ルイと最弱・2
威支を除いた全員が上級歩兵隊であり、それなりに場数も踏んでいても、敵の数と霊魂の盾のせいで不利な状況を強いられている。
言霊を無効化させるということは、捕獲系の牢鎖境なども使えないというわけだ。
さらには、こうなった経緯が俺から言葉を奪った。そもそも、最初に襲われていたのは彼らではなく、どこかに隠れているケンタだって言うんだから、白目をむきかけたのは言うまでもないだろう。背中合わせでいるヒロトは、
「この人たち、ケンタを助けようとして巻き込まれたんだ。んで、俺らが鉢合わせたってわけよ」
「なんでケンタは外にいるんだよ」
「1人で訓練していたんだと。黄瀬班に戻りたいってところじゃね? そんなことよりも、アレがそうなのか?」
そう言って、ヒロトは仲間の背中を見つめた。
ソウジたちの言霊が敵に当たる前にことごとく潰されていく。塊叫団に至っては、数で押しながら、混血者の体力切れを待っている状態だ。
「見ての通りだよ。厄介なチョッキを服の中に着ている。どれくらい時間がたった?」
「数時間なんてもんじゃねえよ。丸一日だ。正直、俺もみんなももう限界だわ」
丸一日と聞いて、俺は塊叫団に忙しなく動いていた両眼をヒロトに向けた。大量の汗に堪えている呼吸、瞳は虚ろになっていて根性だけで立っている。ヒロトだけではない、みんながそうだ。
(あいつらっ……。混血者の性質を分かっている上で長期戦に持ち込んだのかっ)
気づいた青島班と威支は、赤坂班と黄瀬班を囲む形で展開した。
シュエンが一帯に生息している馬鹿でかい木を仰ぎ見る。
「俺が上まで運んでやっから、お前らは賊を片付けろ」
両手を叩き合わせて「装!」と叫ぶ。獣化したシュエンに旅人が驚く。彼は気にせずに人々を抱えて木の上へ避難させていった。続いて赤坂班と黄瀬班も運ばれていく。
キルの表情に変化はない。何か別の企みがあるのか?
「うひょー、あれが重度ってやつか。今すぐ片付けてぇ相手だが、後回しだな。さてさて、どこに隠れているのかなー?」
両手を広げながらくるりと一周回る。
「ほーら、隠れてないで出てこいよー。てめぇのせいで闇影隊が死んでもいいってか?」
いったい誰を捜しているのだろうか。
頭上を仰いで、キルはニタリと笑みを浮かべた。
「そんな所にいやがったのか。見つかんねえわけだな」
俺の足もとに木の葉が数枚落ちる。背の高い――巨樹の群の中から人が飛び降りてきた。
揺れる黒くて長い髪を目で追う。両サイドは編み込まれていて、彩りにあふれたビーズのような物で髪の毛を数カ所で束ねているど派手な人だ。服装は至ってシンプル。ロングジャケットの上からベルトを巻き、中はノースリーブとズボンにロングブーツ。
手に持っている武器はまさかの杖……。何よりも、この人、
「わしに何の用や。しょーもない用事やったらどつき回すぞ」
こんな喋り方だけど女性だ。口の悪さに思わずユズキを盗み見る。
「まあまあ、そうカッカしなさんなって。俺らのボスが多忙になったんで、代わりに済ませにきたってわけよ。……始末しにな」
「あんた、人の島で散々暴れ回ったあげく、わしを殺す気でいるんかいな。脳みそに虫湧いてるみたいやな。ダサいのは服装だけにしな」
「口が達者のようで。今のはイラッときたぜ」
「ブサイクには興味ないんや。顔を磨いて出直しな」
キルが腰から短刀を引き抜く。
「言うねぇ。……殺す!!」
振り下ろした短剣を杖で流す。老人が持っていそうな杖なのに頑丈に作られているようで、傷一つついていない。キンッと高音を発しながら剣先を弾いて、キルのお尻を叩いた。
「いっ!?」
「あんたらも早く上へ避難しな。わしの仲間がいる」
青島隊長がキルと女の間に割り込む。
「ここは闇影隊にお任せ下さい」
「……まったく、相変わらず甘いね、ゲンさん。わしはあんたの部下を心配して言ったんや。混血者の能力が通じない相手なんやろ? なら、念のために上で待機して貰った方が、わしの仲間のためにもなるから安心なんやけど」
知り合いなのか?
「イツキとイオリは彼女の指示に従え」
「残りの2人は? って、片方は女の子やないか! あんたも上に行きや!」
指示に従って木を登っていった2人と違い、ユズキの足は打たれた杭のように地面にくっついている。
「僕は行かない。任務がある」
「後回しにできんの?」
「ダメだ。ここを片付けたら捜索任務に戻る」
「なんちゅー我が儘な子や。どれ、わしが知っている情報なら教えてあげるから、聞いたらさっさと離れな」
お尻を摩りながら苛立っているキルを無視して、女の人はお構いなしにユズキと会話している。なんて肝の据わった女性だ。まるで恐れていない。
その態度に余計に腹がたったのだろう。キルが短剣を空に突き出し、
「もう我慢ならねぇ! 全員でぶっ潰せ!」
賊の群れが押し寄せてきた。




