白草と鬼・5
――ヒスイと犬の双子が大喧嘩した、あの丘だ。あそこはトウヤの出発地点だったのか。
僕はこんなにも流されやすい生き物だっただろか。
トウヤの過去に触れてからというもの、抱いていた怒りが綺麗さっぱりと消えている。
「皆は知っているのか?」
「イザナには話している。だからあいつはヒアンの願いを聞き入れなかった」
「そうか……」
キトが話していた、長としての覚悟。その意味がシュテンを通してわかったような気がする。今の僕には……。
「ユズキ、俺は明るい未来を見つけ出せと頼んだはずだ」
「だけど戦争はもう避けられない」
土地神を奪い返すだけではダメだったんだ。だってそうだろう? トウヤの記憶は僕にこう教えてくれた。五角四神のうち、9体の配下たちは人間が食べてしまった。そうしてトウヤのような重度と呼ばれる生き物が誕生したのだ、と。
「ラヅキが許すはずがない。当事者同士が解決すべき問題を子孫に片付けられる訳がないんだ。あの流れで行くと、メグという女は女帝だろう? 何代目なんだ?」
「初代がカンム、二代目がジンム、三代目がオウスイ、四代目はオウスイとトアの母親であるメグになる。0の時代を長引かせたのは、裏でメグが手を回していたからだった」
じゃあ、いったい白草家の血筋はどこで止まったんだ?
話しを聞く限りでは、ラヅキはヘタロウと名乗るカンムを敵視していないような感じがした。むしろ、カンムの願いを聞き入れて長い間を巨樹で過ごしていたくらいだ。
つまり、時代の流れが落ち着いた頃にカンムは新たな家族を持ったわけだが、まるで待ってましたと言わんばかりにテンリによって妻を殺されている。だけど、ナオトがまだ生きているから血筋は健在……。いや、カンムの方ではない。オウガが気にしていたのはジンムだ。
「メグとはいったい何者だ」
「オウスイとトアの母親であり、ジンムの妻。彼女はただの人間だ」
「っ、まさか……。現王家の血筋はそこが起源なのか!?」
「そういうことだ」
王家が混血者を根絶やしにするなら、ラヅキは人間を根絶やしにする。
「ラヅキを捜さなきゃ……」
「それは許可できない」
「なぜだ!?」
ここで、トウヤはようやく硬く閉ざしていた口を開いてくれた。
「確かに前王家と神々は0の時代で散々やり合ったがラヅキはもう恨んではいない。むしろ、白草と鬼が犠牲を払ったと知って胸を痛めていたくらいだ」
「どういう意味だ」
「兵士の言葉を繰り返そう。白草の子どもたちの人数まで把握しているわけではない。絶対にメグには従うな。白草に玉座を返さなければ、この世は人間の手によって破滅の道を進むだろう……」
「それがなんだ?」
「犠牲となったのは、白草家の者たちだってことだ。俺や他のメンバーの起源は白草なんだよ。カンム・ジンム・コウムの子どもはメグの手によって体を毒され、しかし自身に宿る治癒能力が死ぬことを許さず、あろうことか神々の力と融合してしまった。メグはこれを利用した。白草家は化け物だ、とな」
「でも、トアは鬼だって……。っ、鬼を食わされたのか!?」
「そうだが、問題はそこじゃない。俺がラヅキの捜索に反対したのは、ラヅキよりも怒りを内に秘めている者が近くにいるからだ」
「ヘタロウか……」
「ああ。青島も言っていただろう? ヘタロウの炎はどんな生命をも奪う。奴が本来の力を解放すれば例えテンリが相手になったとしても無傷では済まない。セメルの読みは何一つ間違えてなどいないし、早とちりでもなかった。ラヅキが教えてくれるまでは分からなかったことだがな」
見事なまでの八方塞がりに、しばらくの間言葉をなくした。
「……ヘタロウも気持ちはラヅキと同じだな。許せるはずがない。ましてや、現在進行形で家族の命を次々に奪われている」
つまり、ヘタロウにとっては敵がまだ生きているということ。恨みの矛先を間違えるはずもなく、確実に潰しにかかるだろう。
「戦争を終わらせられるのはお前とナオトだけだ。俺はそう断言する」
「こんなにも犠牲者が出た後で、愛情が憎しみに勝るとでも?」
「どのみち、これはもう運命のようなものだ。避けては通れんだろう」
シュテンの墓に手を置いてトウヤは続ける。
「神と白草、そして鬼が同じ場所に集まったのだからな。おそらく、ガディアンはこれを阻止したかったに違いない。特に白草と鬼の団結はそうだろう」
「鬼……?」
「ナオトは、新たな力が望んだキアキという名を快く授けた。俺の記憶を見たお前になら、これがどういう事かわかるだろう」
「ヘタロウがナオトに修行を課せたのは鬼の復活を手助けするためだってことか?!」
「俺の予想が当たっていればな。ちなみにだが……」
名を与えていないだけで、ヘタロウの紫炎からはシュテンの気配を感じる――。
僕の知らぬ間に事は大きく動いていた。
ヘタロウはこう話していた。理不尽かもしれんが、親にとって子どもの気持ちなど関係ない。天秤にかけるなら自分の命だ。自分がそうしたように、ラヅキもそうした、と。
これは互いの長としての覚悟だった。




