塊叫団と最弱・9
顔面に放たれた一撃で脳が揺さぶられる。衝撃で脱出に成功したものの、すぐに足が絡まって地面を転げた。まさか、初っ端からあれだけリミッターを外してくるなんて……。
立ち上がることができず、サスケの一方的な攻撃を全身に浴びることとなった。
確かに、獣のように暴れ回るサスケを塊叫団が生身で相手をするのは不可能だろう。しかし、俺にとっては治癒能力で補える程度のものだ。
「走流野家の息子ともあろう者が、無様だね」
「俺以外の家族が全員最強なんでね」
あまり言いたくはないけど、
「俺が1番最弱だっつーの!!」
そのせいで、これまでどれだけ痛い思いをしてきたことか。ただ見ただけのこいつに分かるはずもない。俺は同情されただけだ。
とはいえ、だ。
(オウスイの記憶も含めて、こいつには聞きたいことが山ほどあるけど……)
天井から振ってくる砂埃が崩壊までのカウントダウンを知らせている。話をしている時間も惜しいくらいに、危険な状況にあるわけだ。……そろそろ脱出していてもいい頃だ。時間稼ぎはもう十分かな。
(それにしても滅茶苦茶な人だな。確かに一撃は強いけど、戦闘はど素人だ)
俺はもう焦って力を最大限にまで解放するような子どもではない。模擬訓練でイヤでも学んだのだ。サスケのやり方は、いずれ――。
「君が動かないなら、俺から行くよ!!」
サスケの一歩で、彼の背後にあった壁が瞬く間に崩壊する。
俺は紫炎をすべて防御にまわし、自己暗示のみで対抗した。
「炎・衝撃砲!!」
自ら衝撃砲に突っ込み、紫炎で跳ね返しながら拳を振るう。
「うらあっ!!」
「っ、舐めてるのか!?」
サスケの右腕を押さえると、彼は般若のような形相で怒りを露わにした。
俺の言霊を真似たのはいい。だけど、
「衝撃砲は、俺が言霊を習得した時に始めて手に入れた技だ。父さんと引きこもって、何度も何度も失敗を繰り返しながらようやく形にできた。その上で、言霊は感情に左右される代物だ」
鉄板仕込みのブーツでサスケの素足を踏みつける。膝を折ったところに上から体重をかけ、アマヨメにやられた時をイメージした。
1秒ごとに徐々に重くなっていく俺の体。サスケが苦痛の声を叫ぶ。
「がああああああっ……!! お前っ、何をした!? どうして衝撃砲を流せたんだ!?」
「帰りたいという願望も生きる理由もないって言ったな。それは、言い換えれば〝何もない〟ってことだ。致命的な欠点だって気づかなかったのか?」
もう一度言おう。言霊は感情に左右される。怒りのままに言霊を唱えれば爆発的な力を生むけど、何もないということは、彼にはそれを静める安定剤が存在しない。
解放された力は常に放出されたままで、ましてや父さんがが行った走流野家だけの訓練を受けていない彼ではコントロールができない。
グダグダ説明したけど、ようは疲れるのが早いってことだ。彼の衝撃砲は始めに比べて威力が落ちていた。
「俺は大切な家族から言霊の開花を受けた。その思い出こそが、衝撃砲の力の源だ」
「だからなんだって言うんだ!! オウスイの力を得た俺は最強の炎の能力者だ!!」
「だからっ……」
腕を引っ張り上げてサスケを背中に抱える。一本背負いで地面に叩きつけ、蹴り上げると、今度はサスケが壁に吹き飛んだ。
「お前は紛い物だって言っただろ!!」
血を吐き出して、サスケは俺に生気のない瞳を向けた。
「そもそもの出来が悪いからだ。そうだ、俺のせいじゃない……」
なんて、独り言を呟き始める。
キルが実験の成功者だって言うから警戒していたのに、実際に手を合わせてみると手応えのない男じゃないか。
この様子だと、生易しい訓練だけで戦闘経験はないし、完璧にオウスイの伝説に頼りきっている感じだ。しかも、よくよく考えてみれば、
(ガゼが中途半端にしていた実験段階の被験者を、キルが仕上げた人だ。父さんとガゼが戦った時、この人は多分見ていなかったんだろうな……)
でなきゃ、あの自信の湧きどころが分からない。
それともう一つ、塊叫団がチョッキを見せつけたのは、この茶番のための雰囲気作りの可能性がある。混血者を1人でもいいからこの場に留めておきたかったか、もしくは監視カメラなどの機械の仕組みを知っている俺を足止めしたかったか。
どちらにせよ、演技だけで見事に騙してくれた。……この人を捨て駒にして、自分たちは退散、か。
と、その時だ。天井が崩れて目の前に瓦礫の塊が振ってきた。いよいよここもヤバそうだ。
「サスケ! 脱出す」「黙れ!!」
崩壊の音よりも大きな音が響き渡る。全てのリミッターを解除したようで、サスケの能力が暴走を始めたのだ。
九尾の妖狐みたいな尾がウネウネと動き、無差別に攻撃している。連続した太くて長い包火の嵐が、広間の崩壊を後押しする。
「死ぬぞ」
「あーっはっはっは! オウスイの力だぞ!? 俺は王族に選ばれた男だ! そう簡単に死ぬものか!」
そう言って、ソウジよりも膨張した体を愛でるように眺める。もちろん、訓練や修行を日課として行っているわけじゃないから、重たくなった足を引きずりながら歩いている。
尾を避けながら少しずつ出口へ後退する。
「お願いだ。今すぐ自己暗示を解いてくれ」
「だから、死なないって言ってるだろ! 君の父親と違ってねえ!!」
俺の足が止まる。
「……今、なんて?」
「噂には聞いているよお? テンリが自慢げに話していた! 殺すのは簡単だったってなあ!」
(……こいつだけは)
「大切な家族から言霊の開花を受けたって話してたけどさあ、それって父親だろお? カスで、ゴミで、無駄死にした哀れな男!」
(……俺の手で)
「そりゃあ、死ぬさ! そもそも、王族の力がこんなに使い物にならないんじゃあ、ねえ?」
「――っ、殺すっっっ!!!!」
一歩踏むたびに映し出される、父さんとの記憶。怒るときも悲しむときも、無理して笑顔を貼りつけていた、優しさに溢れる人だった。そして、たくさんの人々を救ってきた。家にいる時間が少なくてヒロトと寂しい思いをした事もあったけど、
「うおおおおおっ!!」
葬儀の時に実感した、父さんの素晴らしさ。尊敬に値する立派な父親だった。
俺の足と、
「炎・月姫乱脚!!」
サスケの右拳が、
「炎・衝撃砲・改!!」
空気を爆発させた。
「らああああ!!」「死ねぇえ! 下等一族があ!!!!」
足場の悪いサスケの足もとが崩れる。急に抜けた力に顔を青ざめ、拳を開いて俺の足を掴んだ。
「落ち……る……」
「落ちろよ。死んで父さんに謝ってこい」
もう片方の足をサスケの頭に乗せると、サスケは闇の底へと落下した。
「っ、うわああああっ!!」
暴走した力がサスケを攻撃する。その内の一発が天井を貫いた。
「嘘だろ!?」
瓦礫が大量に降り注いでくる。あー、これはさすがに……避けきれない……。
冷や汗を流しながら、頬がこれでもかと引きつる。瓦礫の塊が鼻先に触れる。――と、そこへ、
「ナオトォオ!!」
呼ぶ声が聞こえたのと同時に、半獣化したクロムとデスに肩を掴まれた青島隊長が現れた。直撃するすんでのところで体を抱えられ、そのまま一気に上昇する。
「遅くなってすまない」
「いえ、助かりました」
「奴はどうした?」
ぽっかりと開いた穴に視線を落とす。
「……落ちました」
「そうか」
こうして、無事に脱出することができた。
奴隷になった人々もみんな外に出られたようで、海岸で俺たちを待っていた。その後ろにある地平線に浮かぶ黒い船を目に止める。
「逃げたんですね」
「我々がこの島に上陸した時点で、これも作戦の一環だったのかもしれない」
父親のようにはならない、と話していた。その可能性は十分にあり得る。
「しかし、私の方が一枚上手だったようだな」
「へ?」
青島隊長の口角が上がると、遠くから聞き覚えのある音が聞こえてきた。これは、大砲の音だ。……まさかっ。
「ビゼン!?」
「その通り。伝令隊を走らせて正解だった。とまあ、万が一には備えるものだ。そうだろう、ガイスよ」
「ええ。もうしばらく待てば、南光の闇影隊が応援で来てくれます。俺たちは先に彼らを国に帰して、後は応援に任せましょう」
「闇影隊……? えぇえ!? どういう意味ですか!?」
代わってクロムが答える。
「俺もさっき作戦の全容を知ったんだけど、ガイス隊長は念のために命令の出ていない闇影隊に指示を出していたみてぇなんだわ。俺らのこと、これっぽちも信じてねぇの」
ガイス隊長が苦笑いを浮かべる。
「違うだろ。王家が精鋭部隊を寄こした時点で、この任務を疑ったって説明した。話すならちゃんと伝えてくれ」
「へーい」
上級歩兵隊って、こんなことにまで機転を利かせるんだ。俺はまだ名ばかりの兵士ってことか……。
ブクマと評価、ありがとうございます!
次回、保護した東昇の前蒼帝・ジコクが、タモンに関する情報を公開!
そして、ナオトはユズキと話したあと、ヘタロウと再会を果たします!
再会した途端にある現象が……!?
お楽しみに!




