最強変異体と最弱・4
ライアから話しを聞く前に、まずは威支の調査報告から始まった。
俺が頼んでいたグリードの件で、威支は陸を、海賊は海を徹底的に調査していたらしい。ちなみに、陸にはそれらしい痕跡は何一つ見当たらず、出生場所を発見することは出来なかったとかなんとか……。
しかし、グリードで行き詰まったというだけで、変異体の方はというと――。
「奇妙な事件、だと?」
青島隊長が眉を寄せる。
「ああ。おかしな事に、大国ではなく、小さな村や町の至る所で数人単位で行方不明者がでていた。近くに隠れていたのは、ネネが討伐した変異体だ」
ネネがこくりと頷く。
9体討伐された変異体のうち2体は幽霊島と孤島、3体は迷宮岩廊、残りの4体は陸に隠れていた。海流から外れてしまったのか、はたまた最初から陸を彷徨っていたのか。青島隊長は、今となっては深く考える必要はないと言って、ライアに向いた。
「これが現状だ。して、ライア殿は何の罪を?」
「俺は、人体実験での補助役を務めていました。拒否反応が現れたときに数人がかりで抑えつけ、動きを封じ込める。それだけの職務です。ところが、重度の肉を食べた彼らの力は人によって差異があった。運が悪いことに、俺たちが抑え込んでいたのは成功者で、まるで暴れ牛みたいに藻掻き苦しんでいた……」
ライアたちの力では足りず、強行手段に出た彼らは成功者を傷つけてしまったそうだ。蛍は大激怒し、罰を与えた。
ここで、イオリがライアの顔を覗き込むようにまじまじと見つめだした。そして、
「どっかで見たことあんなと思ったら、やっぱりな!! てめえ!!!!」
胸ぐらを掴み上げ、棒のような体を振り回す。慌てて青島隊長が止める。
「イオリよ、どうしたというのだ!?」
「こいつっすよ!! 俺の左目をペンチで抉り取りやがったのは!! ぶっ殺してやるっ!!」
試験中に感じた酸っぱい物が再び喉をせり上がってくる。王家ではなく、南光の闇影隊がやっただなんて……。とてもじゃないが、俺にはイオリを止める事は出来なかった。ユズキとヒスイも苦い顔で黙って見ているだけだ。
「有り難てえことに、俺は人の憎悪が他人に伝染するってことを北闇で学んでっからよ、親にも黙ってんだわ!! ド陰キャのこいつみたいに左の前髪だけ垂らして、お洒落だとか適当に誤魔化して!! 俺の気持ちがわかるか!? わかるわけねえよな!! てめえも消化されればよかったんだ!! クソが!」
青島隊長に羽交い締めにされながら、左目を押さえて猫みたいにフーフーと息をするイオリ。だけど、相手は痩せ細った人間だ。舌打ちをして胡座をかいた。
「ごめん、話しを逸らしちまった。続けてくれ」
ライアは小さな声で謝った。
「それで、成功者は何人いたのだ?」
「腹に閉じ込められていた仲間の一人が、10人しかいないって声を聞いたと言っていました」
その内の1人がイオリだというわけか。出会えたことが奇跡に感じてくる。
その後、ライアの話しで王家内にグリードはいなかったことがわかった。地下にいたユズキも同様だ。しばらく沈黙し、まだ情報が足りないのかと皆が悩んでいたその時、
「オッサン、もう一度話してくれ」
イオリがそう言った。ライアは変異体の腹に閉じ込められるまでの経緯を話し、イオリの返事を待つ。そして、
「やっべ、俺って天才かも……」
遠くを見つめながら、なにやら記憶を掘り返している。
「えっと、まずは威支と海賊。南光の海流を流れて迷宮岩廊からの、陸には痕跡なしだっけか?」
「だいぶ大雑把だが、そうだ」
呆れるユズキを無視して、次は、
「威支は、キトが王家内で痕跡を発見出来なかったことから、王家は無関係だと〝思い込んだ〟っつーことか」
「思い込んだ、だと?」
「だってそうだろ? 王家が知らなかったにせよ、オッサンが城で食われたのは確かじゃねーか。つまり、そこに変異体はいたんだ」
「それはそうだが、国に進入した可能性もある」
「……いや、ねーわな」
どこから湧いた自信なのか、とにかくイオリはそう言い切った。
「俺ら全員、グリードと変異体に振り回されて肝心なことを見落としていた。ここに答えがあるっつーのによ。ってか、俺が誰よりも早く気づくべきだったんだけど……」
イオリがライアに向き直る。
「成功者は10人。間違いねえんだな?」
「ああ……」
「……変異体は実験の成功者だ。まあ、成功っていうか、後から副作用がでたんだろうけど。俺が言いたいことわかる?」
「だから、大雑把だと言っている」
ライアではなくユズキがそう答えると、イオリは頭を捻って話し始めた。もともと、イオリは根拠や経緯を詳しく話すのが苦手なタイプだ。
「順を追うと…。つまり、実験の失敗作だって言われた奴らがグリードで、変異体は成功者だと思われた10人の内の9人が正体で……。唯一の成功者は俺だけだってことだ」
「いや、待て。どうして変異体が他の成功者だと思ったんだ? グリードに関しても同じ事を言えるが」
「じゃあ、成功できなかった奴らはどこに行ったんだよ。成功者は? 俺は会ったことねーぞ。任務でも、試験でもな。それに、変異体は人間に似た部分がいくつかあるし、グリードだって闇影隊みたいな軍隊意識がある。あいつらがもともとは人間だったらどうだ?」
最大の鳥肌がたった。
グリードがハンターを襲う理由。誰かに従って動く理由。変異体の手足が人と同じだった理由。その全てが繋がっていく。……じゃあ、あの時の声は?
(やべどって、まさか、やめろ……?)
急に逆流してきた嘔吐物。俺は……、人を殺したのか……?
ユズキが何かを思い起こす。
「地下を脱出するときに大きな煙突を見つけた。城にまで繋がってそうな高さがあって、その下は血だまりだった。血の跡は外に向かい、王家から出た……。そうかっ!!」
「ユズキよ、煙突とはなんだ?」
「用途が不明だったが、今わかった。城内に繋がっている時点で変だったが、おそらく捨てたんだ。募った参加者をな……。壁の外に通じる穴に直結していたことから、ハンターに処理を任せていたんだろう。だが、処理されるはずの参加者は全員が重度の組織を口に入れている」
「――っ、突然変異か!?」
その言葉に、ライアの顔が青ざめていった。
「蛍様は俺たちを殺すつもりで……」
そういえば、腹の中でライアから話しを聞いたとき、彼は「落下した」と言っていた。煙突に落とされ、地下には彷徨い込んだ成功者が潜んでいた、というわけか。いったいその身に何が起きたのか、成功者は母国へ帰ることが出来ず、変異していく体を隠すためにそこに隠れたのかもしれない。
陸にいた変異体が潜んでいた場所は、彼らの母国である可能性が高い。他は、
「……自分の姿を見られたくなくて海に逃げたんだ。イオリとユズキが正しいなら、王家が知らないのも当然だ」
勇気を振り絞って強くなろうとした彼らに、王家は敬意を払わなかった。最後まで見届けなかった結果がこの惨事を生み出したんだ。
とにかく、イオリのおかげでグリードの謎が片付いた。証明するには、
「タモン様に許可を頂き、北闇からの参加者の遺体を確かめる。棺に何も入っていなければ実証されたことになる。王家がそこまで愚かだと思いたくはないが、やるしかあるまい」
ネネにライアを任せて、青島班と威支は北闇へ帰還した。
評価とブクマ、ありがとうございます!
次回、母親の行方の捜索許可がおりた青島班と、それを邪魔する大規模な賊の組織!!
彼らの目的は薄紫色の瞳や実験成功者の売買!? お楽しみに!!




