呪いと最弱・4
幸運と言っていいのか、ここで役に立ったのは懐かしや模擬訓練だった。
まずは習得したばかりの業火で地面を燃やし一帯を明るく照らす。紫炎は俺が狙う対象を燃やしてしまうため、通常色の赤だ。さらに、
「還・強化!」
強化により20歳くらいまで成長した体を、今度は筒状の業火防壁を出現させて全身を包む。これで移動が可能になったわけだ。
業火防壁を最終形にしたことにより、いつでもキアキを呼び出すことができるし、殺生を発動させることも可能になった。
さあ、やるぞ。
「おーい、イツキ! 隠れてないで出てこいよ! 遊ぼうぜ!」
音一つ聞こえてこない。
「それともなんだ? 俺じゃ相手にならないってか? ……こっちの台詞だっての!」
煽って、煽って、煽りまくる。
模擬訓練の時、ユズキは煽るなと注意してきた。なぜなら、
「遊んでくれるんだ」
煽られると楽しむタイプ、それがイツキだからだ。
闇の奥から幽霊みたいに現れて、赤い瞳で俺を見ている。友達にこんな卑怯な手を使いたくはないけど……。
「キアキ、今だ!!」
「お任せ下さい」
背後から羽交い締めにして簡単にイツキを捕獲できた。
「っ、ナオトッ……」
「ごめん……」
キアキから逃れようと暴れるも、彼女に攻撃は通用しない。
「ご友人にお仕置きは必要ですか?」
「ううん、その必要はないよ」
なんて物騒なことを。
鼻息を荒くするイツキの前に立つ。
「ジンキもいなくなって、ユズキにも会えなくて、次はお父さんがすぐ近くにいたって知って混乱してるんだろ?」
「15年もだ! ……15年間、俺はずっと1人だと思ってた。俺が鍛錬場に住んでいた頃からずっと近くで監視していたくせにっ。こんなの酷いよ!!」
「守るためだったんだ。封印術士が、イツキのお母さんのことがあって、父親まで失わせるにはいかないからって」
「お父さんは弱くない! それは俺が一番よく知っている!」
「うん、そうだな。北闇の総司令官だもんな」
タモン様と爺ちゃんは、総司令官を抑えようとしている。だけど、どんな力が宿っているのか、あの2人を苦戦させるほどに彼の力には凄まじい何かがある。
それでいて、2人を邪魔しているのは幻覚だ。2人は時折視線を逸らすような仕草を見せた。
「止めなきゃ。だろ?」
「わからないよっ……。どうしたらいいのか、俺にはわからないっ……」
見た目以上に幼いイツキの溢れる感情。
今まではユズキがいたし、青島班は下級歩兵隊の頃から任務やテンリのことで追われていた。イツキがこんな姿を見せるのは初めてだ。ユズキが話していたのはこういう事なのかと、3年もたってようやく理解する。
イオリは爺ちゃん達の方を見ながら言った。
「……お前の親父さん、強かねえよ。総司令官だとしてもな」
「どういうこと?」
「タモン様とヘタロウさんなら、瀕死の状態にする事ができる。後は医療班に任せて回復を待てばいい。でも、ありゃどう見ても手を出せないって感じだ」
キアキは、イツキが見られるように向きを変えた。すると、イツキの子どもみたいな表情が途端に闇影隊らしく変貌する。
「どうしてお父さんを止めないの?」
ここで、イオリはようやくイツキに向いた。
「多分、人間だからだ」
「――っ!?」
「もう一つ、お前がいるからだろーな。上級試験でお前が傷ついていることくらいタモン様だってわかってんだ。それに、封印術士の人たちだって、苦渋の決断だったと思うぜ。お前から父親を奪っただけじゃない。総司令官だって息子との記憶を奪われたんだからよ」
「そう……だね……」
「イツキが怒ってるのってさ、助けてほしい時に助けてくれなかったからだろ?」
イオリの問いかけに俯くようにして頷く。
「形は違うけど、よくわかるぜ。俺も話しを聞いてほしい時にナオトのことばっか話されてイヤになったから。ナオトだってそうだ。だけど、不思議な事に解決するってもんだ」
「どうしたらいいの?」
「親父さんのこと、心底憎んでいるってわけじゃないなら、時間が勝手にどうにでもしてくれる。だからよ、まずは止めてこい。監視って言ってたけど、俺たちみたいな噂野郎から守ってたわけだろ? 今度はお前が助けてやれよ」
イツキの体から力が抜けていく。感じ取ったキアキは俺に頭を下げながら消えていった。
久しぶりに3人で駆け出す。青島隊長がいれば完璧だったけど、青島隊長はジコク様と鍛錬場の入口を見張っているためここにはいない。
代わってイツキが指揮を執る。
「方法を見つけるまで、2人は俺をカバーして」
「「了解!!」」
俺の業火防壁みたいに、総司令官の体を大量の白い札が包み込んでいる。どれも読めない字が書かれていて、あれが総司令官を守っているようだ。タモン様の攻撃も爺ちゃんの言霊も跳ね返されている。
イツキが速度を上げた。瞬く間に俺の視界から消え去って、総司令官に強烈なタックルで突っ込む。白い札が人の腕を形成すると、イツキをつまみ上げてこちらに放り返してきた。
「ナオト、手を伸ばして!」
イツキの伸ばされた両手をしっかりと掴み、遠心力を使って総司令官の方に投げる。
「衝撃砲をお願い!」
「わかった!」
腕を形成したせいで横っ腹が丸見えだ。しかも、イツキが戻って来たことにより元に戻れないでいる。
「炎・衝撃砲!」
崩れろ! そう願うも、今度は吸収したイツキの闇で防御されてしまった。こんなのアリかよっ。
すると、爺ちゃんが大声を出した。
「やめろ、必要以上に刺激するな!!」
総司令官が天井に向かって雄叫びをあげる。身体中からイツキの夢想縛りが現れ、牢鎖境の壁を壊しにかかったではないか。
最悪な状況に、俺たちは足を止めた。




