塊叫団と最弱・1
上級歩兵隊がこんなにも忙しいとは――。
東昇から帰ってきて早々にすぐに新たな任務が下される。マジかよ……と白目をむきかけている俺やイオリと違って、真っ直ぐと伸びた綺麗な姿勢でいる青島隊長。
「塊叫団という賊は、南光が一網打尽にしたはずでは?」
「生き残りがいたんだろう。規模が大きくなる前に潰しておきたい」
潰す? 物騒な物言いに興味がそそられる。これだけ闇影隊がいるのに、タモン様は何を懸念しているのだろうか。ユズキとヒスイも気になっている様子だ。
「塊叫団ってそんなにヤバイんですか?」
「威支が出てくるまで、世界中の人間を脅かしていたのが塊叫団だ。奴らは過去にイツキやライマルを狙い、国帝を狙い、貴族を狙い……。とまあ、高価な値で取引できそうな人物や品に目をつけては手当たり次第に暴れ回っていた」
父さんがほとんど家を留守にしていたのは、この塊叫団の討伐に増援として呼ばれていたかららしい。何はともあれ、物騒な集団ってことだ。
タモン様は、詳細は青島隊長に聞くよう言葉を紡いだ。俺たちは準備のため一時帰宅する。
……さてと、出発の前に終わらせておくか。
家に着いてきたユズキ。彼女が遊びに来るのは久しぶりだ。
「迷宮岩廊で話したことなんだけど、いいかな?」
「ああ。それで、話しとはなんだ?」
色々考えてみたけれど、ここはもうストレートに聞くしかない。
「……ユズキもさ、冬、知ってただろ」
言いながら振り返ると、ユズキは無表情を貼りつけたまま固まっていた。
「北闇を出て行った日、俺に言ったよな。いつか隠していることを話してもらうって。今日がその日だ」
ユズキの手を握るととても冷たかった。きっと、彼女も緊張しているんだ。俺だってそうだ。
「俺には生まれた瞬間からの記憶がある。だから、生まれた時に騒ぎになった事も、父さんが俺に急遽名前をつけたことも、全部覚えているんだ」
「それと冬に何の関係がある」
これくらいじゃ驚かないんだな。ユズキの感覚は俺みたいに麻痺している。当時、俺が噂話や視線を受け入れるのが早かったように、彼女も人々が仰天するような内容を受け入れるのが早い。
「母さんのお腹の中にヒロトしかいなかったのは事実だ。なぜなら、俺が別の惑星から転生した異世界人だからだ。そこには季節があって、ちゃんと冬もやって来た。だから冬を知っている。ユズキはどうなんだ? ……俺と同じ、異世界人じゃないのか?」
「――っ!?」
「やっぱりな……」
緊張がほどけていく。俺とユズキに、他の共通点があったことがこんなにも嬉しいなんて……。緩む口元を隠さずに、俺はそのままユズキに会話を続けた。
「模擬訓練の時に、牢鎖境に出てきた人の事はもう聞いてるんだろ?」
「あ、ああ……」
「あの2人は、前の世界の俺の両親だ。車で人をはねて、そのまま線路に突っ込んで亡くなった。その後に俺は転生したわけなんだけど、こんな世界だって知ったときは驚いたし、誰かにバレたらどうしようっていつも怯えてた」
すると、急にユズキは手を振りほどいてきた。そして、顔を真っ青にさせながら後退りして俯いた。
「車……、線路……」
「どうしたんだ?」
バッと顔を上げたときには、黄金の瞳に涙が滲んでいて、混乱したような焦っているようなそんな仕草を見せた。ユズキのこんな顔を見るには初めてだ。伝染したみたいに、俺自身も焦り始める。
ユズキの周りでオドオドとしていると、突然、ユズキが抱きついてきた。驚いてしまい、思わず両手を挙げてしまう。
な、何が起きてるんだ?
「前の世界でお前が住んでいた場所は、○○町か?」
「そうだけど……え、なんで知ってるんだ!?」
「っ、すまないっ……。本当にっ、すまない!!」
抱きしめている腕に力が入る。
「車がはねたのは僕だ……。僕なんだ……」
「え? なに言ってんだよ……」
「あの日、僕は母親に殺されかけていた。狂った母親は僕を刃物で刺し、出て行けと言って外に突き飛ばしたんだ。その直後に車に轢かれた。車はフェンスを突き破って電車と接触した。子どもが……車に走って行った……。そして……」
割れた窓から助手席に潜り込み、両親と共に炎上した――。
「僕のせいだ!! 僕があの人を狂わせたからっ!! 獣語や狼尖刀を隠しもせずに、これがありのままの自分だと反抗ばかりしてたから」「ユズキ!!」
パニックになるユズキの方を強く掴む。怯えた彼女と目が合った。
「ユズキのせいじゃない」
「だけどっ……」
「イツキの言葉を真似るわけじゃないけど、痛みは半分こだ。俺は大丈夫だから」
「ナオ……ト……」
「もう大丈夫。1人じゃないよ、ユズキ」
もっと早くに気づいてあげるべきだった。ユズキの一番の悩みの種を見逃していた。
俺は一度だって言霊や自己暗示に苦しめられたことはない。俺を苦しめたのは、異世界から転生したということだ。ユズキもそうだろう。獣語や狼尖刀に苦しめられたんじゃなくて、異世界から来たという、信じ難い事実だ。
きっと、威支にも話してなかっただろう。いや、話せなかったはずだ。
「共通点、あったじゃん」
「とんでもないやつがな」
こうして、俺は胸の奥にくすぶりを残したまま北闇を出発したのであった。




