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俺の家族が全員最強でした――。チートは問答無用でフルボッコ!  作者: 犬丸
SEASON・1――/第一章・少年期編・1
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【逸話】猪狩り・2

 軍事食料調達班の男は、狩猟範囲の最終地点で歩みを止めた。そこから先の森には足を踏み入れた事がないらしく、どうやら道案内はここまでのようだ。


 ここから先は安全面を考慮し混血者のみで進まなければならないが、猪の痕跡など混血者にわかるはずもなく、リーダーだけは連れて行くことにした。




「我々はどうしたらいいですか?」




 黒と青を基調とした上着を着る闇影隊がハルイチにそう尋ねた。




「念のためにここで調達班を護衛してくれないかい? 主の怒りは仲間に伝染してるかもしれない。となると、対象は1体じゃ済まなくなる」

「了解しました。お気をつけて」




 こうして、ハルイチ率いる混血者達は森の奥深くへと消えていった。


 しばらく進んで、リーダーは次々に猪の痕跡がある場所を発見していく。


 まず目に付くのは掘り返し痕の多さだ。餌を求めて猪が掘り返した痕がかなり広範囲にある。さらに奥へ足を踏み入ると、通ったばかりであると推察されるけもの道と、木へ体を擦りつけた跡を見つけた。


 それから痕跡を追うように歩みを進めた所で、ここら一帯は猪の縄張りであろうとリーダーは結論づけた。




「おかしいですね。こんなに真新しい跡がたくさんあるってのに、猪一匹いないとは……。混血者の方々に恐れ戦いて逃げたのだろうか」




 リーダーは安心しきった様子だった。緊張の糸が切れ、笑う余裕すらある。ところが、ハルイチ達はリーダーの方に見向きもせず、忍び足で後退していた。音を立てないように、つま先から(かかと)にゆっくりと体重をかけていく。


 リーダーとハルイチの目が合った。




「何をしているんですか?」




 ハルイチが慌てて閉じられた扇子を口の真ん中に当て、静かにするようにと訴えた。




「早く行きましょうよ」




 リーダーの目が据わった。


 数メートルほど距離を置いたところで、ネネは仲間の気配を消し始めた。




蛇華(じゃか)失踪劇(しっそうげき)……」




 その言霊を耳にした途端に、リーダーの顔から血の気が引いていった。




「おいおいおいおいっ! 何してんだ! わしを置いていく気か!?」




 ついさっきまで自分の後ろにいた混血者達が次々に消えていく。最後に残ったのはネネとハルイチだった。


 リーダーは走った。ハルイチに手を伸ばしながら、確かに感じた気配に己が立っていた場所へ振り返る。そうしながら、男の顔は空を仰ぐようにして上の方へ向いた。そして、すぐさまハルイチの方に顔の向きを戻した。そこには、眉を下げながら口だけを動かして、「すまない」と言うハルイチの姿が。




「やめてくれ、置いていかないでくれ……」




 ハルイチの着物にもうすぐで手が届く。リーダーは渾身の力を振り絞って地を蹴った。手の甲にハルイチの扇子がコツンと当たった。リーダーの手は虚しく風を切り、そして一回転しながら地面を転げる。


 ナニかが、人差し指と親指でリーダーの頭を掴み持ち上げた。




「ひっ……、この裏切り者ぉお! 人でなしっ! ――っ、離せぇ! いやだ、いやだぁあ!!」




 ナニかは、リーダーをハルイチめがけて振り下ろした。その勢いの凄まじさにリーダーの体はついていけず、首の中間辺りから皮膚が裂けていく。




「ひっ、やめっ」




 地を撒き散らせながら首から下が何処かへ飛んでいった。残った頭部がハルイチの足もとに叩きつけられる。地面が陥没したのを見て、ネネは言霊の威力を強めた。そして、ナニかから逃げるように、息を殺しながら移動を開始する。


 姿が見えなくなったところで、やっとハルイチが口を開いた。




「アレは……、アイツはなんだい?」

「報告にはありませんでした。対象は猪のはず……」

「俺には猿に見えた。10メートル超えのな」

「私もで――っ、ハルイチ様! 危ない!」




 会話の途中で、ネネがハルイチの身を守るように覆い被さりながら座り込んだ。直後、頭上を圧のある突風が過ぎ去っていく。




「どうしてなの? 姿は見えていないはずなのにっ」




 猿が太い腕を横一文字に振ったのだ。辺りの木々が簡単に折られてしまう。ここで、ハルイチの顔にようやく焦りが見られた。


 だが、まだ気持ちに余裕が残っている。目を細めて猿を観察し、ネネの言霊が無意味であると気づく。




「言霊を解け。全員、全速力で逃げるぞ」

「どういう意味ですか?」

「アイツは聴覚が発達しているようだ。鼻を使うのではなく、しきりに耳で探っている」




 小さな声ですら猿には聞こえてしまうようだ。ネネと猿の視線がぶつかる。と、その時だ。




「ハルイチ様ぁあ! ハルイチ様ぁあああ!」




 声は狩猟範囲の最終地点の方から聞こえてきた。猿がネネから目をそらせた。




「――っ、マズイわ!」




 大きな影が混血者達を跨ぐように飛躍した。着地すると、地震にも似た揺れがハルイチ達を襲う。全員が膝や尻をついた所を確認した大猿は、声がした方へ一気にスピードをあげた。


 猿が木の枝を伝っていくのと同じで、大猿もそうして移動していく。掴んだ枝は次々に折れていき、ハルイチ達の行く手を遮った。




「追え!」




 ハルイチのかけ声で皆が半妖化し、大猿の後に続く。


 大猿より遅れて最終地点に到着すると、そこは血と肉塊の海と化していた。




「ハルイチ様!」

「報告!」

「――っ、はい! ハルイチ様が出発なされて1時間ない頃、猪が突如として出現! その体長、はっ――」




 ハルイチの目の前で、蟻を踏み潰したみたいにぐしゃりと闇影隊が潰れた。頭から血を被ったハルイチは目を丸くして足もとを見る。



「おたっ、お助けをっ!」




 軍事食料調達班の1人がハルイチの足にしがみついた。腰が抜けてしまい、失禁までしている。肩には大きな穴が空いていた。すると、臓器を押し出しながら、その者の腹から白い角のような物が突き抜け、身体を持ち上げられた。


 宙を浮きながら手足をバタつかせる。突き刺したのは対象の猪であった。


 ハルイチはまた血を浴びた。目を閉じて扇子を帯の間に挟む。その間に、ハルイチへ助けを求める仲間の声が雑音のように彼の耳に届いていた。しかし、ハルイチは微動だにせず、声を聞き流していく。


 その姿を見たネネは、頬を赤らめながら両腕で自身を抱き、悶えた。




「ハルイチ様、いいですよ。私めが見届けますっ」




 ハルイチが両眼で猪を捕らえる。


 ハルイチの左腕が大きく跳ね、蠢いた。まるで骨を抜かれたかのように、関節が見当たらない。5本の指は全てがある生き物へと変貌した。「シャー」と威嚇し、ハルイチと同じく猪を睨みつけている。


 すると、左腕が伸びた。腕は蛇の鱗が鮮やかな艶を放っている。


 人差し指が伸びて猪の後ろ足に巻き付き動きを奪った。2メートルもある巨体を軽々と持ち上げる。暴れながら泣き声を上げる猪の口へ容赦なく中指が侵入し、薬指と小指は腹と首回りを締め付けた。




蛇華(じゃか)蛇葬縛(じゃそうばく)




 ハルイチが言霊を唱えた。すると、猪の巨体に4本の指が食い込んでいった。まず、猪の後ろ足が切断された。続いて腹が外側から裂け、その隙間から口に侵入した中指が顔を覗かせる。この時点で猪は野生で生きていく術を奪われた。それを目の辺りにした猿が咆哮し、ハルイチに踵を振り下ろす。


 だが、ハルイチの親指がまだ残っていた。瞬時に猿の方へ向き、牙を剥き出しにしながら胸に噛みつく。牙が刺さると、それは大きくなった。


 ハルイチが左腕を引っ張った。猪の身体が真っ二つに裂け、首が転がり落ちる。猿の胸は斜めに裂かれた。猪が絶命し、猿はよろめいた。




「今のうちに逃げましょう! この人数じゃ太刀打ち出来ません!」




 闇影隊が叫ぶ。辺りを見渡すと、いつの間にかあの猪よりかは小さい猪が、何十匹単位でハルイチ達を囲っていた。それに比べて、72名もいた仲間は3分の1にまで減っている。


 猪の首を拾いながらハルイチは舌打ちをした。小さな猪達のおかげで、猿が北の山を西方面へと逃走したからだ。




「……総員、撤退」




 声と同時に全員がその場を離れた。猪達は追ってこなかった。その代わり、一生記憶に残るかのような、山を揺るがすほどの鳴き声が背中を直撃する。着物で隠れて見えてはいないが、ハルイチ身体には鳥肌が這っていた。




 ❖




「ハルイチ様、ただいま戻りました」

「ご苦労様」




 宴会が行われていただだっ広い部屋に彼は1人で座っていた。いつものようにハルイチの足もとに跪くネネに「楽にしてくれ」と言葉をかける。




「蒼帝殿はもう南光に着いただろうか」

「どうでしょう。歩幅の狭いお方ですから」

「冗談は抜きでだ。……猪の首を見てどんな反応だった?」

「アレごときで大変驚かれてましたよ。それよりも、私にはずっと頭に引っ掛かっている事がございます」

「なんだい?」




 隣に腰を下ろしたネネ。見えない何かに怯えているような顔であった。




「闇影隊から報告を受けている時、彼は猪の体長を告げる前に亡くなりました」

「それがどうしたんだい?」

「私達は、リーダーから主の体長は2メートル以下だと聞いております。ハルイチ様が捕らえたあの猪で間違いは無いでしょう。しかし、彼は8メートルと言っていたような気がして……。私の聞き間違いならいいんですが」

「死人に口なし、か。確証を得られない内容を蒼帝殿に伝えるわけにもいくまい」

「そう言われると思い、この事は口にしておりません」

「しかし、不安はくすぶっているのだろう?」

「もはや炎上に近い物を感じていますわ。話を戻しますが、念のためにタモン様へ情報を流すよう伝えておきました。猿が逃げた方角を考えると、次は北闇の可能性が高いので」

「助かる。さて、仮にあの猿が北闇の闇影隊と交戦したとしよう。結果はどうなると思うかい?」

「混血者はさておき、あの国には有名な一家が住んでいます」

「確か、走流野家……だったかな?」

「はい。あの一家の誰かが任務に加わる、これは高い確率で予測出来ますわ。でも、おそらく東昇の二の舞でしょうね。ハルイチ様が取り逃がすほどの大物です。あなた様に捕獲出来なかった獲物を北闇が捕獲出来るとは思えませんわ。むしろ、心配なのは――」




 そこまで言ってネネはハルイチの横顔を見た。雰囲気でわかる。それ以上は口にするなと、ハルイチが言っている。




「……申し訳ございません」

「いい。アイツの事はこの俺がよく知っているからな」




 こうして、猪狩りは幕を閉じた。


 2人の推測通り猿は北闇へ向かって移動し、立ち寄った真っ暗な洞窟に身を潜めている。ジッと出入り口を睨みつけたまま、胸の傷に手を添えて荒々しく呼吸していた。その後、北闇と一戦を交えることとなった。

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