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ヘタロウと最弱・3

 上級試験が終わった後、王家が人間と混血者の分離を企てた。それを知ったラヅキは神霊湖を去った。神は、世界を見捨てた――。


 イッセイの城に戻って、爺ちゃんは悲しげにそう言った。それから、0の時代について話してくれた。




「0の時代とは、神々と王家が長きに渡り戦を繰り返した時代のことだ。戦いを終わらせたのは、白草トアだった。神はトアの言葉に心を動かされ、王家を許し、人間を苦しみから解放した。こうして時代は幕を閉じ、新時代が訪れた。……かのうように思えた」




 この戦争が勃発した理由は神側と人間側の双方に原因があったそうだ。爺ちゃん曰く、そもそもこの世界に人間は住んでいなかったらしく、神々の世界だったって話しだ。




「じゃあ、人間はどこから来たの?」

「海を渡って来たのだ。初代・カンム皇帝と一部の人々は自国を追放され、新たな王国を目指し、ここを発見した」

(王国……?)




 オウガ様と同じ言い方に口を閉じる。




「神々は王家を受け入れた。しかし、時を経て事件は起きる。五角四神(ごつのしかみ)の1体が神を裏切り、人間側についた。その者は王家と人間、そして神々の分裂を目論んだのだ。人間の弱い心の中へ上手くすり寄り、人間を自分の味方につけ、神々と戦わせた。先程も話した通り、トアのおかげで戦は終わったが、裏切り者は生きていた」

「ラヅキから聞かされていないな。五角四神とはなんだ?」

「神の使いのことだ。13体の獣と妖、そして大地を守っていた四神。五角とは、13体のうち5体が角を持っていたことからそう名付けられている」

「なるほど。それで、裏切り者は誰だ?」

「名は知らぬが、猫だ」

「「――っ!?」」




 ユズキと顔を見合わせる。




「可能性が2つって、マヤは王家を探していたのか!?」

「だが、あいつはやけに大人しくなった。僕たちの住まいを作るくらいにな」




 ダメだ。すごく胸騒ぎがするのに、これに関してはまだ情報が足りない。でも、これだけは分かった。




「威支にマヤがいるにも関わらず王家が手を組んだのは、今の王家にカンム皇帝の子孫がいないからか」

「だろうな。過去の戦争のおかげで今の王家があるんだ。むしろ、猫には感謝しているだろう」




 ……いや、それでもやっぱり何かが変だ。




「爺ちゃん、俺さ、オウガ様と話したんだ。殺されかけたけど、最後にこう教えてくれた」

「なんと?」

「王家が目をつけているのは、カンムの子孫ではなく、ジンムの子孫だって」




 爺ちゃんの顔に緊張が蔓延る。




「ジンム……だと? 確かにそう言ったのか?」

「うん。だから父さんやヒロトには手を出さず、爺ちゃんと俺だけを狙っていたって。炎の力に愛されたジンムに似ているとも言ってた」




 王家にとっての中心人物はカンムではなくジンム。弟の方だ。




「ジンムの写真も見せてもらった」

「…………」

「爺ちゃん、なんで俺……あの人に似てるんだ? 父さんじゃなくて、どうしてジンムに面影があるの?」




 あの写真を見せられたとき、俺はあることを確信していた。


 写真を見ながら思い起こしたのはトウヤだった。母さんが金髪じゃないって教えてくれた日のことだ。あの時、俺はトウヤの言葉を遮って強制的に話しを終わらせたけど、今なら勇気を出して聞ける。




「トウヤ、教えてくれ。俺と母さんは……」




――似てる?


 刹那の沈黙の後、トウヤが答える。




「いいや、少しも似ていない」




 ああ、やっぱりか。


 強く握りしめる爺ちゃんの拳へ視線を落とす。……父さんと爺ちゃんが俺に母さんのことを隠してきたのは、俺と母さんが似ていないからだ。ヒロトに関しては、確実に母さんのお腹にいて、第一子として認められた存在だ。でも、俺は?


 心臓が痛くて、鼻の奥がツンとして、言葉にならなくて、落ち込まずにはいられない。それから、こう考える。じゃあ、俺は誰の子なんだってな。


 俺の出生に関する謎が母さんを北闇から出してしまうキッカケになってしまった。




(……まあ、いいか。今はよそう)




 フゥーと大きく息を吐き出して、話しを戻す。




「とにかく、テンリは猫の意志を受け継いでいるってことだな。戦争は必ず起きるってタモン様に話してたし、ラヅキを狙っているのも間違いないわけだから……。ラヅキはテンリから逃げたのかな?」




 俺を気に掛けながら、爺ちゃんは否定した。




「神は逃げない。……ユズキ、君を守るためだ」

「僕?」

「ここにいるということは、過去に何が起きたのか知らされている。そうだな?」

「ああ……」

「五角四神のほとんどが人間によって絶命し、ラヅキは人間を心の底から憎んでいた。0の時代が終わっても、彼の憎しみは日に日に積もるばかりだった。しかし、君がラヅキを救った。無垢な心で浄化し、神に生命の尊さを学ばせた」

「だからって、どうして僕を……」

「愛しているからだ」




 ユズキの目が見開き、黄金の瞳から一筋の涙がこぼれ落ちた。




「君にももうわかっているはずだ。種族は違えど、ラヅキは生まれて初めて家族を手に入れた。育てる姿は、人間の親が子どもを愛でるのと何ら変わりなかったと聞いている。ラヅキは、君の父親。そうだろう?」

「でもっ……」

「理不尽かもしれんが、親にとって子どもの気持ちなど関係ない。天秤にかけるなら、自分の命だ。ワシがそうしたように、ラヅキもそうした。ワシが約束を果たせなかったせいでな」




 爺ちゃんは、ユズキへ深く頭を下げた。




「すまない……。ワシは、ラヅキとこう約束した。いつしか人間が学ぶ日が訪れる。それまでどうか怒りを静めてほしい、と。そうやって戦乱の時代を先送りにしてきた。だが、ワシの息子の早とちりで王家に幽閉されてしまった。ワシがきちんと家族と話し合っていれば、こうはならなかったのだ……」




 ラヅキは巨樹に封印されていたそうだ。


 闇影隊になった爺ちゃんは、幻惑の森へ訪れ、誰よりも先に動いていた。王家を敵に回して――。

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