炎と最弱・4
爺ちゃんが声を荒げた。
「こいつには打撃技も言霊も通用しない! 気持ちで従えるしかないぞ!」
(気持ちって言われてもっ)
俺には触れないなんて、卑怯じゃないかっ!
身を翻して距離を置く。が、意味はない。イツキの足よりも速く、ヒロトの攻撃速度に勝る相手だ。両肩を掴まれ、バックドロップみたいに分身の後方へ投げ飛ばされる。
地面を跳ねる度に大地が抉れ、勢いのまま転がっていく。すると、そこへ青島隊長がやって来た。俺の体を受け止め、分身と俺を交互に見つめている。
「あいつはっ……」
「知ってるんですか!?」
「上級試験の第一試験で、お前が変化した時の姿にそっくりだ」
「変化?」
俺の疑問に驚愕した顔で答える。
「自ら実行したことではないのか!?」
「身に覚えがありません」
「空中からゴール地点へ落下したことは?」
「それは覚えています」
「あれは、まるでお前の数年後の姿だ。体つきが変わり、身長や髪が伸びていた。空中を飛んでいたとき、まさしくあの姿だった……」
話している間に分身が走る姿勢をとる。
「また後で聞かせて下さい!」
青島隊長から離れて、突進してきた分身に拳を振るった。しかし、すり抜けていくだけでまったく手応えがない。むしろ、こいつに触れる度に過去の記憶が掘り返される!
分身がニタリと笑った気がした。
「人間トハ実ニ愚カナ生キ物だ。互イニ支エ合イ、同ジ目標ニ進マナケレバ滅ビユク種族ダトイウノニ、互イデ争イ憎スミ合ウ。虐待、イジメ、政治争イ、戦争。コンナニモ醜イ種族ハ人間ダケダ」
「だからなんだってんだよ!」
月姫乱脚を放つと、地面に大きな穴があいた。分身の体が縦半分に裂けるも、瞬く間に修復されていく。
「主ノ心情ヲ誰ヨリモ理解シテイル。醜イ人間ガ嫌イナンダロウ?」
「っ……」
「死ネバイイノニト願ッテイタ時期モアッタ」
煽るような言い方だ。
にしても、紐が切れた時点で俺から離れることもできたのに、どうして分身はここに止まっているのだろうか。
「んで、俺を攻撃して何がしたいんだよ」
「私ガ主ニ応エテイルヨウニ、私ノ気持チヲ理解シテホシイ」
「じゃあ、紐で繋がれとけよ!」
「ソレハ出来ナイ。ソレハ主ノ一番ノ願イデハナイ」
分身が両腕を広げる。
「主ガ望ンデイルノハ、孤独ヲ裂ケテ通ル道ダ。主ハ無意識ニコウ思イ描イタ。大人ニナレバ今ヨリモモット自由ニナレル。選択肢ヲ得ラレル。子ドモデハ手ガ届カナイ空デモ、大人ニナレバ、ト。ダカラ私ガ現レタ。私ニナラ主ノ願イヲ叶エルコトガ出来ル」
「冗談はよせ。ただの火にそんなことは出来ない」
「私ハ炎ノ姿ヲ借リタ生キ物ダ。与エラレタ名ハ、還・強化。マタノ名ヲ……」
妖鬼――。構えていた手がだらりと垂れた。
キトが紫炎を知っていたのは、同じ類いの生き物だからか。
声を低くして尋ねる。
「白草との関係性は?」
「初代皇帝ニ命ヲ救ワレ、新タナル住処ヲ与エラレタ。二代目当主・シュテン様ハ礼トシテ鬼ノ能力ヲ分ケ与エタ。白草と鬼ノ一族ハ一心同体ダ」
「お前ももともとは鬼だったのか?」
「イヤ……。私ハ0ノ時代ニ生マレタ鬼ノ憎シミノ塊ニスギナイ。妖ハ、ソウヤッテ誕生スル」
「そっか……」
じゃあ、こいつも自由を知らないってことか。
――ん? 気持ちで従える? ――っ、そうか!
第一試験の時の俺は自由を感じていた。多分、それに反応したんだと思う。ってことは、怒りを見定めるなんて嘘もいいところだ!
分身と向き合う。
「俺を見定めるなら、怒りではなく自由だ。俺がどれだけそれを望んでいるか、お前に教えてやるよ!」
こいつに能力が通用しないなら、作戦を練ろうが逃げようが無駄だ。真っ向勝負でいくしかない!
業火防壁を発動させ、紅炎を吸収する。
「はあっ!」
紐状の紫炎に念を集中させ、
「炎・衝撃砲!」
技に乗せて衝撃砲を放つと、5つ衝撃砲が分身を捕らえた。そうして、頭の中でイメージをする。前の世界でのこと、公園でユズキやイツキと遊んだこと、ツキヒメとウイヒメが遊びに来てくれたこと。俺が楽しいと思えた時間を全て、紐を通して流し込んでいく。
爺ちゃんの言葉を借りるわけじゃないけど、怒りにも根本的な理由ってのがある。どうして俺が苛つくのか。それは、他者によって自由を奪われるからだ!!
「グアアアアアアッ!!」
こいつは、俺がこれまでに抱いてきた憎しみや恨みの集大成だ。俺のイメージにのたうち回る姿を見ていると、そう感じられずにはいられなかった。
気性の荒い人がペットを飼うと、そのペットも似た性格になるって聞いたことがある。紐が切れたのは、きっと俺が未熟だからだ。
ソウジにもこう注意された。性質はよくても精神が追いついていない、と。そんな俺が分身を作っても、こいつは俺の話に聞く耳なんかもっちゃくれない。だけど、分かってしまった。
「お前だって自由を望んでいる! そうだろ!?」
「っ…………」
「見せてやるよ! だから、黙って俺に着いてこい!!」
分身の体が怪しく光る。紐にたぐり寄せられ、業火防壁をすり抜け、そして俺の体内へ戻った。すると、俺の体が成長し始めた。同時に、業火防壁が形を変えていく。
「どうなってるんだ?」
爺ちゃんが歩み寄る。
「お前の業火防壁は最初から完成形だった」
「あんな筒状のやつが!?」
「丸い物を生み出すのは簡単だ。包火や衝撃砲だって、もともとの形は丸みを帯びているだろう?」
「確かに……。でも、これは……」
業火防壁は俺の戦闘服にぴったりと張り付いている。
「それでいいのだ。第二段階で教える予定だったものだ。最終的には、業火防壁をさらに圧縮させ、移動を可能にする。お前にはもうそれが出来る」
「じゃあ、最初から……」
「ああ、第一段階の威力の制御は出来ていたようだ。しかも、殺生の次に強化まで習得するとは、ナオトは覚えが早い。よくやった」
殺生と強化を解くと、姿が普段の俺に戻った。胸に暖かいものが湧いてきて、父さんが脳裏によぎる。
「始めて修行をしたとき、父さんも同じ言葉で褒めてくれた。喜んでくれているかな?」
「もちろんだ。ワシを憎むほどにお前たち2人を激愛していた。喜ばないはずがない」
こうして、俺は2つの技の習得に成功した。
「青島よ、ルイを頼む」
「ルイ……。っ、思い出しました。彼女の名前ですね」
「忘れていたのか?」
「ええ。実は……」
お焚き上げのせいで国民の記憶にズレが生じていることを説明すると、爺ちゃんは急ぎ足で光影の国へ向かった。
顔が険しいな。いったい何をするのだろうか。
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次回、光影の国VSナオト。彼らのある〝呪い〟を解く!!




