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白草と鬼・4

 あれから数ヶ月の時がすぎた。全員が出払うのを見計らって、神霊湖と陸を行き来するための小舟に乗り込んだ。それに乗って単独で湖を徘徊する。あの本が正しければ――。




(本当にあった……)




 砂浜まで船を押して一体を見渡す。岩場と枯れ木しかない辺鄙な島。少し奥まで行くと、廃村の面影を残す場所に辿り着いた。




「ここが鬼が暮らしていた島……」




 すなわち、キトが生まれた場所。


 廃村を通り過ぎて更に奥へ進むと、何気ないシンの一言を思い起こした。王家が暗殺していたという推測が現実であることを島が教えてくれる。誰が作ったのだろう。目の前に現れた墓を見ながらそう思った。


 岩には名前が削られている。いくつもある岩の形は大小様々で、その意味が分かったのはある墓を前にした時だった。




「シュテン、イバラ、キト……」




 シュテンの墓石は大きくて横に広く、イバラの墓石は縦に細長い。キトのは小さくて丸い墓石だ。このように、岩の大きさは家族構成を示している。


 それともう一つ、もしキトがこの世界の生き物なら、僕と一緒にこの世界を去ったことになる。つまり、死んだ事になっているわけだ。


 小さい墓石はいくつもある。涙腺が熱くなる。




「ここまでして人間だけの世界が欲しいのか、オウガ!!」




 独り言で叫んだ僕の声を誰かが拾った。




「ユズキ、ここで何をしている」




 声の正体はトウヤだ。




「お前こそ、何を隠している」




 言いながら、本の最後のページを開いて見せた。見覚えのあるそれにトウヤはしばらく沈黙した。




「第二試験の時から変だとは思っていた。テンリが幻覚だとわかったときのお前とヨウヒの反応は明らかに様子がおかしかった」

「気のせいだ」

「そうか?」




 本を閉じて脇に抱える。




「あの時、お前達は僕の肩辺りに視線を落としていた。テンリは僕よりも身長が高いんだがな。いったい誰を見ていたんだか」




 探りを入れたところで何も答えやしないだろう。話してくれるのならもっと早くにそうしていたはずだ。




(もういい。帰ろう……)




 母親やヒロトとの件は落ち着いただろうか? ナオトに会って気持ちを楽にしたい。そんな気分だ。


 トウヤに背を向けると、突然こんな話しをし始めた。




「俺は言ったな。王家や人間を地獄へ葬った元凶はラヅキだと。あれは俺の間違いだった。元凶は初代猫だ」

「だったらなんだ」

「お前がナオトの所へ行った日、キトは俺たちの頭の奥底に眠っていた記憶を蘇らせてくれた。敵を見誤るなとそう教えてくれたのだ」

「それだけか?」

「ああ。その時、重度が13体いると知った。とはいえ、これは俺がオウガについた嘘だ。4体は重度ではない。1体は幻惑の森の主・コウ。もう3体はわからんが、共鳴していないことから重度じゃないことは確かだ」

「試験前にラヅキが見せたのは?」

「…………それは答えられない。すまない」




 トウヤに目を背けさせるなんて、ラヅキはいったい何をしたんだ。目が見えないため今の感情がわからないけど、話せないという空気だけは伝わってくる。


 だけど、それでも、




「ラヅキは僕の家族であり、父親だ。その父親は僕の仲間に何かを伝え、居づらい空間を作り出してしまった。嘘をつくことによってな。そしてその嘘は、これまでの僕たちの努力を全て台無しにした。……トウヤ、僕は傷ついている。こんな感情は生まれて初めてだ」




 人間らしく生きることがこんなにもツラいなんて。




「僕はもう必要ないのかもしれない。キトに言われたとおり、北闇に戻ってナオトたちと過ごしたほうが正解だったのかもしれない」




 これまで我慢してきたラヅキや土地神の気持ちを無視することはできない。残された二択を無いものにすることもできない。ケンタの記憶を確かめれば僕はもう後戻りできなくなる。何も情報がない中で、どうやって威支と一緒に戦えというのだ。




「なあ、トウヤ。僕はどうしたらいい? こんな世界、もう」「やめろっ!!」




 急に吐き出された声に、出かけた言葉を飲み込んだ。




「白草と同じ道を行くな!! そんなこと、俺は許さないぞ!!」

「何を……言って……」

「お前は大切な者を喪った事がない。だから恐怖を感じる。ナオトやイツキが死んでしまったら、ラヅキが死んでしまったらと、死に恐れを抱いている。そんな哀れな生き方をするな!」

「別に恐れているわけじゃ……」

「今のお前は過去の俺によく似ている。だから、何を考えているのか、何を望んでいるのかも手に取るようにわかる。いいか、ユズキ。喪う前と後とでは違いに大差などない。結局死ぬのなら、どのみち何も残らないのだ。俺は気づくのが遅すぎたが、お前はまだ間に合う。頼むから、明るい未来を見つけ出してくれ」




 そう言って、トウヤが僕の肩に手を置いた、その時だった。触れられたところから光が発生し、景色に歪みが生じたではないか。




(これはっ……)




 トウヤの過去に引きずり込まれていく――。

 ブクマと評価、ありがとうございます!


 世間は夏休み、社会人はもうすぐ盆休み。お仕事の方もおられるでしょうが、熱中症には気をつけて下さいね!

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