ヘタロウと最弱・5
キトは俺の暴走をもろともせずにこの場から浚った。爺ちゃんが後を追いかけてくる。
「またこれかよっ。俺の体、どうなってんだ!?」
正面を向きながらキトが答える。
「ユズキから始まり、ウイヒメ、そしてツキヒメで安定したはずが母親を思い出す度に安定剤が入れ替わっているのだ。それに、念とは心の働きだと教えたはずなんだがな。お前には学習能力というものが欠けているらしい」
言いながら、草原で俺を捨ててキトは消えた。入れ違いで爺ちゃんが俺を抑え込む。
「荒治療になるぞ」
「どうでもいいから、早くっ」
「ここにはワシとナオトしかいない。まずは、本音をすべて吐き出せ」
爺ちゃんの優しい微笑みに、心に隙ができてしまった。一瞬にして笑みが消え、闇影隊のような強面が蔓延る。
俺の肩を抑え、膝を腹に乗せると、
「炎・衝撃砲っ!!」
俺のとは比べものにならないドデカい空気砲が全身にのしかかった。目に見えない巨大な石の塊が、俺を地中へ押し込んでいく。
「がっは……っ」
俺の意志に反して動いた足が月姫乱脚を放つと、僅かの動きでそれを受け流し、足首を掴んで地上へ放り出した。次いで、俺がいる位置よりも高く飛躍し、
「炎・業火」
落下する地点を一瞬にして燃やす。
火の中に飲み込まれ、そうしてまた衝撃砲で地中へ押し込まれた。
(なんて力だっ……)
衝撃砲は業火を消し飛ばすほどの風圧と威力がある。っていうか、俺、殺されそうなんですけど!?
「爺ちゃん、ストップ!!」
「本音を吐き出せ、ナオト」
次の攻撃の構えを取る爺ちゃんに冷や汗が止まらない。
(さっきイオリにぶちまけたじゃん! 爺ちゃんに聞こえていないはずがないっ)
……いや、イオリは誤魔化すなって言ってた。じゃあ、どれが俺の本音なんだ?
(そっか、そういう意味だったんだ)
イオリの言う通り、俺は誤魔化し続けてきたんだろうな。これに関してはいつの日だったかユズキにも注意されたのに。
どうしよう。本音が見つからない。今まで俺が積み重ねてきた言葉の数々が、本音を底の底に隠しているみたいだ。
「お、俺、母さんが好き!!」
「……違う」
衝撃砲が放たれる。
「がっ……。会いたいっ」
「違う!」
業火で鍋の具みたいに煮詰められる。
「あああっ……。ヒロトに返したいっ」
「違う!!」
「ほんとだって!」
「根本的なものではない! だから暴走が止まらないのだ!」
クソッ。考えろ、考えろっ!! このままじゃマジで殺されるっ。
すると、爺ちゃんは俺のとは反対の言葉を助言した。
「考えるな。本音とは、素直な気持ちだ。誰かのためではなく、自分に忠実な心のことなのだ。お前は何を望む」
「……自由」
「なぜ自由を求める」
「もう、なににも縛られたくないから」
「お前を縛りつけたのは何だ」
「国民と……家族のしがらみ……」
「家族とのしがらみはなんだ」
「母さんのこと」
「ルイがいないあいだ、お前はどう思っていた」
「っ、寂しかった……」
「今は?」
「今もだよ……」
体から力が抜けていく。
「ナオト、それがお前の本音だ。誰も巻き込みたくないのも、会いたいのも、当然の気持ちだ。しかし、根底には寂しいからという感情がある」
「寂しいから誰も巻き込みたくないって、変だよ」
「先程のように紐解いてみるのだ。イオリ君が言っていただろう? お前の性格が単独行動をさせている、と。寂しいという感情は、孤独と似たものがある。これが思考を塗り替えたのだ」
ああ、そうか。俺、仲間がいるのに、自分から孤独になる方へ進んでいたんだ。誰も巻き込みたくない? 嘘つけ。寂しくて、俺が一緒にいることを望んでいるのに、なに言ってんだよ。イツキが友達になろうって言ってくれたとき、あんなに喜んでいた俺はどこへ行ってしまったんだ。
馬鹿だな、俺。ぽっかりとあいた地面の穴から、空を一点に見つめてそう思う。
「ワシも同じ失敗をした」
「冗談だろ。爺ちゃんは強いじゃん」
「なにを言うか。お前のお婆ちゃんが死んだとき、ワシは気持ちを誤魔化しながら任務に没頭した。そうやって暴走していたのだ」
「父さんから聞いたよ。結果として俺をラヅキに預けるつもりだったんだろ? ジンムのこと、知ってたんだな」
「……ああ。テンリもいる。ワシだけではお前を守れない」
「だけど、ラヅキはもういない。どうするんだ?」
「イオリ君にも頼まれたのだ。やるしかあるまい」
「な、なにを?」
「お前の自己暗示と言霊を鍛え、新たに二つの技を習得してもらう。できるまでは、ルイの捜索はさせん」
「マジ?」
「どのみち、動けんだろう」
指先すらな!
この人、ついさっきまでミイラみたいじゃなかったっけ? 俺の見間違いかな。
「修行をしながら全てを話す。しかし、他言無用だ」
「青島班には話してもいい?」
「だめだ。特に、彼女にはな」
「それってユズキのことか?」
「そうだ。悲しませたくなかったら、絶対に話すんじゃない。いずれ知ることになるだろう。……そうだろう、鬼よ」
爺ちゃんが顔を上へ向けると、キトが穴を覗き込んだ。
「末恐ろしい爺さんだな。俺の気配に気づく奴なんて、この世でお前しかいない」
「ワシを甘く見るな。少し話そう」
「是非とも」
こうして、爺ちゃんは俺を置いてキトの所へ行ってしまった。
ブクマと評価、ありがとうございます!
長かったので2つに分けました。
次回、ついに明かされるナオトとユズキの関係性。そして、猫の正体。
マヤの行動の意味を知り、ナオトの運命が大きく変わる。




