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ルイと最弱・3

 自己暗示のみでキルの手下を相手にしながら、女の杖をに注目する。




(やっぱただの杖だよな……)




 グリップが黒ずみから年期が窺える。棒の部分は色がハゲてるし、所々欠けてる部分もあるしで今にも折れてしまいそうだ。それなのに、女の構えは芯の強さを感じさせる大胆かつ繊細な動き。


 ヒュンッ! と風を切る音をたてながら大きく振り下ろされた杖。しかし、それ以外の動きは最低限に抑えられていて、まるで踊り子がダンスを披露しているみたいに綺麗だ。


 時間を忘れて見ていられるほどに美しい女性。たっぷりの魅力に俺は目を奪われていた。 




「余所見とはいい度胸してんな、このガキ!」




 束で挑んできた部下に我に返る。




「アジトを捨てて逃げたくせに、口だけは一丁前だな」

「嘘を見抜けないてめえらがマヌケなんだよ! だーっはっはっは!」

「やっぱり……。サスケさんは囮だろ!?」

「だったらなんだよ」




 喉の奥で不気味な声をあげて笑う塊叫団と距離を置く。




「誰を相手にしてるのか分かってんのか? 俺たちゃ賊だ。利用できるもんはとことん利用するに決まってんだろーが」

「こんな大人数であの女の人を? プライドないの?」

「いらねーよ、そんなもん。だからてめぇらは、いつの時代もたかが人間に負けんだよ!」




 闇影隊を前にしても怯む様子がないのは、おそらくシールドのおかげだろう。あれをどうにかして壊すことが出来れば……。


 ユズキも同じ事を考えている。目を細めてシールドを隅々まで確認しているようだ。


 霊魂(スピリット・)(シールド)は、言霊を無効化する厄介な代物だ。四種討伐のため重宝されてきたはずの俺たちの能力が、まるで使い物にならない。




(自己暗示が通用するだけまだマシだけど……)




 人数で圧倒的に負けている。


 やはり、とっ捕まえるのは後回しにしてシールドの破壊を最優先にするべき、か。とりあえずここは観察眼に長けているユズキに任せよう。目配せで合図を送ると、彼女は小さく頷いた。


 優先事項を決めて、賊に言葉を返す。




「二割は常に葛藤をし続けた。どの時代も……なっ!」




 頭に〝?〟を浮かべる手下。その内の1人の頭を踏み場に跳躍して真ん中に飛び降りる。


 いつだったか、ユズキがトウヤから聞かされたという授業風の歴史の話し。その二割とは、




「混血者は人間に負けたんじゃない。貢献したんだ!」




 彼らの葛藤など無視して王家は人間の世界を選んだ。こいつらもそうだ。王家に手を貸し、企みに乗っかっている。……許せない。


 集団を回転蹴りで蹴り飛ばす。自己暗示のかかった蹴りだ。周りで観戦していた仲間を巻き添えに転がっていく。その内、俺の近くで伸びた手下を捕まえて上半身の服をはぎ取った。シールドが露わになる。




「ユズキ、頼んだ!」

「任せろ」




 キルの吊り目がさらにこめかみに向かって引きつる。




「このクソ共が! さっさと奪い返せ!」




 女が立ちふさがる。




「どこに行くつもりや? あんたの相手はわしや」

「っ、邪魔すんな! たたっ切るぞ!」

「おー、こわっ。やれるもんならやってみぃ。こっちは十何年ものあいだ野生と戦ってきたんや。あんたの手下の言葉を借りるなら、たかが人間なんてちっとも怖くないね」

「このババァ……」

「ようやく理解してくれたみたいで何よりやわ。そうや、わしはオバサンや。あんたはそこら辺のガキと変わらんってこと」




 キルの白目が瞬く間に血走る。背中に担いでいる筒から何かを引っ張り出し、そして、




「二度と無駄口きけねえようにしてやる」

(あれはっ……)




 鉄の塊に肌が粟立つ。キルが取り出したのはランチャーの類だ! 日本の関与は一先ず横に置いておくとして、王国が違うということは、所持する武器も違うってことを念頭に置くべきだった!




「なんや、それ。短剣の次はオモチャか?」




 手下をなぎ倒して女のもとへ走る。視界の端ではユズキがシールドの弱点を発見していた。


 青島隊長は俺の行動を視線で追った。アレが何かが分からないから、きっと理解できていない。




「死ねぇえ!」




 キルの人差し指が発射の合図を知らせる。咄嗟に紫炎を発動させ、そして、




「っ、ナオトォオ!」




 ユズキが叫んだのと同時に、筒の先から赤い火花が散った。全身に衝撃と熱を浴びながら女の人の上に覆い被さる。


 入院はこれで最後にしろって言われたばかりなのに、俺は何をやってんだとも思う。この状況の発端となったケンタに怒りを覚えながら、この人を見殺しにはできないという思いが湧いてくる。


 要は、それくらい考えられるほどに、たいした衝撃がなかったってこと。




(どうなってんだ?)




 ゆっくりと立ち上がって全身を確認する。




「こんなことって……」




 紫炎がランチャーの炎を喰っているではないか。つまり、キアキが食べているってわけだけど、いったいどうなっているのだろうか。




「…………俺は馬鹿かっ。紫炎は言霊じゃない!」




 すると、俺の後に立ち上がった女が、俺の顔を両手で挟んで自分の方に向けた。




「その目……」




 薄紫色の瞳を一点に見つめている。隣では、キルが紫炎に驚愕しているという、なんとも言えない状況だ。




「こりゃダメだわ。出直すぞ!」




 女の人の手を振りほどいて後を追いかけようとすると、青島隊長が道に立ち塞がった。




「追うな。赤坂班と黄瀬班の治療が先だ」

「……わかりました」




 こうして塊叫団を追い払うことに成功したわけだけど、俺は我が目を疑う光景を目の辺りにすることとなった。胸の奥底に眠っていた純粋な少年の心を全力でくすぶられる。

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