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炎と最弱・2

 おかしいと思ったんだ。


 異世界から来たユズキになぜラヅキの能力が宿っているのか。そもそも、この世界に来たときから、彼女はイツキを守るために自信の能力を闇影隊へ見せている。疑問だったけど、




(始まりがこの世界なら納得だ)




 とはいえ、吸収が始まったものの、それは微々たるものだ。確実に爺ちゃんの力が体内へ流れ込んでいるのを感じているのに、勢いは変わっていない。




「うおっおおおおお!!」




 俺を抑え込む炎を吸収して立ち上がるも、猫背みたいになっている。まだ爺ちゃんの気持ちに勝てないっ。




「もう一押し、か」

「あれで終わりじゃないの?」

「むしろ、これからだ」




 爺ちゃんの顔から笑みが消える。




「ユズキが誕生して数年、男児が誕生し事は起きる。オウスイの夫は妻にあるはずの変化がないことに気がついた。老い、だ。出産後、女性の体に変化が生じるのに対し、オウスイは若々しくなった。夫は妻と子どもを恐れた。ユズキはオウスイのそっくりだ。この子もいずれオウスイのようになる。あろうことか、森の奥深くに捨てた……」




 保護したのが人間ではなく、五角四神の一体であるネズミだって言うんだから驚きだ。重くのしかかる炎に堪えながら、耳を傾ける。




「ネズミはラヅキの仲間へユズキを託し、仲間はラヅキに懇願した。育てさせてほしい、と。しかし、ラヅキは根っからの人間嫌いだ。幼子を殺そうと牙を剥いた。だが……」




 殺せなかった。あまりにも純粋な瞳にラヅキは混乱したそうだ。




「自らは関わらず、許可を出して遠目に監視する日々が続いた。また数年の時が流れる。オウスイと夫の間にはさらに女児が誕生していた。ユズキの妹にあたる。ユズキが誘拐されたと殺意を剥き出しにする仲間を見て、夫は2度目の過ちを繰り返さずにすんだが、子どもの勘は的中するものだ」

「どうして?」

「娘の方が懐かなかったのだ。いつもオウスイや仲間の後ろに隠れ、父親を恐れていた。一方、父親は自分に似る息子をとても可愛がっていた。この頃から、オウスイと夫の間には溝ができ始めた」




 子どもの態度を不審に思った仲間が夫を監視するようになり、夫は後ろめたさから心の逃げどころを探すようになった。そして、




「猫が接触した。猫は、ユズキが生きていることを伝え、夫をさらなる不幸へ陥れた。こうなれば、人の精神は一瞬で崩壊し、善悪の判断がつかなくなる。夫は人間へ告げた。オウスイも、ユズキも、ジンムの血を受け継ぐ化け物だと。こうして、王家と人間によりユズキの奪い合いが生じた」




 オウスイは護衛に息子と娘を任せ、ユズキの救出に向かった。だけど、先に発見したのは夫の方だった。


 首を絞めて殺そうとしたらしい。胸くそ悪い話しに次第に怒りが湧いてくる。




「後を追ってきたラヅキの仲間と、到着したオウスイによりユズキは救われた……はずだった。育ての親である狼の血を全身に浴びてしまったユズキは、まるで胃の中で消化される食物のように溶け始め、腐れた。オウスイは人間に取り押さえられ、その場はラヅキの出現により収まった。しかし……」

「ユズキは生きていけない」

「そうだ。ラヅキの仲間とはいえ、あれは彼の分身だ。神の血を浴びれば、いくら薄紫色の瞳を持つ者でも生きてはいられない。ラヅキは、この世界が彼女に与える道が修羅の道でしかないと知り、ついに行動に出た」

「別世界に飛ばした。そうだろ?」

「ああ……。この世界に巨大な雷が落雷し、彼女は旅立った。落雷は様々な生命を巻き込んだ。動物も、木々も、そして……人も」

「人?」



 爺ちゃんが業火の中へ足を踏み入れる。俺の肩に両手を置いて、一息置いてから告げた。




「集落に猫が現れた。猫はユズキの弟と妹に姉がいることを教え、その場所を告げた。そうして、2人を走らせて1人ずつ殺そうとした。最初に狙われたのはオウスイだ。拘束されているオウスイとその一族を皆殺しにし、そうして自己暗示を開花していた弟の方を狙った。弟はラヅキの腕の中で眠るユズキを発見したが……」

「落雷に巻き込まれた」

「その通り。護衛は妹を抱いて走りながら必死に呼び止めたが、弟が振り返ることはなかった。こうして、2人は別世界に飛ばされた」




 肩に置かれている手に力が入る。




「弟とは、ナオト。お前のことだ」

「…………へ? っえぇぇえええ!?」

「そして、妹の生まれ変わりがマヤだ」




 血の気が引いていくのと同時に、俺はシュエンとの戦いの後に見た夢を思い出していた。


 真っ白になった視界、もう取り戻せないんだとの声。やけに現実味のある夢――。あれは、夢なんかじゃない。サスケの記憶は正しかった……。




「落雷により護衛が死んだ。猫は妹を殺そうと手を伸ばした。妹が言霊を開花しているとも知らずにな」

「じゃあ、裏切り者は……」

「妹の紫炎によって燃やされ、妹は猫の肉に食らいついた。これで分かっただろう?」

「マヤは……思い出したのか……」

「そのようだ。北闇を襲ったときは、記憶に関係する人物だけが能力にかからないようにした」

(可能性が2つ……)




 あの時は知らずとも、マヤは兄姉を捜していた。そして、俺たちもまた、何も知らずにマヤを殺そうとしていた。


 言葉にならない。




「っああああああああ!!」




 天へ絶叫した。声が枯れるまで、ずっと叫び続けた。


 気がつくと、業火は消え、俺は早朝と変わらないそよ風に吹かれていた。




(お姉ちゃんみたいだなとは思っていたけどさ)




 まさか、本当に血の繋がった兄弟だったなんて。


 腕を組んで佇む爺ちゃんに向く。




「それで、爺ちゃんは何者なの?」

「……ワシの本当の名は白草カンム。この王国の初代皇帝だ」

「……ははっ」




 俺は腹を抱えて馬鹿みたいに笑った。全部が繋がって安心したのもある。だけど、何よりも、




「爺ちゃん、俺、すっごい悲しいんだけど。要は、爺ちゃんの一族が人間に入れ替わったってことだろ?」




 偽者たちは、王家殺しに躍起になった。そのために、オウスイの一族は猫に命を狙われることになった。


 王家がジンムの子孫を狙う理由はただ1つ。本家を始末するのが、先代からの決まりだった。




「どうしたらいいの、この怒り」

「2つ目の技を習得するのに利用しろ。今度は、業火ほど甘くはない」




 その名も、炎・殺生――。


 今の俺にはしっくりくる技名かもしれない。

 ブクマと評価、ありがとうございます!


 次回、2つ目の技を習得! 家族を想うナオトの力が今までにない開花を見せる!

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