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模擬訓練と最弱・1

【執務室】


 とある日のこと――。




「偶然ですよ。明るい場所に放り出されたのがナオトだけだった、それだけです。それに、セメルさんとヒロトだって山吹神社で狙われたわけではない。この事から考えても、大猿がナオトだけを狙った……と結論づけるのは早すぎじゃありません? ですよね、ゲンさん」

「キョウスケの言う通りだ。セメルよ、今はとにかく上級試験だ。参加させてもいいのか?」

「それしかないでしょう。王家の意向には逆らえない。……ったく、親父のせいであの子の人生は滅茶苦茶だ」




 怒りを露わにしながら執務室を出て行くセメル。その後を、「俺に任せろ」と言ってタモンが追う。残された隊長達は息を吐き出した。


 青島が額に手を添えながら言った。




「上層部もいい加減にしてほしいものだ。確かにナオトは重傷を負ったが、結論の出ていない案件でセメルを責め立てるなんてな。とはいえ、あの態度だ。タモン様とセメルは何かを隠している」

「そうですけど……。走流野家そのものが極秘扱いみたいなものですから」

「本音とは思えんな。ナオトが3歳になるまで隠密に護衛していたのはお前だ。情がないわけでもあるまい」

「当たり前じゃないですか、自ら進んで立候補したんですから。それに、俺はあの人の事だって今でも追いかけていますよ」




 青島は手を下ろした。赤坂が青臭かった頃を思い起こす。




「懐かしいな。お前は彼女に夢中だった」

「今もです。セメルさんに取られちゃいましたけどねー」




 話しながら2人も執務室を後にする。




「それはお前がハンター並に追いかけ回したせいだろう」

「本気で好きになった相手なんです。ただ、最近おかしいんですよね」




 訓練校を出て民家の連なる歩道を行くと、そこに住む人達がぺこりと会釈した。返しながら、青島が赤坂に問う。




「おかしいとは、恋い焦がれてという意味でか?」

「なんですか、その古くさーい感じの言い方は。そうじゃなくて、なぜか思い出せないんですよ、彼女の顔を」




 青島が目を細めた。




「面影すらか?」

「はい、全く覚えていません。ゲンさんはどうです?

「そうだな、言われてみれば……」




 2人の足が止まった。互いに顔を見合わせて混乱する。




「まさか、ゲンさんもですか?」

「お前ほど意識しているわけではないから、彼女の安否以外にそこまで深く考えた事はなかった。だが、私も彼女の顔を思い出せない」

「タモン様に報告するべきでしょうか」

「やめておけ。王家が介入してくるはずだ。北闇に戻れなくなるぞ」

「ですよね。この状況でそれは避けたい……。一先ずは胸の奥にしまっておきますか」




 各々の帰路を目前にして、呟くような声で赤坂は本題へと話を戻し、核心に触れる。




「それで、ゲンさんはどう思ってるんですか? 大猿の狙いってやつを」

「初めは東昇からの報告通りの攻撃にも思えたが、そうではない。よくよく観察すれば、私には何かを探しているかのように見えた」

「同感です。ソウジを捕まえた時、なんだか獲物を取り逃がした獣のように怒ってるみたいでした。ナオトの推察に沿うと影で見えなかったんでしょうけど、あの2人は双子だ」

「その通り。ユズキを助けに戻ったナオトを捕らえると、大猿はまじまじと〝確認〟していた。そして外に放り投げた……。奴の狙いはナオトで間違いない」




 分かれ道で再び歩みを止める2人。赤坂は青島の意図を見抜いていた。




「タモン様に報告する気はない。そうですよね?」

「もちろんだ」




 何の迷いもない返事に赤坂は息を漏らした。




「タモン様と王家の繋がりは他国に比べても根強いものがある。キョウスケよ、それはお前にもわかっているだろう?」

「ええ。なにせ、オウガ様はタモン様の父親ですから。とりあえず、彼女との記憶が欠落している原因を探ります。一刻も早く、母親を返してあげたいので」

「キョウスケ……」

「これでも大人です。俺は大丈夫ですよ、もう割り切ってますから。では、臨時授業で」




 失恋したばかりのような切ない顔を見せ、赤坂は帰っていく。どこが大人だ、と青島は眉を下げながら彼を見送った。







 俺は今、懐かしや訓練校に来ている。これから行われるのは「上級試験」についての説明会だ。


 教壇の前に立っているのは新人三班を率いる各隊長だ。


 厳格があって大柄な体格の青島隊長と比べると、赤坂隊長は細身の筋肉質でどこか抜けたような顔をしている。闇影隊では珍しい、女性の隊長である黄瀬隊長は、妖艶な身体つきで男心を惑わすなまめかしいラインが目を惹く。目つきは優しくて柔らかな面立ちだ。


 こうして全員が集まったところで、青島隊長を一番手に説明が始まった。




「まず初めに、四大国について話しておく。我々が住むここ北闇の他に、東に東昇(とうしょう)の国・南に南光(なんこう)の国・西に西猛(せいもう)の国がある。そして、この四大国と小国を統治しているのが、オウガ様率いる〝王家〟だ。王家は南光の国に君臨し、この世の秩序を保つため尽力されている。また、我々闇影隊の始まりでもある」




 当時、闇影隊は王家のみで構成されており、混血者はいなかったらしい。混血者を導入する発端となったのは、三種のうち、ハンターの数が急激に倍増したことにあった。そこから大国造りが始まり、人々は住んでいる場所から近い大国へ移住した。


 一通り歴史の確認を終えた青島隊長に代わって、次に教壇に立ったのは黄瀬隊長だ。


 訓練校で習ったことを復唱されたせいか、皆の集中力が途切れかけている。


 教室内を見渡した黄瀬隊長は、見た目からは想像もつかない、太くて芯があり、なおかつインパクトのあるメリハリのきいた声で前を向くように一喝した。そして黒板にある文字を書き記す。


 大きな字で、〝上級試験〟と書かれていた。この試験は3年ごとに開催されているそうだ。




「前回試験を受けた者は退屈でしょうけれど、きちんと話しを聞いている可愛い新人三班のために説明させてもらうわ」




 嫌味たっぷりの一言に、先輩方は決まりの悪そうな面立ちでいる。




「近々、南光で上級歩兵隊への昇格をかけた試験が開催されます。四大国全てから下級歩兵隊が集結し命を賭けた試験に臨む事になりますが、班全員の参加が条件ではなく、あくまで自由参加。ご両親とよく話し合った上で自分の意思で決めて下さい。でも、君たちはまだ若いわ。経験を積んでからでも遅くはないでしょう」




 そこで、誰かが黄瀬隊長に質問をした。




「試験内容は、3年前と同じっすかね?」

「あなた、甘ったれた覚悟で挑むと今年は死ぬかも知れないわよ?」

「すみません……。ただ、前回は公表されてたもんで」




 咳払いをして、質問を続ける。




「前回の試験では、混血者のいる班と人のみで構成されている班は別々に試験を行ったんすけど、それに変更は?」

「今年は世界中を震撼させる事件が相次いで起こっている。それはあなたも承知のはず。だとしたら、どうかしら。王家が何を基準に試験内容を組むかは、3年間の流れで決める傾向があるのは確かよ」

「つまり、合同もありえるってことっすか?」




 黄瀬隊長は、にっこりと笑みを浮かべただけで有無を答えなかった。


 黄瀬隊長の説明が終わった後、最後に赤坂隊長が教壇に立った。青島隊長と黄瀬隊長が全員に用紙を配っている間に、上級試験の文字を消して、〝合同強化合宿〟との文字を書く。




「見ての通り、上級試験前に合宿を行うことが決定した。まあ、この合宿は恒例なんだけど、内容に変更がされているから前回参加した者もしっかりと聞くように。黄瀬隊長の説明にもあったように、今年は類を見ない生き物の出現に加え、各国近辺の村などで被害がでている。闇影隊が出動したにもかかわらず小国規模の町が全壊したとの報告もあった」




 そこで、今年度の合宿は混血者の動作を中心とした連隊強化を実施するそうだ。結果次第では、自由参加ではなくタモン様が却下する場合も。


 この説明に、大勢の人が思わず声を漏らし教室内が響めいた。




「そう睨むなって。仕方ないでしょーよ。用紙を読めばわかるけど、合宿に参加するかどうかの選択欄がある。記入したら各隊長に提出するように。合宿は3日後だから、それまでにお願いね。その間、任務はナシだ」

「で、ですが! 俺達の班に混血者はいません! その場合はどうなるんですか?」

「私の班もです! いきなり混血者と組む……だなんて、急な班の編成でもするつもりなんですか?」




 興奮気味に、一斉に質問が飛び交った。


 青島隊長が静かに口を開く。騒がしい教室に低く重い声が隅々にまで届いた。




「試験が行われている最中の重度による襲撃。これは、お前達も、王家も予測しているはずだ。そのため、襲撃を前提とし試験中の混乱を回避すべく、あえて試験内容は伏せている。その場で説明を順次に行い、逐一頭にたたき込んだ方が事前に知って気が緩むより断然にいいからだ。つまり、今回の強化合宿は、試験の為のものではなく重度の襲撃を想定としたものだ」




 もし混血者との連携が取れなければ、最悪の場合、隊の全滅もあり得る。強化合宿でどれだけ経験を積めるかが決め手となりそうだ。




「こんな時期に試験だなんて、ついてねぇや……」




 賛同する声がぽつりぽつりと嘆かれた。その声に応えたのはソウジだ。




「この愚民が。貴様の頭は空っぽのようだな」

「な、なんだと!?」

「重度の襲撃を想定とした強化合宿に、襲撃を前提とした試験。つまり、班の編成はないというこ事だ。では、なんの為の説明か……。仮に南光の国に攻め入られた時、瞬時に近くに居る者同士で連携を組まなければならないからだ。その者は人か、あるいは混血者か。混乱と化した場で選ぶことはできん。しかし、貴様らは俺たち混血者を捜すしかない。だからこんな面倒な合宿が行われるんだ」

「面倒って……。もっと言い方があるでしょーに」




 赤坂隊長が苦笑気味に言った。




「入隊している混血者の数は限られている。面倒な思いをするのは俺達の方だ。いったいどれだけ適役をさせられるのか、想像するのも嫌になるほどにな」




 皆、ようやく理解したようで、さらに教室は騒がしくなった。同じく俺の心境もドタバタしている。


 混血者に合わせた動きの訓練だけでなく、彼らと何戦も交えるこの合宿。それには人も参加しなければならない。試験以前に、怪我で入院ってこともあり得る。


 修行をする時間はないし、やりたくないなぁーってのが本音。




(って、我が儘ばっか言ってられないな。入院中にタモン様がわざわざ伝えに来てくれたんだ。絶対にクリアしなきゃ)




 こうして臨時授業は各々に葛藤を抱かせたまま終わりを告げた。その後は班ごとに集合し話し合いとなる。


 青島隊長は、着替えを持って正門に集合するように言った。集まると、理由も目的地も言わぬまま何処かへ向かって歩き始めた。やはりというべきか、イツキはユズキにべったりである。


 そんななか、先に問うたのはユズキだ。




「この荷物、いったい何の為に必要なんだ? 僕たちは合宿について話し合うんじゃないのか?」


 


 先頭を歩きながら、青島隊長が答える。




「参加するか否か、まだ答えはださなくていい。しかし、3日という時間を無駄にする事もない。よって訓練を行う。感覚を養うための特別な訓練だ。合宿の模擬訓練だと思えばいい」




 となると、青島班にいる混血者はイツキだから、彼を相手にするってことか。




「試験は一先ず置いておこう。青島班はこれからこの4人で行動を共にする事となる。互いを知り、隊に必要な基礎能力を鍛える必要があるだろう」




 しばらく歩いて、青島隊長は看板のある場所で立ち止まった。〝立入禁止区域〟との文字がある。看板の背後には奥が見えないほど、うっそうとした深い森。


 ここが目的地のようで、青島隊長が森について話す。




「四大国のうち、二カ国には足を踏み入れてはいけない区域がある。一つはここ、迷界の森だ。ここから森の奥深くまで行くと磁気がなくなり、迷ってしまえば最期。二度と出てこられない」

「そんな場所で訓練するんですか?」




 俺の質問に、青島隊長が静かに頷いた。




「半径1キロ圏内の狭い区間でだがな。課せるルールは至ってシンプルだ」




 青島隊長が俺とユズキに向く。




「一つ、時間最後までこの林道に出てはいけない。二つ、イツキを捕まえること。手段は問わん。三つ、期間は2日間。その間、休憩は状況で判断すること。四つ、全員この看板をゴールとすること。イツキに課せるルールは二つ。逃げるにしろ攻撃するにしろ、好きに行動していい。ゴールはこの看板だ」

「ルールはわかったが、相手がイツキじゃ無茶だ。僕とナオトを殺す気か」




 ユズキの口元がきつく閉まった。やりたくないという気持ちが読み取れる。彼の能力を知らないだけに、普段から無表情に近いユズキの表情が崩れるのは、どこか不安を感じてならない。


 しかし、このルール。イツキが自由行動という点から考えると、要するに彼の戦闘能力に見合う能力を磨けという意味だろう。そもそも、強化合宿の目的はそれ似たものなのだから、確かに模擬訓練だといえる。




「訓練校ではクラスが別だっただろう? その上、混血者は人の姿で通うという決まりが課せられていた。彼らは否応無く伏在状態にあったわけだ。つまり、ナオトとユズキは、彼らの本来の能力を把握できていないことになる。しかし、いきなり理解しろというのも無理だろう。そこで、手始めにイツキからだ。勝つことが目的ではない。混血者がいかなる者か頭にたたき込むのだ」




 青島隊長が片手を上げたのと同時に、イツキは颯爽と森に消えていった。




「それでは、始め!」




 号令に押されるかのようにして、俺とユズキも森に足を踏み入れた。

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