




 部屋を出ようとする僕に、タマオはまだ悲しげな面立ちでいた。




「……僕にお前を殺すことはできないと思う。ご飯が美味すぎるからな」

「どうしようもない理由ですね」

「そうか? 僕は好きだぞ。家族みたいで」

「家族……ですか」

「威支に母親がいるとすれば、間違いなくお前だ」

「本当にあなたって人は……。まるで毒花だ」

「どういう意味だ?」

「感化されていくってことです。ジワジワと時間をかけてね。恐ろしい子だ」

「よく分からんが、友達も仲間も家族も似たようなものだろう。良くも悪くも感化される」

「ははは、確かにそうですね。さあ、行ってらっしゃい。あまり遅くならないで下さいよ」




 向かうは幽霊島――。


 そこでビゼンたちが帰ってくるのを待つ。


 トウヤと話した後、いろいろと考えた。今の僕に何ができるのか、短い両腕で何を守ることができるのか。公園で一緒に花火をしたあの子たちを、他の子らをまもるためには何が最善か。




(敵も味方もとんでもない力の持ち主ばかりだ。きっとガディアンにもなんらかの策があるはず……)




 対抗する手段として何が最も効果的か――。




「バコク、出発だ!」

「うん、行こう」




 タマオ以外の唯一の非戦闘員、バコク。彼にまたがって大地を駆ける。




「……ユズキ、ありがとう」

「別に構わない。後のことは頼んだぞ」

「了解。しっかりと調査してくる」




 帰ったらキトに答えを伝えようと思う。ケンタの記憶を覗いてくれ、と。

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