表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
313/316

【逸話】トウヤ・3

 嵐のなかを逃げることも出来ず、俺はミリアを抱いたまま近くの茂みに隠れていた。残された兵士も斬られ、王家は死体を確認した後、何事もなかったかのように集落を去って行った。


 兵士の1人はまだ生きていた。深すぎず、かといって浅くもない斬り込みに苦しんでいる。涙が溢れ出た。




「馬鹿野郎……。だから出るなって言ったんだ……」

「ごめっ……ごめんなざいっ……」




 頬に添えた震える手を、男は握ってくれた。




「王家を恐れるな。今の王家はお前に比べりゃ雑魚も同然の生き物だ。だが、どんな時代を迎えてもお前は楽に生きることを許されないだろうよ」

「どうじだらいいのっ!?」

「仲間を捜せ。お前みたいな生き物はあと何体か存在する」

「何人いるの!?」

「すまないが、白草の子どもたちの人数まで把握しているわけじゃないんだ。だがな、これだけは覚えておけ」




 男の口から大量の血が噴き出す。




「絶対にメグ様には従うな。白草に玉座を返すのだ。でなければ、この世は人間の手によって破滅の道を進むだろう」

「わがらないよっ……。白草って誰なの!? ねえ!」




 ヒュンッ……と、風を切る音が聞こえた。同時に男の首が切断される。やったのは王家だ。




「やはり隠れていたか。自らのこのこ現れるとはこのマヌケめ」




 腰を抜かせた俺に、王家は血だらけの切っ先をあてがった。




「王家も暇ではない。この瞬間も鬼退治で同士が死んでいるのだ。頼むからそこを動かないでくれ」




 胴体と切断された顔。見開かれた兵士の目は俺の目を見つめている。その光景がやけに鮮明に映し出されたのは、ミリアが包帯をずり下ろしたからだった。




「トウヤ、王家を見て!!」




 我に返り垂れていた頭を斜め上に向ける。いつの間にか囲まれていて、ぐるりと一周見渡した。すると、




「がはっ……。息がっ……ぁあああっ!!」




 目が合った者、全員の穴という穴から血が噴き出たではないか。




「今のうちに逃げるよ!」

「わっ、わかった!」




 こうして俺は無事に集落を脱出することができた。


 ミリアをおんぶしてひたすら歩き続ける。ミリアは俺の耳元でこんな話しをし始めた。




「あたしね、トウヤのこと知ってたんだ。名前を聞いたときは驚いたけど、噂に聞くのと全然違ったから驚いちゃった」

「どういうこと?」

「トウヤは蛇の生まれ変わり……」




 言いながら首の鱗を撫でる。




「蛇の眼は全ての生き物を殺してしまう。蛇に睨まれた生き物は蛙になるしかないの。大人たちは呪眼だって話してた」

「呪眼……。それがさっきのやつってこと?」

「悪者は死んだ?」

「え? あ、うん」

「そっかー。トウヤはすごいね!」




 ミリアはクスクスと笑っていたが、やはり声に力は無かった。




「ねえ、トウヤ」

「ん?」

「あたし、トウヤのこと大好き。優しくて、恥ずかしがり屋で、誰よりも外の世界に憧れているトウヤがだーい好きだよ」

「ななななんだよ、いきなり!」

「同じ憧れを持っている人が近くにいるって幸せなことなんだよ。同じ夢を見て、同じ話で楽しめて、ずっとずっと同じでいられるの。なんでかなあ、トウヤとだったらいろんな景色を楽しめる気がするんだ」




 背中でミリアのか弱い鼓動を感じていると、ふと焦げた臭いが鼻の奥をついた。いつの間にか戦場のど真ん中を歩いていたらしい。正体は焼け焦げた大地と、たくさんの死体。その上を駆ける見たことのない生き物たちまでいる。




「ミリ……ア……。どこにもないよ……」




 美しい世界なんて、どこにも。あるのは荒れ果てた大地に黒い煙をだす木々。鳥のさえずりもなく、絶えず怒号と絶叫が響き渡っている。地平線のもっと向こうまで続く地獄絵図に俺はこれ以上進めなかった。




「なにがないの?」

「なにって、川も海も空も、なにも見えない!」

「そんなはずはないよ。だってお母さんがあたしの代わりになんでも教えてくれたもん」

「代わり……?」




 そう言えば、どうしてミリアには呪眼が効かなかったんだろう。ふと、そんな疑問を抱いた。




「……――っ、もしかして見えないの?」

「うん。生まれた時から目が見えないんだ。だけどそんなの関係ないよ」




 小さな両手が俺の頬を包み込む。




「蛇の鱗がトウヤだって教えてくれる。その声がトウヤである証拠。冷たい肌も、たまに乱暴な口調なのもぜーんぶトウヤだよ。見えなくたってわかるもん」




 戦場のど真ん中で俺は今どんな顔をしているだろうか。




「泣いているの?」




 もう、このまま2人で大地に寝転がって成り行きに任せよう。そんな気さえ起こるほどに俺はミリアが愛おしくて仕方がなかった。この感情を抱いていたのは、おそらく初めて会ったあの日からだ。あの日からずっと、俺の心は常に温かくて、寂しさを忘れていたのだから。




(疲れたな……)




 座り込んで空を仰ぐと、大きな影が俺とミリアにかかった。




「子どもがこんなところで何をしている!」

「っ!?」




 王家に心臓を鷲づかみにされただけじゃ済まないのか。そう思えるほどの大きな生き物。


 5本ある角は敵を簡単に串刺しにし、15個ある目はすべてを見渡せるに違いない。6メートルもある巨体は恐ろしさの裏に、必ず守ってくれると安心感を抱かせる――。


 複雑な感情を抱かせるこいつは、鬼だ。




「その姿は……。来い、避難するぞ」




 俺とミリアは簡単に俵担ぎにされ戦場から離れた場所へと連れて行かれた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ