呪いと最弱・2
実体化したというよりは、色を手に入れた、が正しいのかもしれない。やっぱり物理攻撃は効かないみたいだ。ぽっかりと穴の空いた腹部の内側で紫炎が燃えている。
「これって自由なの?」
「はい。血色や髪色がある、つまり私が私でいられる証拠です」
(にしても……)
左右対称に綺麗な弧を描く角に、これまた美しい曲線を描くくびれ。引き締まったお尻と程よく筋肉の付いた四肢。揺れる胸が目の毒だ!
「鬼って、美人さんだな」
「その言葉、ツキヒメ様に伝えたらどうですか?」
動揺を隠しきれず、加減を誤り国民をぶん殴る。
「ごっ、ごめん! ってか、キアキ!」
「ふふ。早くお伝えしないと取られちゃいますよ」
「わかってるよ……」
クワを片手に襲いかかってきた国民を一歩動くだけで避ける。躓いて頭部が下に向いたところで、首の裏に貼られている呪符を剥がした。手の平で燃やして次を相手する。
「でも、ダメだ。全部終わってからじゃないとな」
「巻き込んでしまうからですか?」
「当たり前じゃん」
「…………臆病者」
「聞こえてるぞ!」
気絶している国民を跨ぎながら殺意を剥き出しにしている奴は、ザッと30人ほど。あともう少しだ。
「ツキヒメを知ってるってことは、今までに何が起きたかわかってるんだろ?」
「はい。ナオト様と私は一心同体なので」
「イツキとツキヒメの覚悟について話したこともあるし、俺だって納得している。だけどっ」
挟み撃ちにされ、跳躍して交わす。正面衝突した国民の足が崩れたところで、すぐに呪符を剥がす。着地して、キアキと背中合わせになった。
「俺の戦いに巻き込まれるのは、また話が別だ」
「女を甘く見ないことです。彼女はどこまでも追ってきますよ。例えそれが危険な場所だとしても。恋は女の力の源ですから」
「ん? なんでツキヒメが俺を追うんだ?」
「…………鈍い方ですね」
「だから、聞こえてるんだって」
残り20人をきると、国民は俺たちを囲んで逃げ場をなくした。まあ、ここまでくれば後は、
「衝撃砲!」
熱のないただの空気砲で動きを止められる。
足もとをすくわれてひっくり返った国民。呪符の場所を瞬時に見つけ出し、キアキを接続していた紫炎の紐を伸ばして燃やす。
「これで終わり?」
「ええ、お見事です」
「っしゃあ!」
青島隊長とイオリに手を振って合図を送る。こうして一段落終えたはいいが、
「殴ったな」
1人だけ白目を剥いている国民を気の毒に思っている爺ちゃん。国民を横並びに寝かせながら哀れんでいる。
「キアキが余計なこと言うから!」
「貴方の精神力の問題です。と、心の中で言っておきますね」
「だーかーら! 聞こえてる!」
この性格、誰かに似ているなと思っていたけど、ネネだ。イオリも同感みたいで頬が引きつっている。
「まーた鬼かよ。っつーか、ほんと走流野家って化けもんだな。あ、文句じゃねえぞ?」
「わかってる。じゃ、俺は爺ちゃんを手伝うから」
意識を失い眠っている国民。爺ちゃん曰く、目覚めには数日かかるらしい。その間に一度北闇へ戻り、もう1人呪いにかかっている人を救出する。
そんな話しをしている横で、イオリは自己紹介をしている。なんていうか、摩訶不思議な生き物に対しても普段通りでいるイオリが本当に羨ましい。
「俺様は豆乃イオリだ! よろしくな、鬼の姉ちゃん」
「ナオト様のご友人ですね」
「い ち ば ん の友人だっての」
「一番、ですか。それは許し難い発言です」
「へ?」
母親の傍らに子どもを寝かせていると、視界の端で、上体を使って爺ちゃんが勢いよく振り返ったのが見えた。後を追うようにして振り返ると、至近距離でキアキと目が合う。
あれ、イオリと話してなかったっけ?
キアキは大きく口を広げた。
「えっと、何をしているのかな?」
状況を飲み込めないまま、キアキの喉奥を一点に見つめる。
爺ちゃんが衝撃砲を放った。キアキの後頭部にめり込み、貫通し、額を通り抜けて俺に直撃する。吹っ飛ばされる瞬間に首の横に激痛が走った。
キアキが噛みついたようで、首の肉が裂かれ、血を撒き散らしながら民家に突っ込む。
治癒が首を修復している最中、イオリが駆け寄ってきた。
「大丈夫か!?」
「な、なにが起きたの?」
「わかんねえけど、ヘタロウさんが止めようとしたのは確か!」
腹の上に乗っかっている木の板を爺ちゃんと青島隊長が退かす。爺ちゃんはキアキを睨みつけた。
「自ら契約を結んだな?」
口の周りに付着する血を舐め取って、キアキは返事をした。
「はい。ナオト様の一番のご友人は私ですから」
「馬鹿を言うな。妖鬼と人が友人などあり得ん。お前たちに流れる血は狩人のものだ。ワシらは獲物。だからこそ紫炎で結びつけ、動きを制御している」
「私がナオト様を喰らう? あり得ません。だって、彼は私に友達だと言ってくれたのです。契約は必要不可欠でしょう」
……うん、言った。爺ちゃんの視線から逃げるように別の方を向く。
「ユズキの紫炎はキトからで、契約を結んだ可能性があるとも話したな」
「そ、そうだっけ?」
「今後、一生付きまとうぞ。お前が誰かと契りを交わし、子を持ったとしても、キアキは生涯を共に過ごすことになる」
「マジで?」
「この大馬鹿者」
格好いいと目を輝かせているのはイオリだけだ。青島隊長とイッセイは盛大なため息を吐き、爺ちゃんは呆れたと言わんばかりに蔑んだような目で俺を見ている。
だけど、いいんだ。
「キアキ、頼みたいことがある」
「なんなりと」
「母さんが生きていたら、俺が呼び出すまで傍に居てやってほしい」
「テンリ、ですね」
「うん。母さんは人間だから守ってあげなくちゃ」
「かしこまりました。早くお会いしたいです」
「あまり脅かさないでよ?」
「そんなことは致しません。ただ、感謝をお伝えしたいのです」
キアキの姿が消えていく。
「ナオト様に巡り会えたのは母親がいてこそです。私にとっては、神よりも偉大な存在です。きっと守り抜いて見せます」
キアキの言葉に感激しながら、俺たちは目的の人物の捜索にあたった。見つかったのは4人の封印術士だ。イッセイに怯えている。
ブクマと評価、ありがとうございます!
次回、北闇にいる呪われた人物は意外な人だった!
イツキと一緒に奮闘するナオトと、イツキの想い。お楽しみに!




