呪いと最弱・3
どさくさに紛れ込んで気絶した振りをしていた4人。完璧な作戦だったんだろうけど、爺ちゃんの目は誤魔化せなかったらしい。
「この大馬鹿者が。ワシの孫は加減を知らんのだ」
これ、喜んでいいのか? 彼らの正体が封印術士である理由は、無傷だということ。つまり、俺と接触していない証拠だ。
跪く封印術士の前を、イッセイは威嚇する虎のように左右に歩いている。
「吐け。土地神を封印した経緯を……」
イツキが自身の過去を話してくれたとき、封印術士は言霊を使えると教えてくれた。彼らは闇影隊のよに班での行動はせず、個人で動く、と。
術式や呪符など、対象を封印するための能力を総称して言霊としている。そして、殺すのではなく、目的は眠らせること。
(闇影隊に比べれば温厚な一族なのに、この人、怒るとめっちゃ怖いじゃん……)
一見、冷静に見える無表情に近い顔だけど、憎悪と侮蔑の混じる血走った瞳が封印術士に向けられている。
堪えきれず、1人がボソボソと話し始めた。すると、
「ふざけた喋り方をするな! 貴様は、犠牲となった子どもたちよりも、保身のほうが大事なのか!?」
優男の腹の底から吐き出された怒鳴り声に封印術士の肩が揺れる。
「もっ、申し訳ございませんっ」
「ちゃんと喋れるじゃないか。最初からそうしろ」
一息置いて、封印術士は事の経緯を話し始めた。
「キミカゲ様がお亡くなりになって数年後のことです。見たことのない服装をした輩を引き連れたテンリがこの国に訪れました。進入経路は井戸です。奴らは我らを脅した。協力しなければイッセイ様もろとも皆殺しにする、と。返事を待ってもらい、王家に救いを求めました。しかし……」
王家からの返事は「従え」だったらしい。封印術士は、イッセイを巻き込む覚悟を決め、事情を話そうと国に帰還したけど、テンリは馬鹿じゃない。封印術士の動きは完全に読まれていた。だけど、テンリの作戦もここで誤算が生じた。
「きっと、キミカゲ様は敵の存在に気がついていたのでしょう。我らが帰還した頃には、国民は呪符によって行動を制御されていました。敵が侵入した時点で、イッセイ様と国民を守るための術式が発動していたのです。呪符は白草の血筋の者にしか破壊できないので、最善の策です。とはいえ、全員が守られた訳ではありませんが……」
「どういう意味だ」
「ご覧の通り、ここにいる国民は全体の三分の一程度です。残りはテンリによって殺害されました」
言われてみれば、呪符を剥がしにかかった時間はそう長くなかった。ここで、爺ちゃんがあることに気づく。
「コモクやその血筋の子孫だけを守ったんだな?」
「仰る通りです。中でも、イッセイ様の次に能力を受け継いだ夜桜レイは、我らの独断で北闇へ避難させました」
封印術士は手の平を地に置いてイッセイを見上げた。
「目の前で国民を殺害され、我らは従うしかなかった! ですが、ただ脅されていたわけではありません! 貴方様が死亡したと世間に嘘をついた! 仲間が自ら命を絶ち貴方を守ったのです!」
それからまた時は流れ、奴らがまた訪れた。ボウキャク草で入れないんじゃ? と思ったけど、驚くことにわざと井戸を封鎖しなかったらしい。
テンリに従っていると見せかけてまで、封印術士はイッセイを守ろうとした。その理由は、
「我らには眠らせることは出来ても、復活させることは出来ません。敵はそれを知らずして我らを利用しようとした。ですが……」
「高等封印術士でないと、封印は失敗する。自身に封印するつもりが、赤子に封印されてしまった。と、そういう訳か」
「はい……」
「それで、どうして隠れて過ごしている」
「塊叫団によって記憶を奪われそうになったのです。そうなれば、我らの嘘が知れてしまい、この国は滅ぼされる。それだけは避けようと身を潜めました」
「記憶を奪う? そんなことができるのか?」
代わって、俺が答える。
「できます。俺は奪われました」
「そうか……」
封印術士は、地面に敵の絵を描き始めた。騎士のような格好をした集団だ。爺ちゃんの眉間にシワが寄る。
「ガディアン……」
「知っているのですか?」
「ああ。和と洋の国、ガディアン。和はこの王国に移り住んだ。それが白草家だ」
爺ちゃんは井戸の封鎖を命じ、帰る準備に取りかかった。そして、
「あいつはワシに任せろ。お前たちはこれよりイッセイの命に従え」
「ですが……」
「レイが死んだ事により、守ったんだろう?」
「せめてもの罪滅ぼしのつもりです。父親まで失わせるわけにはいきません」
「わかっている。あいつにはワシの後を継いでもらった。今じゃ立派な総司令官だ」
それを聞いて、俺とイオリは驚愕した瞳を向き合わせた。
そうして急いで帰還する。北闇に入る前に爺ちゃんは年寄りの姿に戻り、国民の絶句を無視して執務室に駆け込む。
書類を床に落とすタモン様と、椅子からひっくり返りそうになるジコク様。
「待たせたな」
爺ちゃんの声に、2人は片膝をついた。
細かいことは後で話すと、大まかに事情を説明した爺ちゃんは、鍛錬場に総司令官とイツキを呼び出すよう頼んだ。
イツキが先に鍛錬場にやって来る。顔がやつれていて、とても疲れているみたいだ。聞けば、蛍の尋問に手間取っているようで、ましてやジンキの能力をほとんど失っているため、牢鎖境の持続時間が極端に短縮されているらしい。
何度も言霊を発動させているせいで、体力に限界がきているのだ。
「ヘタロウさん、無事だったんだ。よかったね」
「っ、今は自分の心配をしろよ! そんなボロボロになるまでやらなくたって……」
「許せないんだ。あいつは俺の友達に死刑宣告をした。地獄を見せてやろうと思ってさ」
言い終えると、膝から崩れ落ちた。喋るのがやっとなんだ。
「俺も一緒にやる! だから、少し休もう。な?」
「ナオトの言う通りだ。今度は青島班で問い詰めてやろうぜ」
「ありがとう……」
クソッ。ユズキからイツキの性格を教えてもらっているのに、俺はなにをやってるんだ。
イオリを連れてイツキから離れる。
「こりゃダメだわ。どうにかしてでも連れ回そうぜ」
「だな。もう1人にはできない。ただでさえジンキを失って傷ついているのに……。塊叫団や他のことに気を取られてばっかでさ。ほんと、最低だ」
「家族と友達は別だっつーの。あれもこれも同時進行はできねえよ。とりあえず、家族の件は一段落したんだ。これからだぜ」
現れた総司令官に、イオリは口を閉じた。
総司令官もタモン様と同じように膝をついて、爺ちゃんの帰還に喜んでいるみたいだった。
爺ちゃんは、俺たちにイツキを連れて来るよう合図を出した。当の本人は状況を飲み込めていないけど、俺は胸をなで下ろす思いだった。
イツキは父親を捜している。その人が今目の前に居るんだ。
「空よ、面と服を脱げ」
「……仰っている意味が理解できないのですが」
「いいから、言う通りにしろ」
面を取ると、俯きながら一枚ずつ服を脱ぎ、装備を外していく。顔を見られないようにしているみたいで、俺たちに背中を向けた。
爺ちゃんは、服ではなく装備の裏を確認し始めた。絶対に着用する物だからだ。そこには呪符が貼りつけられている。
紫炎で燃やすと、爺ちゃんはイツキの肩を担いで総司令官の後ろに立たせた。
「あの、何が起きているんですか?」
「夜桜レイ、君の母親が亡くなった後、テンリから守るためにある処置がとられた。それは、父親の保護だ」
「生き……てる……?」
「ああ。今、君の目の前にいる」
総司令官がゆっくりと振り返った。イツキは見上げながらその動きを注視し、震える手を伸ばしている。
「お父さん……?」
イツキがそう声を掛けると、総司令官の瞳を涙の膜が覆った。と、その時だ。総司令官が口を開いたのと同時に、イツキは彼を投げ飛ばしたではないか。
慌てて止めようとしたけど、イツキの赤い瞳に思わず動きが止まった。
(ジンキのやつ、力を残していきやがった……)
総司令官とイツキの間に立ち、落ち着くように声を掛ける。しかし、
「許さないっ……。絶対に、許さない!!」
突如として現れた闇――。最悪なことに、この場にいる全員が牢鎖境に閉じ込められてしまった。
イツキの姿が闇に溶けていく。そして、始まる。各々が抱く恐怖の幻覚が襲いかかる。
俺はイツキが暴走すると思って、懸命に闇の中を走り回った。だけど、暴走したのは総司令官の方で、牢鎖境の闇を吸収して叫んでいる。
「どうなってるんだよ、爺ちゃん!」
「夫を守るために何かしたな。レイよ、とんでもない置き土産をしおって……」
高等封印術士・夜桜レイ――。彼女はいったい何をしたのだろうか。
最後まで入らなかったので、次回に持ち越します!
ナオト・イツキVS総司令官
レイの置き土産とは、いったい――。




